感情制御のためのビーチボールのメタファー
ビーチボールのメタファーは感情制御、特に不安の制御に非常に有効です。これは視覚化戦略であり、クリエイティビティも少し絡んできます。人はそれぞれ物事に異なる形で対処しますが、このエクササイズではその事実が強調されているのです。
臨床心理士が用いるこういったツールの妥当性を評価するためには、まず「心理療法におけるメタファー」とは何を意味するのかを理解しなくてはなりません。これは、最初の発端となった考えや思い込みと、それに関連するいくつかの個人的な問題との関係性について患者に気づかせ、うまく理解させるための物語や言い回しなどを指します。
最も有名な心理療法におけるメタファーの一つが、流砂のメタファーです。このメタファーは、ある問題に対してもがけばもがくほど、より深く沈んでしまう場合があることを患者に理解させる目的で使われます。今まで向き合うのを避けていたことの中に解決策が潜んでいることがしばしばあるのです。
こういった思考エクササイズには一連の心理学的プロセスが必要になりますが、これらは心理療法中に非常に有益なものです。まず、患者はメタファーの内容について理解しなければなりません。次に、自分の状況をそのメタファーに当てはめて考えます。その後、メタファーが説明している内容と自身に起こっていることとの結びつきを理解していくのです。最後に、患者は自らの個人的な生活の中で役立つであろう戦略を、心理士が紹介したメタファーを基にして考えていきます。
心理士は患者の理解を円滑に進めるための役割を引き受け、このエクササイズによって明らかにされた課題を解決させられるよう手助けをしなければなりません。
ビーチボールのメタファーとは?
ビーチボールのメタファーを効果的なものにするためには、視覚化について話すのが望ましいとでしょう。心理学者マッカリーとヘイズが「Clinical and experimental perspectives on metaphorical talk(メタファーを用いた話法に関する臨床的および実験的観点」という研究の中で指摘したように、心的イメージを作り上げることで患者はのちにメタファーを思い返しやすくなります。こうすることで必要な時にいつでもこれらを用いられるようになるのです。
それでは、このエクササイズについて詳しく見ていきましょう。
頭の中で、以下のような状況を思い描いてみてください…
あなたはビーチにいます。空は晴れ渡り、心地よい天気です。この完璧なひと時は光で満ちています。しかし、あなたの気分はあまり良くありません。不安を感じ、様々な感情に押しつぶされそうになっています。これらの感情は互いに入り乱れ、苦痛を生み出しそうな様子で飛び交っているのです。あなたは恐怖を感じ、恥ずかしく思い、心配なこともあり、怒ってもいます。
- この情緒世界全体が、一つのビーチボールに集約されます。この物体はあなたが抱えている全ての感情を象徴しているのです。ボールはあなたを非常に煩わせているため、あなたはボールを排除したいと考えます。では、そのためにはどうすべきでしょう?あなたは海の方へ歩き出し、ボールを水に沈めようとします。
- この状況を詳しく思い浮かべてみてください。あなた自身がこのビーチボールを沈めようとしている様子を想像してみましょう。あなたは、この行為を人に見られたり気づかれたくありません。ただボールを永遠に消し去りたいだけなのです。海流がボールを運び、そのまま二度と戻ってこなければいいのに、と願います。しかし水の中に押し込む度に毎回、ボールは水面に浮かんできてしまいます。実は沈ませようと頑張れば頑張るほど、浮かび上がってくる力は強くなってしまうのです。水面に上がってくる勢いが強すぎてあなた自身にボールが当たり、バランスを崩してしまうことすらあるかもしれません。
どうすればこの問題を解決できるのか?
メタファーの内容を理解したら、次のステップでは少し労力が必要になります。この記事の冒頭で述べたように、この段階ではわずかながらクリエイティビティが求められるのです。より適切な解決策を編み出すためには、以下のような要因を頭に入れておかねばなりません。
- ビーチボールは、あなたがしばらくの間隠し続けてきた不安や恐怖、怒り、恥といった感情を象徴する存在です。ただ、あなたにはこれらを心の奥底に潜ませておくことでどんな弊害が及ぼされるかがわかっています。
- では、あなたはこのメタファーにおける板挟み状態に対してどんな解決策を提案しますか?
最も適切な答えは、「ボールを沈ませようとするのをやめる」というものです。実現不可能で不健全な作業にエネルギーを費やすのはやめましょう。 ただ感情を隠しても効果はありません。見えないところに強制的にしまい込もうとしても、問題が悪化していくばかりなのです。
そうではなく、ボールを手に取って砂浜に穏やかに腰を下ろし、しぼませましょう。ボールの空気を全て抜いてしまうのです。それが完了すれば、気分はぐっと良くなり、安堵できるはずです。しかし、これを実現するためには空気穴がどこにあるのかを知っておく必要があります。
ここでビーチボールのメタファーは、各人が不安や恐怖、恥などの感情に対処するためのその人ならではのやり方を見つける手助けをしています。「メカニズム」を知ることで、なぜ自分がそのような感じ方をしているのか理解することにつながり、こういった負の感情から解放されるための近道が示されるのです。
もちろんそれは簡単なことではありませんが、感情を抑え込もうとするのはビーチボールを水に沈めようとするのと同じような行為だということを、患者はこのメタファーのおかげで思い出すことができます。そのようなやり方では単に効果がないのです。代わりとなる健全なアプローチは自らの感情を受け入れ、理解し、手放してあげることです。
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- McCurry, S., & Hayes, S. C. (1992). Clinical and experimental perspectives on metaphorical talk. Clinical Psychology Review, 12, 763-785.