無為症候群:多くの人が苦しむ、誤解の多い病状
無気力状態でいることは、痛みを伴います。やる気も熱意も失われ、何かを決めたり行ったりすることができません。これは疲労の一種ですが、長々と働いた後に感じる疲れとは全くの別ものです。無為症候群は身体を酷使したことで引き起こされる訳ではありません。そうではなく、無為症候群になると思考が困難になる場合があります。
このような状態になった人はよく、周囲の人々から数日間休みを取って休息し、ゆっくり過ごすよう勧められます。しかし無為症候群はそんな風にしても解消されないのです。これは幸福というものが理解できなくなってしまったり、あるいは10時間も眠ったとしても緩和されないような心理状態です。
無為症候群はしばしば、無快感症や無力症といった似たような用語と混同されてしまいます。これらすべてが抑うつ状態に関連するものであり、同時に表出する場合があることは事実ですが、それぞれが独自の特性を持っているのです。
今回は、無為症候群について裏から表まで詳しく見ていきましょう。
無為症候群 − 病的なほどのモチベーション欠如
無為状態とは、文字通りに言えば「意思のない状態」を意味します。これ自体が精神疾患というわけではなく、むしろ症状の一つです。この病的なほどのモチベーションの欠如を引き起こすと考えられる原因は多岐に渡りますが、その全てに共通して甚大な苦痛というものがあります。医学的観点から見ると、無為症候群は神経学的問題が原因となっている場合の多いモチベーションの変容である、と言うことができるでしょう。
人間なら誰もが無気力状態ややる気の出ない状態を味わったことがあるはずです。しかしそれらは大抵一時的なものであり、私たちは長期的な影響に苦しめられることなくその期間を乗り越えることができます。しかし中にはこういった感覚をもっと強烈に経験してしまう人々がいるのです。他人とのコミュニケーションを一切断って、全てのことや人から自分を切り離そうとするかもしれません。これは極端な例ですが、多くの症例で無為症候群が存在しているのです。穏やかな症状で済む人もいれば、患者本人およびその周囲の人々にまで害が及ぶほど痛ましい病的な状態になってしまう人々もいます。それでは、これについてもっと詳しく見ていきましょう。
無為症候群の症状とは?
前述の通り、無為症候群は単なる無関心状態や、日々の義務を果たす意欲が湧かない状態以上の病状です。以下にその症状の例をいくつか挙げています。
- 日々のタスクを実行するエネルギーの欠如。
- 疲労感、モチベーションの欠如、イニシアチブ(率先性)の欠如。
- 緩慢な動作。
- 刺激へ反応する能力の欠如。
- 決断を下したり周囲の物事・人からの要求に答えることができない。
- ゆっくりした話し方。他人から語りかけられている内容を理解するのが難しい場合がある。
- 感情面の弱さ。たくさんの感情を一度に感じ過ぎて疲れてしまう場合がある。
- 極端なケースでは、無為症候群が発話障害を引き起こす。
特に重要なのは、子どもや高齢者の無為症候群の症状に気づいてあげることです。無関心やモチベーションの欠如は年齢のせいにされやすく、その背後に隠れている問題が無視されてしまう可能性が高いのです。しかし無為症候群はこれらの年代の人々にも起こり得ますし、その根本原因を解明しなければなりません。
無気力状態になる原因
数十年前、専門家たちは無為症候群とは精神遅滞の一種であると考えていました。彼らによれば、人は突然知能や感情、そして動作の遅れを示すことがあり、それがある種の精神的退行を明示しているというのです。喜ばしいことに現在ではこの精神状態に関してもっとたくさんのことがわかっています。
- 無為症候群は普通、大うつ病の症状の一つとして現れる。
- また、神経疾患の一症状の場合も考えられる。脳の損傷、脳卒中、あるいはその他の病気が脳に影響して無為状態が引き起こされる場合がある。
- ワシントン大学で行われた研究などは、線条体あるいは視床核の損傷も無為症候群を引き起こす場合があることを明らかにしている。
- 前頭部や大脳基底核、あるいは前帯状皮質など、脳内のモチベーションや動作の中枢が損傷することでもこの状態が引き起こされ得る。
- また、スコポラミン(ヒヨスチン)という薬物も一時的な無為状態を引き起こす。つまり、ヒヨスチンを服用すると一時的に意思が失われることがある。
治療
無為症候群の治療は、この状態を引き起こしている障害や精神疾患によって常に変わってきます。脳に損傷がある人とうつ病患者とが同じニーズを抱えているわけではありませんよね。
そうは言っても多くの場合、処方薬が治療の選択肢の一つとなります。ダニエル・A・ドルバチとガブリエル・ゼイリグによって行われた研究などでは、カルビドパやレボドパが無為症候群の治療に有効であることが示されました。これらの薬品はドーパミン生成を促進し、中枢神経系に有益に働くため、効果が期待できるのです。
- 一方で、心理療法もまた適切です。これに関してはモチベーションを改善するための手段を患者に提供してあげることが目的となります。患者はまた、自らの思考に注意を向ける方法や感情を調節する方法を学んだり、現実世界での主導権を取り戻すのに役立つような新しい行動の取り入れ方を学ぶこともできます。
- さらに、運動やスポーツを行うセラピーからも興味深い効果が得られたことが明らかになりました。こういったセラピーでは、シンプルながらもモチベーションの湧くようなアクティビティを通して患者が再び体を動かすことができます。体を動かすことでエンドルフィンの生成が増加するので、患者は再び自らの体と通じ合えるようになるのです。
まとめると、無為症候群とは決して無視すべきではない症状だということが言えます。モチベーションの欠如や無気力な状態が生活に支障をきたし、長期間それが続いているのであれば専門家の助けを求めるべきでしょう。
引用された全ての情報源は、品質、信頼性、時代性、および妥当性を確保するために、私たちのチームによって綿密に審査されました。この記事の参考文献は、学術的または科学的に正確で信頼性があると考えられています。
- Das, J. M., & Saadabadi, A. (2023). Abulia. In StatPearls [Internet]. StatPearls Publishing. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK537093/
- Garzón, M. (2022). Intervenciones psicosociales efectivas en pacientes con trastorno de bipolaridad. [Tesis de Maestría] Universitat Jaume I. https://repositori.uji.es/xmlui/handle/10234/201626
- Matos, A., & Manzano, G. (2021). Bases neurológicas de la depresión. Analogías Del Comportamiento, (19), 1-16. https://revistasenlinea.saber.ucab.edu.ve/index.php/analogias/article/view/5165
- Siegel, J., Snyder, A., Metcalf, N., Fucetola, R., Hacker, C., Shimony, J., Shulman, G., & Corbetta, M. (2014). The circuitry of abulia: insights from functional connectivity MRI. NeuroImage: Clinical, 6, 320-326. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4215525/