愛する人の死:どう向き合えば良いの?
生きていれば、愛する人を失うという経験をするのは避けられません。しかし、避けられないものであるにも関わらず、私たちにはこのような情緒的な痛みや精神的混沌、そして予想だにしない不公平な別れがもたらす衝撃に向き合うための心の準備がほとんどできていないのです。
ヴィクトール・フランクルはかつて、苦しみが人の頭脳をより明晰にし、世界の透明性を高めるのだと述べました。このスピーチセラピーの父は、痛みが私たちの視野を広げてくれると考えたのです。それは本当なのかもしれません。しかし、頭脳をそのような完全に明晰で、かつ事実を受け入れられる状態にするためには、ある程度の時間や、適応と内面的な作業のための複雑なプロセスを乗り越えることが求められます。
このような職人の域に達する上で必要なのは、一連の戦略を取り入れることです。その戦略の中には様々な変化も含まれます。これらが、心の治癒と喪失の消化を目指す道のりを歩みやすくしてくれる、日々の小さな要点となるのです。愛する人のイメージが消えて無くなることは決してないとは言え、やがて誰もがその人物の記憶と共に新たな人生のステージで暮らしていけるようになるのですから。
“死は癒えることのない傷となり、愛はかけがえのない記憶となる”
-リチャード・ピュズ-
愛する人の死 − 新しい現実に適応するための戦略
愛する人を失った事実を受け入れ、吸収することはややこしいプロセスです。そのため、人によってその経験の仕方はそれぞれ変わってきます。心理士などのサポートが必要になる人もいれば、一方で、個人的に内省と回想に浸る時期に入ることで自分自身を立て直し、混乱や怒り、悲しみ、そしてグリーフ(悲嘆)といった感情を管理できるようになる人もいるのです。
各々がその人独自のやり方で、それぞれ具体的な戦略を用いて心の穴を埋めようとします。いずれにせよ、どのケースにおいても最も重要なのは、グリーフという精神状態を停滞させたり永久的なものにしてはならないということです。そしてこういったシチュエーションに少しでも上手く対処できるように、有用なリソースやアプローチを手に入れておくことが大切です。それでは、この点について詳しく分析していきましょう。
感情一つ一つが正当である
苦悩、肉体の疲労感、矛盾しているような感覚、恐怖心、フラストレーション、そして怒りに至るまで、これらは全て愛する人の死に伴って現れ得る感情で、発作的で強烈な上、表現するのが困難です。しかし、こういった感情を抑圧してできる限り早く元どおりの正常な自分に戻らねば、と考えることだけは絶対にしてはなりません。
急ぐのはやめましょう。何事にも時間は用意されています。身近な人が亡くなるという事態が起こり、警察あるいは保険会社とのやり取り(必要であれば)が完了したら、まずはお通夜あるいはお葬式の場で最後の別れの挨拶をしなければなりません。
その後、事実を受け入れるためのプロセスが始まります。ここでは全ての感情を解放し、その存在を認め、居場所を与えてあげねばなりません。なぜなら、喪失による痛みの原因になっている要素は悲しみだけではないからです。実は、他にもたくさん、統御し、淀みなく流れに乗せ、受け入れなければならない感情が存在しています。
愛する人を失った後も、会話し、他者と交流し、アクティブでい続けることが重要
グリーフは過程であり、状態ではありません。愛する人の死を受け入れられなくさせている要因の一つは、切望やノスタルジア、そして過去の記憶にばかり目を向けていることです。そうではなく、今この瞬間を生きねばなりません。そのためには、アクティブな生活を維持するようにしましょう。
感情を受け入れたり発散したりするのに必要な内省の期間を過ごした後は、社交生活に戻ることが大切です。友人や家族と話すと、痛みが和らぎます。また、これまでのルーティーンに戻ることで、頭脳を過去のことばかりではなく「今、ここ」にも強制的にフォーカスさせることができるはずです。果たすべき責任を持ち、新たな目標やプロジェクトを設定すれば、人生はこの先も続いていくという事実を思い出すことができるでしょう。
ここで罪悪感を抱いてはなりません。生活を取り戻し、他人と交流し、再び外出するようになったとしても、失った相手を忘れてしまったことにはならないのです。悲しみから回復することは、死者の記憶に対する冒涜にはなりません。やがてその思い出のおかげで、痛みによって硬直してしまうことなく相手のことを思い続けられるようになるでしょう。どんなケースであれ、グリーフの過程では死を受け入れるための動きが必要なのです。
愛する人の死に関連する不安感への対処
グリーフ過程において不安感が生じるのは、愛する人を失った経験をした人によく起こる現象です。色々な感情のせいでがんじがらめになり、思考が混沌と化して心が無力な状態に陥ってしまい、それが数ヶ月間も続く恐れがあります。
ご覧のように、死者が残した心の穴に慣れるのは簡単ではありませんし、痛みや思い出が重くのしかかっている状態では再び自分の人生の手綱を握り直すのは困難です。したがって、そのような場合には専門家の元を訪れるのが常にベストだと言えるでしょう。ハミルトン不安評価尺度などのツールを使って不安の度合いを調べてもらえるはずです。
この心理状態を治療する戦略としては、いずれのケースでも認知行動的アプローチやアクセプタンス&コミットメントセラピーが適切でしょう。また、以下に挙げるテクニックは、喪失を受け入れて不安感を和らげるのに特に役立ちます。
- 感情や思考を放出しやすくする。
- 愛する人の死や、その期間に経験したこと全てついて話し合う。
- 喪失を経験した人の日々の問題を解決してくれるような技術を用い、正しい方向へ導く。
- また、新たな現実を受け入れるのを助け、新しい目標や価値観の再設定をしやすくする。
- 最後に、ルーティンを復活させてかつて好んでいたアクティビティを再びやり始められるように、将来に目を向けさせる。
まとめ
喪失を受け入れ、グリーフ過程を乗り越えることにはたくさんの困難が付きまといますし、前進と逆行が繰り返されます。しかし最終的には受容というゴールにたどり着けるはずです。そうなれば、後は何とかやっていけるようになるでしょう。痛みは和らぎ、その人の記憶とともに生きていけるようになります。
もちろん、故人のことは一生忘れられないでしょう。しかし、肉体的には存在しなくなっても心の片隅の大切な場所には留まり続けてくれるため、残された私たちも最後には確実に、どうにかやっていくことができるようになるはずです。