カプグラ症候群:愛する人は偽物?
人の顔を認識しその違いを見分ける能力は、人が生まれた時から持ち、2歳まで発達し続ける能力です。しかし、突然近しい親類の顔がわからなくなってしまったらどうなるでしょうか?もし、愛する人が別の人とすり替えられたと思ったら、何が起こるでしょうか?
このおかしな感覚は、まさにカプグラ症候群を抱える患者が得る感覚です。この症候群の患者は、愛する人が偽物にすり替えられたと思い込みます。
しかし、この議題に深掘りする前に、いくつかの概念を説明させてください。見ておくべき重要な概念としては、相貌失認と妄想、それらの違いです。
相貌失認と妄想
1891年、ジークムント・フロイトが、感覚的な刺激を理解することができない状況を定義するため、失認という言葉を生み出しました。相貌失認とは、2つのギリシャ語の組み合わせです。英語ではProsopagnosiaといい、これは「顔」を意味する「prosopon」と、「認識」を意味する「gnosis」の合わさったものです。
それゆえ、相貌失認とは知っているはずの顔を認識することができなくなることに関連しています。そして、この症状は、脳卒中などによって引き起こされます。特に、頭頂または頭頂後頭の領域で起こった場合です。
一方、妄想は全く異なる概念です。これらは現実の空想的な変貌であり、誤った現実の認識に基づく偽りの考えです。
妄想的な経験には、5つの異なる種類があります。それは妄想的な認識、妄想的な解釈、妄想的な判断、妄想的な空想、妄想的な刺激です。
さて、これらの概念の違いがはっきりしたかと思います。妄想的な人物誤認は最近まで軽視されていました。今になって、より多くの注目を集め始めるようになってきています。
人物誤認が起こるとき、人は正しく認識しているにもかかわらず、誤って解釈します。つまり、目で見ているものは本物ですが、彼らの解釈が間違っているということです。
妄想的な人物誤認には4つの種類があります。
- カプグラ症候群:自分に近しい人が偽物とすり替えられてしまったと解釈します(家族や友人)。しかし、それは真実ではありません。
- フレゴリの錯覚:人が見た目を変えて、知っている人に見えるようになってしまったと考えます。
- 相互変身症候群:周りの人達の身元がすり替えられてしまったと思い込みます。
- 自己分身症候群:自分と全く同じ分身がどこかにいると固く信じるようになります。
妄想的な人物誤認の中でも、最もよく見られるものはどれでしょうか。精神疾患患者の5%を占めている、カプグラ症候群でしょう。
カプグラ症候群
カプグラ症候群は、1923年にジョセフ・カプグラとJ.ルボール・ラショーによってはじめて説明されています。 2人の医師は、慢性的な精神異常と、夫と息子が自分を傷つけるためにすり替えられたという思い込みを抱く、53歳の患者を抱えていました。
カプグラ症候群は、知っている人を謝って特定することに関係する、精神疾患的障害です。別の言葉で言えば、彼らが分身又はよく似た偽物とすり替えられたと思い込みます。
カプグラ症候群を持つ人は、人を認知できますが、彼らを良く知っている人であると思えなくなります。配偶者や子供を認知することは出来ますが、それだけでは、本当に彼らがその人達であると納得できないのです。
この患者の目には、分身または偽物が、「オリジナル」の人と同じ肉体的特徴を持っているように見えます。しかし、同じ精神や性格を持ってはいないと思い込み、そのため偽物であると結論付けます。
さらに、カプグラ症候群によって、偽物が「オリジナル」の人間と同じようにふるまおうとしているという妄想を抱きます。それによって、患者はより混乱します。
カプグラ症候群の症例
カプグラ症候群は様々なものと関連付けられています。例えば、統合失調症、ビタミンB12不足、甲状腺機能亢進症、糖尿病、酔い、痴呆などです。
多くの様々な理論がこれを説明しようと試みてきました。脳の領域での断線と関連していると説明するもののあれば、 側性化や局在性の機能障害が妄想を生み出すとしている理論もあります。カプグラ症候群の診断を受ける人は、深刻な痴呆や意識に関する問題は見られていないことが前提です。
治療法はあるのか
このおかしな症候群は治療が困難です。抗精神病薬、抗うつ剤、認知行動療法などが試されています。しかし、これらには多少の成功も見られるものの、完治とは程遠いものです。心理的な療法に関しては、家族セラピーと共に、認知的再構築を行います。 カプグラ症候群では感情的損害が伴うためです。