恐怖の解剖学:その生理的・心理的な起源

· 2019年2月13日

トマス・ホッブズは、自分が生まれたとき、母は双子を生んだのだと言いました。その双子とはつまり、彼自身と、彼の恐怖心です。繰り返し現れる頑固な恐怖心ほど、私たちの存在を明確にする感情はありません。恐怖は私たちの生存を請け負うだけでなく、自由や人としての成長を阻む貪欲な敵であるかのように、たくさんの機会を台無しにすることもあります。

恐怖は不快感となったり、人を無力にしたりもします。しかし、恐怖心を完全に無くしてしまうのは、家の窓やドアを開け放っておいたり、ゴツゴツした岩場を裸足で歩いたりするようなもの。人としてのバランスや生存に直接関わる、無分別なリスクとなってしまいます。

勇敢で大胆不敵な人は、から恐怖心を消したりはしません。恐怖心を抱きながらも、それを上手くコントロールし、味方に付ける術を知っているのです。

「敵に打ち勝つ者よりも、己の欲望を克服する者の方が勇敢であると思う。勝つのが最も難しいのは自分だからだ。」

― アリストテレス ―

アルフレッド・ヒッチコックは、恐怖をコントロールすることほど気持ちのよいことはないという言葉を残しています。中には恐怖や不安を経験したいがために映画を観に行く人もいます。安全な環境で、ケガすることもなく、友人やパートナーとリラックスしながら体験する恐怖は、刺激的な楽しみとなるものです。

恐怖心は必要であり、健全なものであると言っても決して過言ではありません。この原始的な感情は、ある程度それをコントロールできれば、人間にとって有益なものです。しかし恐怖が人を支配し、様々な脳のはたらきや生理的な変化を引き起こすと、混乱に陥ってしまうのです。

恐怖は繰り返しがちなストレスや、パニック発作、手に負えない感情などを引き起こし、複雑かつ興味深いプロセスをもたらします。

白いドレスの女性

生理学的な恐怖:扁桃体

エレナは半年前、娘を学校へ送っている最中に車の事故に遭いました。二人は無傷でしたが、事故の記憶と生理学的なショックによって、彼女は心に傷を負いました。それは彼女の生活の質に深刻な影響を与えていたのです。

枕もとで水の入ったボトルが床に落ちただけで目が覚め、驚いて酷いパニックに陥りました。相手の車が自分の車に当たったときの音を思い出してしまったのです。エレナは今もなお車を運転することができません。運転席に座ってハンドルを握るだけで心臓がドキドキし、吐き気やめまいを感じます。

交通事故に遭った人には一般的な話ですが、これを読んだあなたは、エレナには遅かれ早かれ助けが必要になるだろうと思うかもしれません。しかし、パニックや恐怖症、日常における恐怖感などの起源を理解するには、脳のはたらきについて少し深く掘り下げてみる必要があります

脳と赤い風船

最も古くからある脳の部位

五感から得られる情報は全て扁桃体と呼ばれる脳の部位を通して入ってきます。扁桃体は大脳辺縁系のとても小さな部分です。脳の部位の中でも最も古いもので、感情に関する役割を担っています。扁桃体は私たちの内と外で起こること全てを「監視」しています。人にとって脅威となりうるものを見つけた瞬間、様々な神経回路をはたらかせ、複雑に変化する様々な反応を生み出します。

扁桃体には、細かいことには着目しないという悪い癖があります。人の生存を請け合うからにはそんな時間がないのです。人が危険でない刺激に対して不合理に反応してしまうことがあるのはそのためです。

扁桃体の発する警告によって以下のような方法で神経系をはたらかせ、体を「戦うか逃げるか反応」に備えさせます。

  • 血圧の上昇、細胞代謝の促進、血糖値の上昇に加え、血液が凝固しやすい状態となり、頭の回転も速くなります。
  • 血流は脚などの大きな筋肉に集中し、必要ならば逃げられるだけのエネルギーを備えます。
  • アドレナリンが体中を巡り、免疫系は目の前の仕事には必要ないと見なされるため、そのはたらきは弱まります。その瞬間に必要なのは、戦うか逃げるかのどちらかができることなのです。

この生理的、化学的な変化の連続によって、人は危険から逃れることができます。しかしエレナの場合、その恐怖心は心理的なもので実体があるわけではありません。突然の物音が事故の記憶と結び付いており、それが引き金となってパニック反応が引き起こされるのです。そのような状態で何か月、何年も生きていくのが大変なことは想像に難くありません。

心理学的な恐怖と、恐怖をコントロールすることの重要性

病理学的な恐怖は、人が経験しうる事柄の中でも最も疲弊するものの一つです。不安障害や、恐怖症、心気症、強迫性障害などと大きく関わるものでもあります。その度合いは様々で、当事者の抑制力や、生活の質、尊厳をも完全に奪い去ってしまうことがあります。

現代社会における最も一般的な恐怖は、心の中に潜む恐怖だとさえ言う人もいるかもしれません。それは外界の脅威に対する反応ではなく、追い払うのが難しい内なる影のようなものです。けれども心の健康のためには、それを克服することが不可欠です。

そこで今回は、そのような恐怖をコントロールするためのシンプルな方法について考えてみましょう。

怪物の手を引く女の子

恐怖をコントロールするための5つのヒント

  • 恐怖を特定し、名前を付ける。恐怖を静かに潜ませておいてはいけません。
  • 恐怖に宣戦布告。恐怖にプライバシーを侵害されたのだから、コントロールを取り戻すために行動を起こしましょう。
  • 恐怖をよく知り、どこから来たのか理解する。恐怖は内的要因と外的要因への反応です。その原因が自分の内側にあることもあれば、あなたに不快感や不安、恐怖をもたらす環境に起因することもあります。
  • 恐怖にエサを与えない。恐怖に力を与えれば、その分あなたの人生が支配されていきます。恐怖について合理的に考え、深呼吸、エクササイズ、気晴らしなど、できるだけのことをやってその力を最小限に抑えましょう。これらは全て不安の緩和に効果があります。
  • パーソナルトレーナーになったつもりで自分に話しかけてみる。制限された振る舞いをなくすための戦略を立ててみてください。日々の小さなタスクをこなすために自分のモチベーションを高めてみてください。そして達成できたら自分を褒めてあげましょう。これはこの先もずっと続けるべき務めなのだと忘れないでください。

恐怖は複雑で広範な問題です。本当の幸せを手に入れようとすれば、まず初めに恐怖を乗り越えなければならないため、上手く自分のケアをできるようになっておくととても役に立つでしょう。

André, Cristoph (2010). Psychology of Fear: Worry, Anxiety, and Phobias. Editorial Kairos. Hütler, Gerald (2001). Biology of Fear: How Stress turns into Emotions. Plataforma Editorial. Gower, L. Paul (2005). Psychology of fear. Nova Biomedical Books