マラとエデク、悲劇のラブストーリー
マラとエデクの悲劇は、地球上で最も劣悪な場所の一つであるアウシュヴィッツ強制収容所で生まれ、永遠のものとなったラブストーリーです。フランチェスカ・パチというジャーナリストが二人の魂を救い出そうと決意するまで、彼らのことはほとんど忘れ去られていました。そのため、彼女は『Lovers in Auschwitz』という本を執筆したのです。
マラもエデクも、強制収容所に入れられた際にはまだ若者でした。彼らはかなり劣悪な環境下で性急に大人へと成長しなくてはならなかったのです。
しかし、かつて夢見ていた通りに二人が共に歳を重ねていくことはありませんでした。それでも二人の物語は、いかなる非道よりも愛の方が絶対的に強く、この感情にはあらゆるものに価値を与える力があるのだということを示す具体例となったのです。
マラとエデクを知っていた人々は、強制収容所で他の人々にその物語を伝えました。二人の愛は、あまりにも酷い環境で暮らす被収容者たちさえをも男女問わず勇気付けたそうです。ご覧の通り、真実の愛には当事者のみならず周囲の人々の生活までもを変える力があるのです。
マラとエデク、二人の被収容者
この物語の主人公は、マラ・ジメトバウムとエドワード・ガリンスキ、略して「エデク」です。彼がアウシュヴィッツ収容所に連れて来られたのはほんの16歳だった頃で、マラよりも前のことでした。エデクはポーランド人男性で、まだ高校に通っていました。彼はナチスによる奇襲の最中に捕らえられ、タルヌフ刑務所に送還されます。
その数か月後の1940年6月、エデクはアウシュヴィッツ強制収容所に収容されます。彼はこの収容所の最初の被収容者グループと共に送られてきて、すぐに「絶対に避けるべき人間や物事、そして生き延びるためにしがみつくべきもの」を覚えて適応していきました。
強制収容所に収容されてから2年後、彼は鍵屋の商売を始めるよう看守たちを説き伏せます。
この計画における彼のイニシアチブと力強さはめざましく、これにより彼は収容されている人々からある種の共感を集める存在となり、特権を持つ立ち位置を確立しました。そしてこの立場を活かし、過度の肉体労働に耐えられないような体の弱い被収容者たちがこの鍵屋で働けるようにしてあげたそうです。
アウシュヴィッツで恋に落ちるマラとエデク
マラ・ジメトバウムはポーランド出身ですが、幼い頃にベルギーへ移り住みました。彼女は優秀な学生で、特に言語と数学に秀でていました。
1942年にアントワープでナチスに捕らえられた彼女は、そのまま強制収容所へ送還されます。マラは5つもの言語を流暢に操ることができたため、当初から翻訳者兼伝令役として任命されました。
このように、彼女もエデクと同じように特権のある立場だったため、それを助けが必要な人々のために活用していました。そして、エデクがアウシュビッツで任務に就いていた際に二人は出会います。
初めて会った瞬間から、彼らは互いに恋に落ちました。そして可能な時にはいつでも密かに逢い引きを行うようになります。収容所の人々はそんな二人を「ロミオとジュリエット」と呼んでいたそうです。
この愛により、自由への深い願望が生まれます。また、二人は外の世界の人々がアウシュヴィッツで何が起こっているのかを何も知らないということに気づいてもいました。そのため、これを世界に報告するために収容所から共に脱走する計画を立て始めます。
もちろん、二人で永遠に一緒に過ごすという願いもありました。だからこそ彼らは一見狂気的にも見えるような、けれどもそれ故に成功したある計画を実行に移し始めたのです。
悲劇的な最後
脱走計画は、エデクがナチス親衛隊の制服を着て収容所のはずれまで行き、変装したマラと落ち合うというものでした。
マラに関しては男性に変装し、髪を隠すために頭を覆いました。シンクの導入作業を行う被収容者を親衛隊が連れて行こうとしている様子を演じる、というのが二人の計画です。
そして表玄関に差し掛かると、二人は入手しておいた許可証を提示することになっていました。信じ難いかもしれませんが、二人は実際にこれを1944年6月24日にやってのけたのです。そして自由の身となった彼らはポーランド国境付近にまで辿り着きます。しかし、マラが食べ物を手に入れようとある店を訪れて指輪を食べ物と交換してもらおうとすると、店員から怪しまれ、警察に通報されてしまいます。
エデクが遠くから見守る中、警察はマラを引き止めます。エデクとマラは何があっても永遠に一緒にいるという約束をしていたため、彼も自主的にナチスに降伏しました。
結末
警察は二人をアウシュヴィッツ内の監房へ連れて行き、別々の房に監禁しました。それでも二人は小さな紙片にメッセージを書いてやり取りをしたり、エデクがイタリアの独唱曲を歌うなどしてなんとかコミュニケーションを取り続けていたそうです。
エデクは絞首刑にかけられることになり、自らの手で首を吊ろうとしましたがそれは看守に阻まれて失敗に終わります。そして死ぬ間際に、「ポーランドよ永遠に!」と叫んだとされています。
マラもまた絞首刑を言い渡され、処刑の前に自らの腕の血管を切りつけました。その行為のせいで、生きたまま火あぶりにされることが決定されます。しかし、この宣告に同情した看守により、火葬場にたどり着く前に失血死することを許されたそうです。こうしてマラとエデクは同じ日に、たった1時間違いで亡くなりました。
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Paci, F. (2017). Un amor en Auschwitz: una historia real. Aguilar.