ピック病:不適切な行動が引き起こされる認知症
侮辱行為をする、予期せぬ失礼なコメントを言う、他人に触れる、いやがらせ行為をする、さらには攻撃性まで見せるなど…。ピック病はこういった症状を引き起こす、かなり独特なタイプの認知症です。そのため、患者の家族は言葉にできぬほどのストレスに苦しめられます。それほど近しい存在の相手が、人が変わったかのような振る舞いを見せ、突然基本的な社会規範すら守れなくなってしまうことほどショッキングな現象はありませんよね。
ピック病はアルツハイマー病ほど有病率の高い神経変性疾患ではありません。実際にこの病気を抱えている患者は全人口の0.02%以下(例えばアメリカ合衆国では5500人に1人という割合)です。しかしこの病気がもたらす影響は深刻である上、最終的に患者は命を失います。そして平均で50〜53歳という早い段階から発症するというのが特徴です。
ただし、20代ほどの若い年代の人々にこの神経疾患が発見された例があることも覚えておきましょう。また、悲しいことにこの病気にかかった人の余命はかなり短いという事実もあります。
残念ながらピック病が完治することはなく、治療をしても過激な行動や人格変化を止められるわけではありません。そのため、患者のケアはとてつもなく難しくて精神的に辛い過程となるのです。
事実、多くの家族や親類たちが以前までは愛情と敬意を見せてくれていた父親や母親、あるいは兄弟から向けられる物理的攻撃や言葉の暴力の犠牲になっています。
それでは、ピック病という認知症についてもう少し詳しく学んでいきましょう。
ピック病:臨床像と病因
認知症というと、普通私たちはアルツハイマー病を思い浮かべてしまいます。また、この種の神経変性疾患を混乱や記憶喪失、見当識障害などの非常に限られた症状と結びつけて考えてしまうことも多いでしょう。
しかしながら、ピック病はアルツハイマー病とは色々な意味で異なります。影響を受ける脳領域は別の場所ですし、ピック病には独特な生化学的特徴もあるのです。例えば、この病気がまず最初に引き起こす症状は人格変化です。
ピック病は三つの段階を伴う深刻な脳の病気であり、残念ながら、進行性の変性によって患者は最終的に死に至ります。
原因は?
今の時点ではまだ、この疾患の原因が何であるかはわかっていません。脳の変化は前頭葉と側頭葉のみで起こるため、前頭側頭型認知症が引き起こされます。ピック病患者の特色は、1892年に精神科医アーノルド・ピックによってプラハで発見されました。
- 影響を受けた前頭部分にはピック球という異常物質が存在します。
- これらはタウタンパク質が異常な形で蓄積した暗いエリアとなります。
- アルベルト・アインシュタイン医学校(ニューヨーク)で行われた臨床研究などにより、ピック病は大抵の場合進行性であり、診断後四年あまりで死に至ることが指摘されています。ピック球はニューロンの機能を衰えさせ、完全に変容させてしまいます。
- 前頭葉および側頭葉が影響を受けるほか、情動や記憶と関連する領域である大脳辺縁系と海馬にもダメージが及びます。
- 発症率は低く、アルツハイマー病患者が100人とすると、ピック病患者はほんの1人という割合です。
ピック病の症状とは?
この前頭側頭型認知症は、社交能力を急激に衰えさせます。この病気になると、最終的に社会的慣習を受け入れて実行する能力が完全に失われてしまうのです。
- 行動の脱抑制が観察されます。
- 患者は、不適切で下品な性行動を見せます。
- 患者の性格が、ジョークと攻撃性との間で変容します。周囲の人々を皮肉を交えて扱おうとし、それからしばらくするとその相手(それが家族の場合でも)を暴力的に侮辱するのです。
- 感情の麻痺、顕著な気分の浮き沈み、アパシー(無関心)、苛立ちなど。
- 抑うつ症状が進みます。
- 病気が進行するにつれて物忘れが起こるようになり、患者はアルツハイマー病と似た症状を見せるようになります。
- 反響言語など、言語の変化も見られます。これは、耳にした単語を何も考えずに繰り返す行動のことです。
- また、口唇傾向や異食症もよく見られます。これは、見つけたもの全てを口に入れてしまう障害です。
- 何かを吸い込もうとする、頭を揺らす、不随意的に手のひらを握る、といった原始反射もピック病に共通して見られる症状です。
この認知症に治療法はあるのか?
この病気についてわかっているのは、発症が早ければ早いほど進行速度も早くなり、なおかつ患者の死も早くなってしまうということです。これは極端に攻撃的なタイプの認知症であり、患者の周囲にいる人々は深刻なダメージを受けてしまいます。特に家族は、愛する人が突然これまでとは別人になってしまう様子を目の当たりにするのです。
また、これはまだ若い人々にも発生し得る病気で、その場合、最初の症状が現れてから平均で6、7年後に患者は死亡してしまいます。ピック病が完治することはありません。そして唯一施せるのは抑うつ症状や気分の浮き沈みなどの感情面の症状にアプローチする治療のみです。
ピック病の最も厳しい側面は、進行がとてつもなく早く、患者が常に変化に苦しみ続けるという点でしょう。この理由のために、これらの変調を予防する迅速な医学的対応を提供するのが非常に難しいのです。しかし、この病気は平均として以下のような三つの段階から成ることがわかっています。
- 第一段階。人格が変化し、意見や思考が変容します。
- 第二段階。記憶に問題が出て、感情や言語が変化します。
- 第三段階。急速に全体的な悪化が見られ、最終的に患者の死によって病気が終わります。
最後に、こういった状況においては、患者の家族に包括的なサポートを提供することが非常に大切です。 家族が受ける精神的なダメージは甚大なのです。ピック病患者の世話をすることは決して簡単なこととは言えません。過剰性欲や攻撃性などの厄介な傾向とも向き合わねばならないのですから。家族の苦しみはすさまじいものとなりますので、継続的な社会的・心理的サポートを受けられるようにすることが大切です。
引用された全ての情報源は、品質、信頼性、時代性、および妥当性を確保するために、私たちのチームによって綿密に審査されました。この記事の参考文献は、学術的または科学的に正確で信頼性があると考えられています。
- Henryk M. Wiśniewski, MD, PhD; Jay M. Coblentz, MD; Robert D. Terry, MD. Pick’s Disease A Clinical and Ultrastructural Study. Archives Neurology. 1972;26(2):97-108. doi:10.1001/archneur.1972.00490080015001
- Takeda N., Kishimoto Y., Yokota O. (2012) Pick’s Disease. En: Ahmad SI (eds) Enfermedades neurodegenerativas. Avances en medicina experimental y biología, vol 724. Springer, Nueva York, NY
-
Patricia Lillo Z Cristián Leyton M (2016) Demencia frontotemporal, cómo ha surgido su diagnóstico.Enfermedades neurológicas degenerativas (Mayo 2016) DOI: 10.1016/j.rmclc.2016.06.005