作業記憶:停止しない脳機能
スーパーで会計をしているとき、ノートをとるとき、計算をするとき、会話をするとき、日常生活のあらゆる場面で私たちは作業記憶を使っており、その使い方次第で作業の出来も変わってきます。
作業記憶とは短期記憶の一種で、主に一時的な情報の蓄積と操作を担っています。この記憶が働くことで、私たちは複数のことを考えながら認知的作業を同時に行うことができています。いわば脳内の手術室だと言えるでしょう。そこには患者と執刀医がいるのです。そして、その手術の結果はどれだけ2つのプロセスをうまく進めらるかということにかかっているのです。
作業記憶の主な特徴
作業記憶の主な特徴は以下の通りです:
- 容量に限界がある(5~9つの情報)。
- とても活発的である(情報処理や伝達)。
- 情報を断続的に更新していく。
- 作業記憶は長期記憶とも接しており、そこに保存された情報と短期記憶の内容を同時に使用する。
作業記憶の重要性
電話番号を読み上げた10秒後にその番号を入力しようとして、まったく覚えらえていなかった経験がありませんか?そのような時、私たちは作業記憶を使っているのです。そのため、作業記憶はエクササイズを通して鍛え上げる必要があります。
作業記憶には、物事を決断する時のプロセスやそれを実行するための基本的な機能が備わっています。特に何かに集中しているときや計画を立てているときなどにもこの記憶は活発に使われます。言語の読み書きを理解するうえで、作業記憶は各言葉を分析し、意味づけるために役に立ちます。さらに、そのほかの記憶領域に保存されている情報やその時の状況に合わせて、文字を比較したり統合することも手助けしています。
作業記憶はいわば、認識能力と論理的思考のエンジンであり、それは計算や論理的推論などの脳内の作業を行う上で、必要不可欠です。さらに数学を学ぶ際など、そのほかにも多くのことにこの記憶領域は関係しています。そのため、作業記憶がおかれている脳に障害を受けると、文字が認識できなくなり、二言以上の言葉を理解できなくなってしまうのです。
短期記憶と作業記憶の関係性
短期記憶は、短時間の限られた情報を蓄えることができます。つまり、限定的な容量と期間を備えただけの「受け入れ倉庫」だと考えられます。一方作業記憶は、注意や反省、処理、構築、長期記憶との伝達回路作成などが求められる認識的プロセスを可能にしています。
このような違いはあるものの、現在では作業記憶と短期記憶の同一性に関する議論もなされています。しかし、多くの研究者の見解によると、これら2つの記憶は一時的な保管倉庫であると考えられています。そして作業記憶と短期記憶の働きにより、複雑な作業を行うための情報処理が可能になっているといいます。
一方で、この2つの記憶システムは異なっており、そこには異なる役割があるとの意見も存在しています。それによると、短期記憶はただの情報保管場所でしかないのに対して、作業記憶はそれに加えて情報プロセスの処理も行っているといいます。
作業記憶の仕組み
バデリーとヒッチは作業記憶を4つに分類わけするユニークなモデルを作成しました。それが以下の通りです:
1.中央実行系:この機関は、他のシステムの監視や統括、コントロールを担っており、記憶容量とは関係ありません。システムの監視を行うことで、意識を選択的に変えることを可能にしています。
2.音韻ループ:これは語彙力に関連した機関であり、対話能力を発展させる上で必要不可欠となってきます。また、そこには主に、言葉だけの情報を記憶する受動音韻ストレージと、情報を循環させていく副言語反省システムという2つのシステムが存在しています。
3.空間視覚的作業記憶:これは、物や空間の認識などを可能にしています。これにも音韻ループと同様に視覚キャッシュとインナースクラブという2つのシステムが介在しています。
4.一時的緩衝材:これが長期記憶との窓口となり、音韻ループ内の情報と空間視覚でとらえた事象をつなぎ合わせています。
神経解剖学からみた作業記憶
脳内において、作業記憶が占める割合は多くありません。そして、この記憶は前頭葉や複雑な処理を行う領域、意思決定プロセス、社会的行動へ適応など、多くの状況によってニューロン回路が活性化することで機能し始めます。
その後、前頭葉前部皮質と後部皮質、側頭葉、後頭部などの作用により処理が進められます。
- 側頭葉は短期記憶内の言語情報の保存と処理を可能にする(音韻ループシステム)。
- 後頭葉は視覚情報のプロセスを進める(空間視覚的システム)。
作業記憶とはつまり、活性化された一時的な記憶領域なのです。この記憶のおかげで、私たちは言語を理解して、文字を読み、数字を計算し、物事を学び、意味を与えることができています。私たちの記憶とはほんとに素晴らしいものなのです。
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