『The Collapse』:社会制度の崩壊を目撃せよ
『The Collapse(崩壊、の意)』は、Les Parasitesという独立系オーディオ・ヴィジュアル制作会社によるドラマ作品です。このドラマは、現行の社会制度が崩壊した後の、全ての人が生存のために戦わねばならないような社会を描いています。コラプソロジスト(崩壊論者)たちは、今後数年間のうちに実際にそういった事態が起こるだろうと予言していますが、もし明日本当に「崩壊」が起こったら、あなたはどう反応しますか?
シークエンス・ショット(長回し)の8エピソードそれぞれで画面に映る場所は変わり、人類が誇っていた産業文明の崩壊に奮闘する個人が描かれます。そしてシチュエーションのリアルさや各章のリズム感が驚異的なため、たった20分のエピソードであるにも関わらず視聴者はプロットに引き込まれてしまうのです。
ガソリンスタンドでは、ドライバーたちがわずかに残ったガソリンを巡って争います。スーパーマーケットでは、客たちがほぼ空になった棚の間を歩き回っています。そして老人ホームの介護士たちには、もはやどうすれば入所者たちに食べ物を与えられるのかがわかりません。このドラマでは、恐怖心がのちに続くドラマの引き金となっていると言って良いでしょう。とは言え、この作品が映し出す苦悩は、視聴者に行動を起こさせたり真剣な社会運動への取り組みを促す役割を果たしてくれるのでしょうか?
The Collapse(崩壊)
ドラマ内では、正確には何が「崩壊」なのかは指摘されません。崩壊はあまりにも早く起こったことにされているため、話の内容はそれによってもたらされた結果に集中しており、全エピソードを通して緊迫感が漂い続けます。
この崩壊後の世界では、国家はあらゆる形態の権威を失っており、法律だけが力を持ったまま一人歩きしています。富裕層は上手く危機を切り抜けている一方で、そうでない残りの人々は自力で生き抜き、協力し合いますがその成功の是非は様々です。基本的には、資源が不足しているがゆえに全員が略奪行為や殺人を犯す可能性があるのです。
しかし、『The Collapse』の持つ人を惹きつける要素はプロットだけではありません。シークエンス・ショット(長回し)の効果で、視聴者は画面から目が離せなくなってしまうのです。
『The Collapse』:現実生活でもこのようなことが起こり得る?
視聴者が全エピソードを一気見してしまうのは、登場人物たちがどうなるのかを知りたくてたまらなくなるからです。そしてその時まさに、この仮想現実の効果が完全に発揮されます。『The Collapse』はあまりにリアルな作品であるため、現実ならそうなるだろうな、と簡単に思い込んでしまうのです。このドラマでは個人主義や暴力という問題が描かれています。各キャラクターたちは、平常時であれば決してしないであろう非道徳的な行為に及ばざるを得ない状況に追い込まれているのです。
そしてその時視聴者は『The Collapse』がこれまでのサイエンスフィクション作品とは一線を画することに気づくのです。最終的に、ここで描かれるディストピアはそれほど遠い世界の話とは思えません。奇妙なほどに身近に感じられるのです。例えば、作中の政治的議論では誰も環境問題について話しませんし、もしその話題が出たとしてもそれは単に反対する相手の意見を批判するためでしかありません。大災害を食い止めることについて語る科学者は、今や抜本的な改革を訴えています。しかし現実世界で起きているのと同じように、彼の話を真剣に聞く者は一人もいません。
誰も自分個人の行動を変えたくはないのです。政府は市民を守るための対策を何も取りません。すでに市民の代わりとなるものを手に入れているからです。それら全てが視聴者にとって心当たりのあるものだからこそ、最大限の恐怖が生まれます。『The Collapse』で描かれるシチュエーションのいくつかは私たちにとって非常に馴染み深いものであるため、デジャヴを感じないわけにはいかないのです。
しかし、恐怖心を介して伝えられるこの物語は、市民たちの集団的・個人的変化を促す力を持っているのでしょうか?
『The Collapse』誕生の背景
Les Parasitesは、パリにあるインターナショナルフィルムスクール(École Internationale de Création Audiovisuelle et de Réalisation)の元生徒たちによって設立されました。その独立性を維持するため、資金調達は主にTipeee(インターネットコンテンツクリエーターのための参加型資金調達プラットフォーム)というサイトで行なっています。そしていくつかのショートフィルムを制作し、それを無料で配信してきました。
彼らが『Artificial Love』や『La Boucherie Éthique』といった作品を制作できたのも、この独立性のおかげだと言えるでしょう。後者は気候変動と家畜についての映像作品で、この産業部門で起きている生態学的問題を扱っています。
このフランスの制作会社Les Parasitesは長きに渡って気候変動の問題やその影響に関心を抱いてきました。そして2018年の10月に、YouTubeの企画としてコラスプソロジー(崩壊論)の創始者の一人であるPablo Servigneと天体物理学者のJacques Blamontとの間でのクロスインタビューを実施しました。
Les Parasitesのディレクター陣は、気候にまつわる脅威から目を背けるのをやめるべきだと感じているのです。当作品の最新エピソードは、この問題についての政治的進歩の少なさや、人々の残酷なほどの無関心さへの凄まじい批判を見せる内容になっています。
『The Collapse』のディレクター陣は、産業文明が2030年頃崩壊するだろう、と主張するオルドバイ仮説に基づいてこのドラマを制作しているようです。その観点から言うと、これらのエピソードは観ている人の心を落ち着かなくさせるでしょう。
このドラマの中の登場人物たちは、『マッドマックス』や『ザ・ロード』などその他のポスト・アポカリプス(終末もの)の名作のキャラクターたちよりも相互の助け合いに頼ろうとする傾向が強いようです。崩壊はすでに始まっており、それにどう対処するかを選択するのが私たちに唯一残された選択肢なのです。ただ、残念ながら日本でこのドラマ作品を視聴できるサービスはまだありません。