うつ病治療に関する3つの誤解
うつ病の治療について、かなり多くの数の誤解があります。これまでは口から口へ誤解が広がっていきました。しかし今では、その誤解は、正確であるはずの専門家の情報源からまで広まってきています。
製薬業界の「利益」に一部責任があります。彼らは社会の無知を利用してアイディアを広げていきます。そのアイディアを聞いた人たちは、権威があると見られている人などに疑問を呈することなく、それを真実と受け取ってしまうことがあります。
この状況では、間違ったアイディアや、科学的根拠のない議論は無害ではありません。こういった誤解のせいで、人々は心理的治療を受ける必要があると思わないからです。
また、その誤解は医師や精神科医が治療を提供しない状況を生み出します。彼らは才能ある優秀な心理学者を呼ぶこともしないでしょう。
ここでうつ病の治療に関する3つの主な誤解を見ていきましょう。
うつ病に関する3つの誤解
1. 心理療法ではうつ病を治せない
EI Mundoのホームページ、DMedicineによれば、「心理療法が深刻なうつ病の治療に有効であることを証明する研究結果はない。深刻なうつ病のケースでは、投薬治療だけが有効であると証明されている」とあります。
もう少し調べていくと、興味深いことに、この声明文と矛盾する多くの重要な研究が見つかりました。
ここでは個々の研究について言及しているのではありません。メタアナリシスという手法についてです。メタアナリシスとは、様々な個々の研究からデータを収集します。そして統計的手法を利用し、複数の研究結果を比較した結果を分析します。
うつ病の治療に関するメタアナリシス
このタイプの研究は、一般的な結論を出すために非常に価値があります。この研究は単に1つの大きなサンプルを提示するのではなく、多くの異なるサブサンプルが提示されます。。
うつ病を治療するための心理療法の有効性を実証するメタアナリシスの例としては、Cuijpers et al (2013年)や、最近のJohnsen(ヨンセン)とFribourg(フリブール)(2015年)の調査があります。
後者では43以上の異なる研究を分析しました。認知行動療法を終えた後、57%がうつ病が「治った」と考えられることを発表しました。
認知行動療法が最も一般的であることは事実です。また、科学者が最も深く研究した療法の一つでもあります。そのため、メタアナリシスにおいても比重が高いのです。
しかし、研究では他の治療法もうつ病の治療に有効であることを示しています。米国心理学会(APA)は次の治療法が有効であることを確認しています。
- 行動活性化療法(または行動療法)
- 認知行動療法
- 問題解決療法
- マカロウの認知行動分析システム精神療法
- レームの自己制御法
うつ病の治療:重症度
うつ病治療に関するもう一つの一般的な誤解は、精神療法が軽中度のうつ病に対してのみ有効だということです。つまり、重度のうつ病には有効ではないということです。
しかしながら、ドリーセン(Driessen)、カーパス(Cuijpers)、ホロン(Hollon)、そしてデックラー(Dekler)(2010年)は132の研究分析でその考えに反論しています。これらの研究では、うつ病の重症度が、治療を受けた人と対照群との間に影響を与えなかったのです。
言い換えると、うつ病の重症度と治療の有効性の関係は、ほぼゼロに近いということです。
これらの結果を見ると、うつ病治療のための精神療法の有効性の認識がしばしば間違っていることが分かります。重度のうつ病には心理療法が役に立たないという考えも間違っていることになります。
もう一つの問題は、投薬に関する疑問です。重度のうつ病の場合には有効です。薬は患者がバランスの取れた状態で治療を開始できるように、精神状態を正常化するのを助けています。
2. 精神療法は薬物療法よりも効果が低い
Cuijpers、Berking、et al(2013年)の研究では、さらにデータがあります。彼らのメタアナリシスには、うつ病の異なる治療法の有効性を比較する研究が、最低でも20件含まれています。それらは薬物療法と認知行動療法を比較しています。
彼らはその有効性の差がほぼゼロであることを発見しました(g=0.03)。更に、評価手順や使用された薬とは無関係であることも分かりました(因子間の相互作用はほぼゼロ)。
ここで、次の点を明確にすることが重要です。対人のカウンセリングと薬物療法の結果を比較した研究では、違いが見られたのです。投薬治療の方が対人治療よりもわずかではありますが優れていました。
何れにしても、このような研究は参考程度に考えるべきです。対人療法の研究は、認知行動療法よりもはるかに少ないのです。
つまり、精神療法が薬物療法よりも効果が低いという考え方は間違っているのです。
3. うつ病治療には長い期間が必要
まず、「長期間」と「短期間」の判断は、平均期間を見定めてから行います。今現在において、前述の療法における治療期間は3〜4ヶ月に渡り、16〜20回の診療で行われています。もちろん、治療期間がもっと長いケースもあれば、短いケースもあります。
いずれにしても、ここで言及した治療法のどれもが6ヶ月を要しません。もしも患者がこの期間内に治療の兆候が見られない場合、セラピストは患者の現状を見直さなければなりません。全ての心理療法が全ての患者に効くわけではないのです。
一方で、全ての心理学者が皆同一であるわけではありません。外科医や外科医が行う手術と同じように、全ての心理学者が全く同じ能力を持っているわけではないのです。そして彼らはその都度、違う角度から治療を施します。
いずれにしても、研究結果から分かることは、認知行動療法の成功期間の平均は15回です(Cuijpers, Berking, et al.による)。
しかし、どの症例でも再発を防ぐ必要があります。うつ病の再発は心理療法に関連していないことを原因として起こり得ます。例えば、
- 外傷事象(トラウマなど)
- 不適応家族動態(家族問題など)
- 社会的孤立・社会的疎外につながる習慣
うつ病の治療に関する誤解は、ここで言及したものより多く存在します。心理学者は効果的な治療法を研究・開発することに優れています。しかし、私たちがそれを公に説明することは良いこととは言えません。その前にまだまだ分かっていないことがあるからです。
参考文献
Cuijpers, P, Berking, M. et al. (2013). A meta-analysis of cognitive behavior therapy of adult depression, alone and in comparison with other treatments. Candian Journal of Psychiatry
Cuijpers, P., Hollon, S.D. et al. (2013). Does cognitive behavior therapy have an enduring effect that is superior to keeping patients on continuing pharmacotherapy? A meta-analysis. BMU OPen、3.
Sanz, J. andGarcía-Vera, M.P. (2017). Ideas equivocadas sobre la depresión y su tratamiento (II). Papeles del psicólogo. Vol. 38.