鬱で何も感じられない時
生きていれば、誰もがいつか鬱になる時期があるでしょう。悲しさと怒りが混ざって、憂鬱な気分に落ちいる経験をした方もいることでしょう。一方で、全てが欠落し、感情全てを失ったような経験をする人もいます。鬱は体の中に鉛があって、頭の中が霧に覆われているような感覚にさせます。鬱の状態の時は、現実がぼやけて見え、遠くに流され、完全なる無の中に佇んでいるような気持ちになります。
アメリカ人エッセイストであり作家のフィリップ・ロパーテは、この感情を彼の代表的な詩「喪失」で表現しています。この詩で彼は、感情の完全なる欠如に陥った時の感覚を表現しようとしています。この中で、ロパテはうつ状態を「氷の平野を歩いているようなものだ」と表現しました。鬱は人間を、氷の心を持つ無関心な生き物にしてしまいます。ロパテは、世界から切り離され、拒食症に陥ったかのような錯覚を見せてつけてくれます。
鬱に関して理解しておかなければならないことは、このように複雑で多面的な病気は数少ないということです。鬱に悩む人の中で、症状が顕著に現れる人もいれば、目に見えない症状と数ヶ月、数年戦い続ける人もいます。睡眠、集中力、記憶、動作、そして言葉の使い方に至るまで影響を及ぼすことがあります。
最近では臨床的うつ病に関して話すことも少なくなりました。患者の無感情さについて議論することも希です。うつ病に悩む人は、感情の代わりに、周りの世界と、また自分自身とさえも隔たりを作る壁を感じることがあります。
鬱で何も感じない時はどうすればよいのか?
鬱で何も感じない理由の一つに、以前にとても強烈で感情がままならず、どう対処していいかわからないような状況を経験したことが挙げられます。医学的な文献ではこれを「感情的倦怠感」としています。この感情的倦怠感は感情のコントロールを失ってしまうような経験をしたことが原因で起こります。しかも、鬱の後も、不安障害や未解決のトラウマといった状態に陥ることがあります。
鬱の話をする上で、鬱に対して人々がもっている固定観念について述べておく必要があります。多くの人が鬱と悲しみを関連づけますが、鬱は何層もの感情と戦っている状態です。ですから、鬱は悲しみだけではありません。悲観、怒り、そして落胆なども含みます。鬱は不安定さと無感情を植え付け、頭痛、筋肉の痛み、消化の問題など体の症状として現れます。
このような症状を抱える患者の中には、1日に10〜15時間の睡眠をとる過眠症に悩む人もいます。また、笑ったり、泣いたりすることができないと訴える方もいます。まるで心と体がそのような行動のとり方を忘れてしまっただけでなく、そういった感情的な表現の意味さえも完全に忘れてしまったかのようです。それでは、これらの深刻な症状と、その原因について紹介しましょう。
感情の抑圧
幼い頃から、傷ついたり、じゃまされたり、心配したりするような感情は隠したり、ごまかしたりするように教えられてきた人も多いでしょう。これが原因で鬱の時に何も感じなくなる場合があります。複雑な家族の状況や、ストレスの多い仕事場などを経験している場合に多く見られます。
そのような状況では不安のレベルが高くなり、患者が鬱になるまで慢性的に積もっていきます。気づかないまま、数ヶ月、または数年間、不安感に慣れて生活を続けてしまいます。同じような現象により、頭の中が霧で覆われたような感覚になり、周りの環境への反応が遅くなったり、注意が散漫になったり、集中力や記憶力が低下したりすることがあります。
過去のトラウマ
フィリップ・ロパーテの、鬱であった時の無感覚を表現した彼の詩の冒頭を読むと、大いに啓発的な発見があります。詩の最初の部分で彼は、父親に9才の時から「冷たい魚」と呼ばれていたことを書いています。ロパーテは自身を父親の批判を基盤として理解することになったのです。ロパーテの父は彼のビクビクとした行動と見た目をバカにし、そのネガティブな見方が彼自分を理解する基盤となってしまいました。
鬱病の患者によくみられるのは、過去の複雑で場合によっては未解決なトラウマが、感情の不安定さに特徴づけられるこの病気の原因となっているケースです。
このような場合どのような治療が効果的か?
人間の脳は素晴らしい組織です。知能的にも大変優れていますが、進化の成功過程を導いてきただけにとても複雑です。しかしこの複雑さが、鬱のような脳に関係した問題の解決を難しくさせているのです。
どれだけ脳がコンピューターのようだと言われても、実は全く別物だということを理解しなければなりません。私たちは機械ではないのです。実際、気持ちが脳を支配しています。感情の過程を理解し、感情とどう付き合うか、味方につけるかを身に付けることで、はじめて鬱から抜け出すことができます。
鬱の時期でなんの感情も湧いてこない時は、「私はこう感じる」といった文章を作ってみることが大切だと、心理学者は言います。感情の層を表面化することで、問題の根本を見つけ出すことができるのです。忘れられない過去のトラウマを探り直すことで、心の痛みが癒され、前に進むことができます。認知行動療法の専門家に相談すると、解決の手助けをしてくれるでしょう。
怒り、恐れ、心配などを手放した瞬間から、回復の道を歩んでいるのです。