愛と固執:アニー・ウィルクス

愛と固執:アニー・ウィルクス
Sergio De Dios González

によってレビューと承認されています。 心理学者 Sergio De Dios González.

によって書かれた Leah Padalino

最後の更新: 21 12月, 2022

キャシー・ベイツの出演作品を思い浮かべた時、「タイタニック」や「フライド・グリーン・トマト」のような有名作品が挙げられます。ですが、このアメリカ人女優の代表作と言えば「ミザリー」でしょう。ベイツはサイコパスじみたアニー・ウィルクスという人物を見事に演じ切り、アカデミー主演女優賞に輝きました。

アニー・ウィルクスとは

何がそれほどまでにアニー・ウィルクスを特別な存在にするのでしょうか?悪役というのは、往々にして私達観客の興味をそそり、不快にさせ、また魅了させてくれるものです。こうした悪役は大抵、大衆の興味を惹きつけ、また拒否感を感じさせます。ですが、アニー・ウィルクスの場合は、私達がよく見る悪役とは違います。とてもリアルで、真実味があり、恐怖を感じるのです。かつては産科病棟の婦長で退職した看護師が、実は悪者だったなんて誰が予想できたでしょうか?

アニー・ウィルクスは、複雑で攻撃的で強迫的で、かつ二極的な性格を持った人物です。ですが、外の世界に向かって彼女が見せるものは違います。 ロブ・ライナ―監督の映画「ミザリー」(1990年)は、スティーブン・キングの同名小説が基となって作られた作品です。小説では、アニー・ウィルクスの過去について掘り下げられており、映画版で省略されてしまったことがいくつか書かれています。

ですが、この悪役の人物像をキャシー・ベイツが迫真の演技で完璧に表現しています。その演技は大衆の興味を狩り立てる上、ポール・シェルダンというアニー・ウィルクスがこよなく愛した作家が受ける拷問がまるで現実のものに感じるほどです。ベイツの演技は民衆からも映画評論家からも高い評価を多く得ました。スリラージャンルでの初のアカデミー主演女優賞受賞となっただけでなく、ベイツの演技は歴代に残る女優の名演技の一つとして数えられています。

この記事では歪んだアニー・ウィルクスについて深く掘り下げるので、是非、この記事を読む前に、映画「ミザリー」を見るか、もしくはキングの同名小説を読んでおくことをお薦めします。物語は、有名小説「ミザリー」の作家であるポール・シェルダンが、吹雪の最中事故に遭うところから始まります。そんな彼を自称彼の1番の大ファンを名乗るアニー・ウィルクスが救います。そして、鬱屈とした場所で、息が詰まるほど奇怪なホラー物語が幕を開けるのです。

生粋の悪人:アニー・ウィルクス

ウィルクスはがっしりしていて、真面目な中年の女性です。とても簡素な身なりをしています。見た目からして、保守的な女性だと言っていいでしょう。化粧をしておらず、髪も簡単にまとめただけの格好。服装で唯一目立つところがあるとすれば、首にかけている小さな金の十字架のネックレス。こうした十字架は私達が幾度となく目にするよくあるシンボルですが、これがウィルクスの性格をうかがい知るきっかけになると思うかもしれません。

カトリック教に所以のあるこの小さなシンボルには宗教的価値があるわけですが、アニーの本当の性格はこのシンボルの意味するところと相反します。小さな農場に暮らす彼女は質素で穏やかな人のように思われます。ですが、おかしなことに、彼女には陶器のコレクションがあり、この陶器のどんなわずかな変化にも気付きます。こうしたところが、強迫的な性格を暗示するものと言えるかもしれません。

アニー・ウィルクス

地獄の始まり

ポール・シェルダンは初め、自分の身の安全を信じて疑いませんでした。事故で怪我をした後に、退職した看護師の家で目覚め、その看護師が自分の作品の大ファンだと分かったからです。アニーはポールに快復するまで世話をしてくれると約束してくれました。また、ポールの家族と病院にこの出来事について既に連絡済みだとも教えてくれました。それから、道が開通次第、最寄りの病院に連れて行ってくれるとまで言ってくれました。

ところが、こうした言葉はどれも真実とは程遠い嘘でした。ウィルクスは少しずつ双極性障害の徴候を見せていきます。優しく過剰な親切な姿からヒステリックで怒り、攻撃的な姿までを晒し、ポールを襲います。ウィルクスは、ポールがミザリー・チャステインを最新の小説で殺したことを知って激怒しました。この攻撃的で強迫的な性格は幼少期からあったようです。

ウィルクスには大変子供っぽいところがあります。架空の人物のファンなのです。辛く苦しい時を逃れようとしていた時、ポールの小説と出会いました。アニー・ウィルクスはこの小説シリーズにのめり込んでしまったばかりにその著者を誘拐することになってしまったのです。

そのシリーズの最新作で主人公が殺されたと知った途端、アニーは冷たくなります。小さな農場がポール・シェルダンにとっては地獄と化すのです。アニー・ウィルクスは映画史上、最高の悪役の一人となりました。

名声を得るということ

名声というものは、残念ながらとても危険なものだったりします。有名人であるが故に、私生活が討論やディスカッション、批評に晒されることになります。たった1回の過ちが、あるいは軽率なコメントが、または間違った情報を含む返答が、はたまた何気なくとったリアクションがその人生を地獄へと変えてしまうこともあります。また、有名人に憑りつかれる人達もいます。こうした異常なまでの執着は、とても危険なものです。

アニー・ウィルクスはポール・シェルダンを愛しています。というより、自分の中で作り上げた理想の彼に恋しているのです。アニーのポールに対する異常なまでの執着と精神面での問題が、やがてポールを拷問に至らしめていきます。どうやったら、愛している人を拷問するなんてことができるのでしょうか?アニーが理想としていた愛の形は強迫観念へと変わっていきました。

アニーとポール

アニー・ウィルクスの物語は背筋が凍るようであり、またとても現実味のある物語です。人が自分のアイドルと慕っている人にこれほどまでに固執するようになることは、何もアニーが最初の例ではありません。ジョン・レノンのファンだったマーク・デイヴィッド・チャップマンがジョン・レノンを殺したことを覚えているでしょう。

この映画では、作家の自由が問われています。作家というのは本当に書く題材を自由に決めることができているでしょうか?答えはノーです。シェルダンも執筆中、事務所にアドバイスや指導をもらいながら、より確実に商業的にヒット作品となるようにしています。

シェルダンと出版業界

シェルダンはミザリーを書き続けるのが嫌になってしまいました。新しいものに挑戦したいと思ったのです。出版業界はこのシェルダンの想いを知って、売り上げが下がってしまうことを恐れます。と同時に、ミザリーのファンを怒らせてしまうことも恐れます。出版業界は常に最大の利益をもたらす選択肢を選びます。その作品の質にかかわらず、最も売れそうなものを選ぶのです。

映画「ミザリー」は、作家ポールが創造の自由を失った時に作家が進むことになるもう一つの生き方を見せてくれます。ウィルクスがシェルダンの新しい「アドバイザー」となり、ウィルクスの望むままを彼に書かせるのです。そして、私達はウィィルクスが何人もの人を殺し、狂人へと化していったことを知るのです。アニー・ウィルクスは実に恐ろしい人物なのです。

「私、あなたの一番のファンなの。」

―アニー・ウィルクス―


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