ドイツ映画『クリスチーネ・F 〜麻薬と売春の日々〜』

デヴィッド・ボウイがサウンドトラックに参加したことやカメオ出演したことでも知られるこの映画は、ある若い女性がドラッグ中毒という負のスパイラルに転落していく様子を生々しく描いています。
ドイツ映画『クリスチーネ・F 〜麻薬と売春の日々〜』
Cristina Roda Rivera

によって書かれ、確認されています。 心理学者 Cristina Roda Rivera.

最後の更新: 21 12月, 2022

『クリスチーネ・F 〜麻薬と売春の日々〜』はウルリッヒ・エーデルが監督した映画です。ヨーロッパ映画史上最も成功した作品の一つとしても知られ、ヨーロッパ中で興行成績記録を塗り替えました。そのプロットは、13歳という年齢でヘロイン中毒となり、売春行為を行なっていたクリスチアーネ・ヴェラ・フェルシェリノヴの実話が基になっています。

デヴィッド・ボウイによるカメオ出演は、 『クリスチーネ・F』がカルト映画として評価された理由のほんの一部に過ぎません。この映画の大半のシーンは、ベルリンのシャルロッテンブルク地区のベルリン動物園駅付近で撮影されました。

この辺りでは、地下鉄の駅や線路、地下道、裏路地などが見られます。ベルリン動物園駅周辺は、1970年代の西ドイツにおいてドラッグ売買や買春、売春の中心地として有名だった地域なのです。

撮影にあたり、映像のリアルさを追求するために本物のドラッグ中毒者たちがエキストラとして出演することになりました。しかし今日では、ベルリン・ツォーロギスヒャー・ガーテン(ベルリン動物園)駅は観光客向けに改装されています。

それにもかかわらず、ドイツ映画の影響でこの駅はずっと幼い中毒者たちがその無邪気さを失ってしまった場所として人々に記憶され続けているのです。

実在するクリスチーネ・F

映画のモデルで本物のクリスチーネ・Fは、1962年5月20日にハンブルグ(ドイツ)で生まれたクリスチアーネ・ヴェラ・フェルシェリノヴという女性です。彼女たち一家は1968年にベルリンに越してきました。彼女は大酒飲みの父親から何度も虐待されながら、恐怖で動けなくなった母親からは助けてもらえないという、複雑な環境で育っています。父親のアルコール中毒が原因で両親は離婚することとなり、その後は母が女手一つでクリスチアーネの世話をしていました。

クリスチアーネが初めていわゆるハードドラッグに出会い、ヘロイン中毒となったのは彼女がまだ12歳だった頃です。そして14歳の時にはヘロインを購入する資金を稼ぐために動物園駅で売春婦として働き出していました。1984年の、性行為をすることと引き換えに複数の未成年にヘロインを与えていた小児性愛者の裁判において、彼女は証人として出廷しています。

クリスチアーネの自伝

ドイツ雑誌『Stern』の記者カイ・ヘルマンとホルスト・リークは彼女の証言に興味を惹かれ、この裁判を詳細に追いかけました。彼らは、当時ベルリンの青少年たちを崩壊させていた巨大なドラッグ問題について報道したいと考えていたのです。

そのため、当時16歳になっていたクリスチアーネは自身の物語を伝えることに同意し、録音されたインタビュー音源は自伝として出版されました。その公式発売に先立って『Stern』誌には最初の数章が記載され、爆発的な売れ行きとなりました。

ヘルマンとリークの手がけた彼女の自伝は、『Wir Kinder vom Bahnhof Zoo(われら動物園駅の子どもたち、の意。邦題は『かなしみのクリスチアーネ』)』と題されています。アメリカでは、『Christiane F.: Autobiography of a Girl of the Streets and Heroin Addict』というタイトルで売り出されました。この本は18の言語に翻訳されており、世界中で500万部もの売り上げを記録しています。ドイツの学校に至っては、この本の学習を必修としているほどです。

映画の公開と国際的な評判

ウルリッヒ・エーデル監督は、1981年に『かなしみのクリスチアーネ』に基づいた映画の撮影を開始します。クリスチアーネ・Fの役を演じたのはナーチャ・ブルンクホルストという女優です。映画は大きな成功を納め、瞬く間に国際的なセンセーションを生み、全世界にショックの波を送り出しました。

実在のクリスチアーネ・Fの方は、メディアからの注目により大きな利益を得ました。ドイツのタブロイド紙には彼女が度々登場し、シリアスな記事からセンセーショナルなものまで多くの記事が掲載されたのです。しばらくの間はドラッグ抜きのクリーンな状態を保とうとするのですが、クリスチアーネはいつも再びドラッグに逆戻りしてしまいます。現在も彼女はまだベルリンの、動物園駅の亡霊とは離れた場所で暮らしており、メタドンというヘロイン中毒の治療薬を日常的に服用しています。

映画『クリスチーネ・F 〜麻薬と売春の日々〜』

映画の冒頭で描かれるクリスチーネはいたって普通の十代の女の子で、ロックを大音量で流したり夜更かししたりといった些細な悪癖しか持っていません。彼女は母親とアパートに暮らしていますが、常に入り浸っている母の新しい恋人にイライラしています。

そんな自宅から脱出して友人たちとともにパーティーに向かうと、そこでは他の少年少女たちがドラッグやマリファナを試していました。最初は拒絶していた彼女でしたが、デヴィッド・ボウイのコンサートが行われた夜、初めてのヘロインを経験します。「ただ興味があるだけ」と主張しながらも、クリスチーネはヘロインのもたらす効果に心酔していきます。ドラッグは彼女の現実逃避を助け、すでに中毒に陥っていたデトレフとの恋愛関係への扉を開いたのです。

若きキャスト陣の演技は、見事しか言いようがありません。特に、これが女優デビュー作となったナーチャ・ブルンクホルストのパフォーマンスは圧巻です。彼女の優れた演技が、私たちをピュアな青春から肉体と道徳観念の腐敗に至るまでの生々しい旅路へ誘います。

中でも、二人の若いキャラクターがクリスチーネが暮らすアパートの一室に自らを閉じ込めて禁断症状と戦おうとするシーンは、本当に凄まじくショッキングです。

クリスチーネ・Fと彼女の凄惨な生き様

クリスチーネ・Fはベルリンの地下鉄システムという暗くて陰気な世界で独自の稼ぎ方を見出し、ポン引きに雇われるようなことはありませんでした。

この映画による西ベルリンのドラッグカルチャーの描き方は残酷です。心底衝撃的なシーンがいくつかあり、例えばあるドラッグ中毒者がトイレのドアを飛び越えてきてクリスチーネの腕に刺さっていた針を引き抜き、注射器を盗んで自分の腕に刺してしまうというシーンなどがあります。また、映画の鑑賞者はオーバードーズの被害者の死体や、地下鉄の駅に並ぶ中毒者たちの悲しくて青白い顔なども目の当たりにすることになるのです。

私たちには、このような子どもたちや動物園駅のその他の中毒者たちを勝手な決めつけで批判するようなことはできません。彼らにとっては、シンプルに人生が過酷すぎたのです。困難な状況に陥っている彼らは、その背後にある原因を深く考えてみるのではなくドラッグを使ってそこから逃避するという道を選びました。大半の人とは異なり、彼らには家族がいない場合が多く、医療へのアクセスも持たず、したがって戦い続ける理由もなかったのです。

彼らは自ら現実世界に対する感覚を麻痺させようとします。その精神状態には、ヘロインを使うことでしかたどり着けません。しかしいくらドラッグを打っても彼らは感情を抱き続けましたし、苦しみも継続しました。彼らは永遠にベルリン動物園駅の子どもたちであり、抜け出せた者などほとんどいない暗黒世界に囚われた迷える魂のままなのです。しかし、クリスチアーネ・Fのものをはじめとする告白や証言のおかげで、彼らは私たちの集団記憶に何年間も残り続けることとなるでしょう。


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