匂いの心理学:人の態度を変容させる三つの匂い
社会心理学者によれば、複数の身体的感覚が精神的経験に興味深い効果をもたらしているそうです。具体的には例えば、特定の匂いが人間の行動に与える影響についての研究が、匂いの心理学という分野で行われています。
匂いの心理学では、匂いとは刺激に対する個人の反応の仕方を決定づけられるような身体的感覚である、という理論が確立されています。さらに、その匂いを好きか嫌いかも判断されます。シェイクスピアはかつて、「バラというものは、どんな名前で呼ばれたとしても同じように甘く香るものだ」という文を書きましたが、もし誰にもその匂いを嗅ぐことができなかったとしたら、バラはその甘い香りを失ってしまうのでしょうか?
おそらくその答えはイエスです。同じことが、例えば地下鉄で出会ってときめきを与えてくれた相手に対しても起こります。これは、その甘くて人を夢中にさせるような新鮮な特性が、その対象あるいは相手の匂いと結びついているからなのです。匂いの心理学では、匂いとは記憶や情動、そして郷愁の念に関連する感覚であるとされています。
匂いの心理学:反応を引き起こす匂い
レイチェル・ハーツという学者が、『あなたはなぜあの人の「におい」に魅かれるのか』というかなり面白い本を執筆しています。おそらくこれは、匂いの心理学というトピックに関して近年出版されてきたものの中でも最も重要度の高い本だと言えるでしょう。この本では、私たちの日常生活における匂いの大切さが語られており、また、これが食や生殖といった重要な領域にどう影響を与えているのかについても分析されています。
匂いは、精神的経験の媒介となる身体感覚です。周囲の匂いに気づいていない時であっても、私たちの思考や判断は驚くべき形でさりげなく匂いによって導かれています。今回の記事ではこの現象に関する三つの具体例を見ていきますので、ぜひチェックしてくださいね!
魚のような匂い=疑わしさ
スパイク・リーとノルバート・シュワルツによる論説では、「魚のような」匂いと社会的な疑惑との間には結びつきがあることを示す七つの研究が紹介されています。英語圏ではよく、何か疑わしいものやいかがわしいもの、あるいは信用できないものに言及するときに「腐った魚の匂いがする」という慣用表現を用います。
彼らがこの結論にたどり着いたのは、人々の批判的表現を評価するという興味深いいくつかの実験の後のことでした。リーとシュワルツは、この比喩表現の存在はある重要な事柄を反映しているのだ、と主張しています。それこそが、実際の身体的感覚と、何かが起こっているという精神的感覚との間にある結びつきだったのです。
魚のような匂いが漂う中でのゲームプレイ
彼らの実験の一つが、人々にある部屋でゲームをしてもらうというものです。このゲームの行方は、パートナーを信頼するか否かにかかっています。被験者たちがゲームを行なっている間、研究者たちは時折空気中に魚のような匂いをわずかに注入しました。時間帯によって違いが現れるよう、この匂いが留まるような配慮もされています。
ゲームが行われている間に観察されたのは、プレーヤーたちがどの程度チームメイトを信頼したか、という点です。魚のような匂いがわずかに漂う部屋でゲームが行われている時の被験者たちのプレイの仕方は、対戦相手を信頼しないというものでした。一方で、別の種類の嫌な匂いを用いた際には、相手を疑うような態度は見られなかったのです。
ロジャー・ドゥーリーが自身のニューロマーケティングに関するブログでこの研究に基づいた興味深い提案をしています。彼の考えでは、シーフードレストランで商談を行うのは間違っているのだそうです。信じ難いかもしれませんが、取引を行なっている相手がエビの匂いを嗅ぐと、何か隠された思惑があるのでは、と疑い出してしまうかもしれません。
清潔な匂いは、全てを改善する
次に、『The American Psychologist』誌に掲載された記事「スメルズ・ライク・クリーン・スピリット。匂いが認知や行動にもたらす無意識の効果」についてお話していきましょう。この記事の中では、アロマが認知プロセスや行動に与える効果が検証されています。
二つの研究での実験から、シトラスの香りの洗剤の匂いがする時、被験者たちが清潔さという概念を思い浮かべやすくなったことが確認されました。
この結論は、語彙性判断テストを行なった際に清潔さに関連する言葉の特定が最も早かったことから導き出されたものです。また、その日の中で行おうと思っている行動を記述させた際にも、掃除に関連する活動が挙げられる頻度が高くなっていました。
清潔さに関連する言葉への連想力アップと、清掃行動の向上
最後に三つ目の研究では、被験者たちに多目的洗剤の匂いを嗅がせると、のちの食事のタスクの際に身の回りの環境を清潔に保とうとした様子が観察され、その直接的な影響が確認されました。
この実験では、シトラス洗剤のアロマが漂う部屋で一定時間を過ごしたすぐ後に被験者たちは別の部屋へ連れて行かれ、そこでクッキーを食べるよう支持されます。
すると非常に興味深いことが起こりました。まず、事前に清潔な匂いのする部屋で時間を過ごしていたグループの人々は、次の部屋のデスクに落ちていたクッキーのかけらを綺麗に片付けたのです。一方、洗剤の匂いがしない部屋で過ごしていた人々にはそのような行動は見られませんでした。つまり、前者のグループの人々は、ある意味「潜在意識下」で「清潔」な匂いに晒されていたということでしょう。
匂いの心理学:おなら、嫌悪感、道徳判断
次に紹介する内容は、もしかしたらジョークのように聞こえるかもしれません。しかし、私たちは純粋な科学についてお話しています。なんと、数人の研究者たちが、おならの匂いのするスプレーを人々に嫌悪感を抱かせるための手段として用いたのです。
嫌悪感は、道徳判断に影響を与える情動であることが明らかになっています。身体感覚に基づいて嫌悪を感じると、その人物はその嫌な感情が誰かの行動によって引き起こされているのだ、と混同して考えてしまうのです。
匂いがどう道徳判断に影響するのか?
ある実験で、研究者たちはおならスプレーを使ってわずかで無意識下の嫌悪感を誘発させました。その結果、被験者たちの道徳判断の厳しさが増したのです。
プロセスはシンプルなものでした。実験開始前に、被験者にアンケート受けさせるエリアに置かれたゴミ箱にはおならスプレーがかかった物体が入れられます(対照群のアンケートの際には匂いはしません)。
そして被験者がその部屋に集まってアンケートを受けます。アンケートの内容は、非道徳的だと見なされそうな特定の行動に関する彼らの道徳判断がどれくらい極端なものかを見るための質問です。例えば、「いとこ間での、互いに合意がある上での性行為はどの程度道徳的あるいは非道徳的だと思いますか?」といったような質問が投げかけられました。
その結果、かすかなおならの匂い(意識的なレベルでは感知できない程度の匂い)が漂う部屋でアンケートに回答した人々は、その匂いの存在しない部屋でアンケートに答えた人々よりもそういった行動をより厳しく非道徳的だと解釈したのです。