歴史を変えた向精神薬5種

向精神薬とはどのようなものでしょう? どのように誕生し、また、特に重要な向精神薬にはどのような種類があるでしょう?ここでは、これらの質問やその他の興味深い疑問にお答えします。
歴史を変えた向精神薬5種
Cristina Roda Rivera

によって書かれ、確認されています。 心理学者 Cristina Roda Rivera.

最後の更新: 21 12月, 2022

精神疾患の症状は、不適応行動パターンを含む、さまざまな環境要因や生物学的要因に起因します。そして色々なタイプのメンタルヘルスの専門家が心理療法を行います。一方で、医師として訓練を受けた精神科医は、治療の一環として向精神薬を処方することがあります。

心理療法や向精神薬は多くの精神障害に効果があることが専門家により示されています。また、この2つの組み合わせが最も効果を発揮する場合もよくあります。

現代の精神薬理学の生まれは1950年代にさかのぼります。当時の一連の発見により、精神医学の流れが変わり、多くの患者の生活を変えることになりました。

ここで紹介する向精神薬は(現在はあまり使われないものもありますが)、セラピーの分野を大きく変え、治療不能だと考えられていた病気の治療へ扉を開くことになりました。これらの開発は、医学の歴史の中でも偉大なものの一つです。

向精神薬

メンタルヘルスに大きな影響を与えた向精神薬

1.気分を安定させる薬:炭酸リチウム

1948年、ジョン・ケイドが双極性障害の治療にリチウムが効くことを発見しました。ジョン・ケイドは、オーストラリアの精神科医で、リチウムが尿酸を中和することから、一連の実験を始めました。最初は、尿酸が躁病の原因になっているというのが彼の考えでした。

その後、双極性障害と尿酸は関係していないことが分かりました。しかし、彼はここで止めることなく、リチウムが躁状態の患者を瞬時に助ける物質であることを証明しました

リチウムが、現代的な精神薬の始まりです。また、クロルプロマジンが発見される前の1949年、リチウムは抗躁薬として効果があることが専門家により示されました。特定の精神疾患に使われた最初の薬です

発見から7年以上が経っても、リチウムは精神科で最も効果のある薬とされ、躁うつ病の70%以上が反応を示しました。また、単極性うつ病の治療にも効果があります。

躁うつ病の効果的な治療薬としてのリチウムの発見は、精神科における精神薬の革命の始まりとなりました。この発見が、歴史上初めて深刻な精神疾患の治療につながる行為となったのです。

2.クロルプロマジン:世界初の抗精神病薬

1948年の思いがけないリチウムの発見に続き、奇跡的発見がありました。それが、世界初の向精神病薬です。

1949年、チュニジア人のフランス軍医アンリ・ラボリは、外科的ショックを軽減する方法を求めていました。クロルプロマジンと言う名の抗ヒスタミン薬の研究をしており、この薬を手術の前に投与すると、患者に大きな精神的効果があるということを発見しました

1952年、ラボリは別の精神科医を説得し、初めて統合失調症の患者にこの薬を投与しました

神経遮断薬としてのクロルプロマジンの初の使用はヨーロッパ中に衝撃を与えました。一方で、精神分析が流行していたアメリカでは、開発が進みませんでした。

当時のアメリカでは、統合失調症に対し、グレゴリー・ベイトソンのダブルバインド理論のような心理社会的解釈が求められていたのです。そのため、向精神薬はほとんど注目されていませんでした。

クロルプロマジンを(ソラジンという商品名で)生産していた製薬会社は、精神科や医科大学よりも州政府に訴えかけました。この薬は、州がメンタルヘルス・プログラムにかけるお金の多大な削減を可能にするというが会社の主張でした。

その直後から、アメリカにある主要な精神病院の多くが、クロルポロマジンを使った治療に出資を始めました。ソラジンの導入により、アメリカでは脱施設化の動きが高まり、1952年に約60万人だった入院患者数が、1977年には約16万人に減少しました。

クロルポロマジンは、非常に効果の高い向精神病薬として今でも使われており、特に重度の病気を持つ人や緊急の際に使われています。リチウムと同様、世界保健機関の必須医薬品リストに挙げられています。

3.気分障害に対する精神薬:イミプラミン

精神薬理学初期の3つ目の発見は、第一世代の三環系抗うつ薬であるイミプラミンです

抗精神病薬(クロルプロマジン)の開発は、抗ヒスタミン薬の研究から派生しました。また、興味深いことに、最初の抗うつ剤であるイミプラミンの合成も同様に派生したものです。

1950年代初旬、製薬会社は、統合失調症市場におけるソラジンに匹敵する新たな薬を求めていました

そして、製薬会社Geigyで働くスイスの精神科医 Roland Kuhnが突破口を開きました。Roland Kuhnは、統合失調症よりうつ病に関心を示していました。そして資金援助を受ける製薬会社に隠し、この薬をうつ病に適用しました。しかし、そこで得られた結果は、当時革命的なものでした。

慢性的なうつ病を患うKuhnの患者は、イミプラミンを使った治療を始めて数週間で、目的やモチベーション、希望を取り戻し始めたのです。これまで治療不可能だと考えられていたうつ病症状が、新たな薬にうまく反応したのです。

イミプラミンの発見により、精神科医はついに統合失調症、双極性障害、うつ病という三大障害に対する効果的な生物学的治療が見出されました。

イミプラミンは、長年に渡り大うつ病の治療の至適基準になっていました。今は、新薬SSRIやSNRIsが標準的に使用されつつありますが、非定型および難治性のうつ病の治療には、イミプラミンは今でも効果的です

4.不安や睡眠障害に対する向精神薬:ジアゼパム

ジアゼパムは、1960年のクロルジアゼポキシドの後、2番目のベンゾジアゼピン系薬として、ニュージャージーにあるエフ・ホフマン・ラ・ロシュ社の化学者レオ・スターンバックにより開発されました(1963)。

1960年代から1970年代にかけ、ベンゾジアゼピンは、抗不安薬として人気が高まりました。その理由は、一世代前の鎮静剤であるバルビツール酸系ほど重度の副作用がなかったことにあります。

また、バルビツール酸系の過剰摂取は、死に至ります「睡眠薬摂取による自殺」というステレオタイプが未だに残っている理由にもなっているかもしれません。

ベンゾジアゼピンが原因で死に至ることはごく稀で、過剰摂取しても比較的安全です。しかし、中毒性の高い薬です。鎮静作用、抗不安作用、催眠作用が同時に働きます。これらの働きはすべて、分子、量、血中半減期に依存します。

向精神薬

5.フルオキセチンの生成

過去30年でもっとも知られている精神病薬は、フルオキセチン(プロザック)でしょう。1970年、イーライリリー・アンド・カンパニーが開発して以来、アメリカで使われ始めました。

フルオキセチンの導入後、多数のSSRIが開発されました。それぞれ、化学的な構造や副作用は少し異なりますが、基本的なメカニズムや効果は同じです。人気が高まった主な理由は、副作用が少なく、幅広い使用が可能で効果があるためです。

SSRIには、フルオキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、シタロプラム、エスシタロプラムがあります。SSRIの発見は、薬理学において大きな意味のあるもので、現在、うつ病、不安障害、強迫性障害に対し、最も幅広く処方されています。


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