閉じ込め症候群:自分自身の体に閉じ込められて
閉じ込め症候群(昏睡状態としても知られる)は、脳の橋底部の両側性の梗塞によって引き起こされる特殊な状態のことです。この梗塞による後遺症は、とても深刻なものなのです。
この状態になると、体の目とまぶた以外の部分を一切動かせなくなってしまいます。体のほぼ全てが不自由になるにも関わらず、意識ははっきりとしていますし体性感覚はきちんと機能し続けます。
それはまるで脳と体の接続が切れ、体を動かす命令を発することができなくなったかのような状態です。しかし脳は痛みや気温などの感覚を伝える類の信号も、空腹のような体性的な信号も全て受け取り続けます。
声を発するための筋肉が動かせないので、コミュニケーションはほぼ不可能になります。動かすことができるのはまぶただけなのです。
ここで注目すべきが、まぶたを使ってコミュニケーションを取ることに成功したケースがいくつか存在するという事実です。アルファベットを記したボードを使い、作りたい単語や文の文字をまぶたを使って選んでいくという方法です。とてもゆっくりとしたコミュニケーションにはなりますが、この症候群により声を失ってしまった人々にとっては大きな助けとなっています。
症状、原因、そして予後
この病気の一般的な症状は、四肢麻痺、構音障害(発音ができなくなる状態)で、意識は正常に保たれます。脳の皮質も視床も影響を受けていないので、認知機能には何の変化もないのです。
患者は、通常と全く同じ認知プロセスにより、知覚し、それを処理し、情報を作り出します。外の世界からの刺激を知覚することはできますが、それに対して身体的な反応をすることができないのです。
閉じ込め症候群の主な原因が、脳底動脈血栓症です。たいてい、発症の数週間もしくは数ヶ月前からめまいや吐き気などの前兆が見られます。これは血管の問題ではなく、脳幹の打撲や椎骨脳底の切開によって引き起こされた脳髄の損傷からくるものです。
患者の運動機能がどれくらい奪われてしまったかによって医学的に分類されます。それが以下の三つのタイプです。
- クラシック:四肢麻痺、構音障害を含みますが意識は保たれ、目とまぶただけは動かすことができます。
- インコンプリート:クラシックタイプに似ていますが、目だけなくもう少し動かせる部分が多くなります。
- トータル:どんな動きもできません。たいていの場合、中脳の梗塞によって起こります。
その進行の仕方によって、一時的な症状の場合と永遠に続く場合のどちらかに分かれます。視床から続く神経との接続が絶たれているケースの場合は、治癒は不可能です。この切断のせいで脳からの命令が体の他の部分には一切届かなくなっているのです。この結果、刺激は知覚できているのにそれに対して体が反応することはない、という状態になります。
閉じ込め症候群の診断方法
閉じ込め症候群を、他の昏睡状態などの症状と見分けて診断する難しさに対して考えが及ぶのも当然のことです。問題なのは、患者とコミュニケーションを取れないため、彼らの認知機能がまだ生きているのかどうかを確認するのが難しいという点です。
ですので、医師がこの病気の診断に役立てることのできる神経のテストがあります。MRIはどんな種類の梗塞が起こったのかを特定してくれるので、病状を見極める助けになります。
ポジトロン断層法(PET)も脳波(EEG)の測定も、患者の脳の活動状態に関する情報を医師に提供してくれます。PETスキャンは、患者の脳の代謝が正常かどうかを調べます。そしてもし正常と出た場合、それは脳機能がまだ維持され、意識がある状態、つまり閉じ込め症候群のような状態だということを意味します。
脳波測定では、患者の脳波の活動を調べます。この検査では患者の脳に電極を付けます。この電極は、検査時の脳内でメインとなっている脳波を特定するのに役立つ器具です。閉じ込め症候群の患者の場合は、反応性の後頭部アルファ波が見られます。
潜水服は蝶の夢を見る
ジャン=ドミニク・ボービーはフランスのジャーナリストで、43歳の時に脳塞栓症になりました。20日間の昏睡状態の後、閉じ込め症候群の状態で彼の意識は戻ります。彼が動かすことができるのは左目だけで、頭をかすかに揺らすこともできました。身体の状態はどんどん悪化し、数週間のうちに約30kgも体重が減りました。
彼はこの病気とともに約1年間生きました。この1年間を彼は自らの体に閉じ込められた状態で過ごし、アルファベットボードと瞬きを使ったコミュニケーション方法を学びました。言語聴覚士と家族の力を借りて彼は『潜水服は蝶の夢を見る』というタイトルの自伝を書き上げ、結果的にこの本はベストセラーとなりました。
「宇宙には、私の潜水服を脱がせてくれるカギが存在しているのだろうか?これは終点のない地下鉄みたいなものかな?自由を取り戻せるくらい強力な通貨なんて果たしてあるのか?探し続けなくちゃいけないんだ。」
– ジャン=ドミニク・ボービー –
この本を元にした、同じタイトルの映画もあります。鑑賞すれば、それがジャンにとってどんなに大変な挑戦だったかわかっていただけると思います。体で表現することのできない思考は、全て彼の頭の中を飛び交っていたのです。彼は想像力を駆使することで頭の中の別の場所へ「旅」をし、残酷な現実から逃避することに成功しました。
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