ウィーク・セントラル・コヒーレンス仮説と自閉症

ウィーク・セントラル・コヒーレンス(中枢性統合の弱さ)仮説は、一部の人々は全体像を処理するよりもまず細部に注目する、と主張しています。このことが自閉症スペクトラム障害とどのように関連しているのでしょうか?
ウィーク・セントラル・コヒーレンス仮説と自閉症

最後の更新: 30 11月, 2020

デフォルトとして、私たちは周囲の物体を包括的に処理する傾向があります。例えばある物体を見つけようとして全労力を注いでいるとき、私たちは参照用にその物体の全体像を思い浮かべながら探しますよね。つまり、物体の一部分のみを探すということはしません。私たちの持つ意味解析システムが、このことをまるごと象徴しています。これが可能なのは、中枢性統合(セントラル・コヒーレンス)として知られる実行機能のおかげです。ここからは、ウィーク・セントラル・コヒーレンス(中枢性統合の弱さ)仮説について説明していきます。

ある物体を初めて観察するときにも、私たちはその表出を包括的に観察し、普通それを構成する個々のパーツには気づきません。例えば他人の顔を観察するとき、私たちは大抵の場合それを全体として観察しますよね。鼻や口などを独立した物体として突き詰めて観察するようなことはほとんどしません。私たちがこのような方法を取るのは、中枢性統合が働くためです。

しかしながら、この機能は常に起こるわけではないことがいくつかの研究で示されています。それが当てはまる最も重要な例が、自閉症スペクトラム障害やその他の実行機能に弊害を与える病気を抱える人々です。そのため、神経科学界は中枢性統合の弱さに関する仮説の研究に力を注いでいます。

ウィーク・セントラル・コヒーレンス仮説 自閉症

ウィーク・セントラル・コヒーレンス仮説

この仮説は、Uta Frith(1989年)とJoliffeおよびBaron Cohen(1999年)によってまとめられました。ここで試みられているのは、ASD(自閉症スペクトラム障害)を抱えている人々はなぜ情報を単一の一貫性のある「全体像」として統合することが困難なのかを説明することです。自閉症や自閉症スペクトラム障害の人々は、断片的な処理を行うのが特徴です。つまり、小さな詳細部分に注目する傾向があります。

Frith博士によれば、ASDの人々は目の動きや手振り、そしてその他の文脈的な手がかりから相手の意図を読み取って状況を解釈するのが苦手なのだそうです。

そのため、明白な不利益を被ります。個々のパーツに集中するために立ち止まらなければならないので、結果として全体像を把握するのに長い時間がかかります。全体から個々へと視点を変えるのではなく、それと正反対の工程を踏んでいるのです。

神経心理学的評価

神経心理学的評価とは、中枢性統合システムに異常があるかどうかを確かめることのできる、診断に有益な手段です。専門家はこれを用いることで、ASDの人々が持つ細部に集中する特別な能力と、彼らの中枢性統合システムの一般化能力の損傷を評価することができます。

この細部に集中する特別な能力は、「隠し絵」課題やウェクスラー知能検査の積み木課題を用いて評価されます。中でも特に特殊な認知スタイルはサバンと呼ばれています。

サバンに関しては、絵を描くスキルの神経心理学的評価によって観測されてきました。ASDの人々は絵をあらゆる詳細部分に集中して描き始める傾向があります。全体像を捉えたスケッチから始めるのではなく、一つずつ個々のパーツを詳細に描いていくのです。

しかし、この仮説は自閉症スペクトラム障害を抱える人々に特徴的な臨床像全体を説明するものではありません。そのため、研究者はこれを細部集中型の認知プロセスを説明するための理論として用いることを勧めています。

ウィーク・セントラル・コヒーレンス仮説と自閉症

補足的な理論

補足的理論として、「高次機能障害モデル」というものがあります。このモデルはASDの総体症状を完全に網羅するものではありませんが、柔軟性の欠如や計画を立てること・新しいアイディアを生み出すことの難しさ、反復行動といったASDのいくつかの特徴については説明がなされています。

これらは、実行機能に関連するタイプの能力です。そして最近ではRosenthal(2013年)などの研究者たちが、自閉症児の年齢が上がると、高次機能障害の表出が増加することを発見しています。

したがって、自閉症による影響を最小限に押さえ込むためにはこういった側面に関する、あるいは実行機能の障害に関する神経心理学的介入を幼い頃から行うべきなのです。

同様に、神経生物学的観点からはASDに関連する多様で幅広い範囲の遺伝的要因の存在が明らかにされています。そして神経心理学的アプローチの立場に立つ専門家も、この障害の異種混合性を説明するには単一の欠陥だけでは不十分であることを受け入れているのです。

一方で社会的認知の不備を唱える理論は、ASDを抱える人々は自分自身および他人の精神状態を表現する能力に変調を見せる、という考えに基づいています。これは、他者の立場に立って物事を理解することに困難が生じることに関して補足的に説明するものです。

したがって、ウィーク・セントラル・コヒーレンス仮説ではこの種の細部への集中は様々なタイプの認知プロセスで見られる可能性がある、と主張しています。必ずしもこれを欠陥だと見なす必要はないのです。実際には、この細部集中型プロセスには多くの利点があります。そのため、より定型的な形で情報処理を行う人々には知る由もないような貴重な役割を、自閉症を抱える人々は担うことができるのです。


引用された全ての情報源は、品質、信頼性、時代性、および妥当性を確保するために、私たちのチームによって綿密に審査されました。この記事の参考文献は、学術的または科学的に正確で信頼性があると考えられています。


  • Baron-Cohen, S., Leslie, A. y Frith, U. (1985). Does the autistic child have a “theory of mind”? Cognition, 21, 37-46.

  • Baron-Cohen, S. (1987). Autism and symbolic play. British Journal of Developmental Psycology, 5, 139-148.

  • Baron-Cohen, S (1990). Autismo: un trastorno cognitivo específico de “ceguera de la mente”. lnternational Review of Psychiatry, 2, 81-90.

  • Beatriz López y Sue R. Leekam (2007) Teoría de la coherencia central: una revisión de supuestos teóricos, Journal for the Study of Education and Development, 30: 3, 439-457, DOI: 10.1174 / 021037007781787462


このテキストは情報提供のみを目的としており、専門家との相談を代替するものではありません。疑問がある場合は、専門家に相談してください。