ヒューマン・コネクトーム・プロジェクト
ヒューマン・コネクトーム・プロジェクト(HCP)は、2130万ユーロを費やすNIH(国立衛生研究所)の5か年計画のひとつとして、2009年7月に始まりました。このプロジェクトの目的は次の通りです。
- 神経系データの編纂
- 科学者が視覚的にデータを扱えるようにインターフェースを提供する
- 人間の脳に関する新たな情報の発見
プロジェクトの研究員のひとり、ハグは次のように説明します。「ネットワークの機能を理解するためには、その要素と相互接続を知る必要がある。コネクトームは、基礎となっている構造基盤からどのように機能的脳の状態が生じるかの理解を著しく深め、また、この構造基盤が中断された場合、脳機能がどのような影響を受けるかに関し、新たな機械的洞察を与えてくれるだろう」
次に進む前に、ヒューマン・コネクトームとは何でしょう?簡単に言うと、脳神経間の接続マップの一種です。このプロジェクトでは、脳の接続のネットワークを解剖学的、機能的レベルで示すマップを作ることが目的です。つまり、脳回路とシナプスのすべてを詳細に理解することです。
このプロジェクトのもうひとつの目的は様々な脳障害に関する研究を促進するデータセットを作成することです。
「あなたの神経はあなたが誰かを知らない。気にもしない」
-エドゥアルド・プンセット-
ヒューマン・コネクトーム・プロジェクトの目的
国立衛生研究所脳神経科学のためのブループリント研究は、3000万ドルを費やし、健康な成人の脳回路をマッピングするために最新の脳画像診断技術を使うプロジェクトを立ち上げています。
何百人もの脳画像解析データを体系的に収集することにより、ヒューマン・コネクトーム・プロジェクトは脳機能の根底にある接続に関する情報を供給します。また、脳科学研究の新たな道を開くことになるでしょう。
「人間の頭の中の、神経間でできうる接続の数は、全世界にある原子の数をはるかに超える」
-アラン・ムーア-
最近のデータと研究
これまでのところ、科学者は1つのコネクトームを識別しています。それは線形動物(カエノラブディティス・エレガンス)のコネクトームです。この細やかな神経系は300ものニューロンから成ります。1970~1980年代、研究チームは、7000もの神経間の接続をマッピングしました。このマップの名前が先に言ったコネクトームです。人間がより複雑なのは明らかで、1000億ものニューロン、1万倍の接続があります。
HCPの新たな研究では、脳回路の構造は、ロンドンの複雑な道路の交差より、マンハッタン街図に似ていると言われています。言い換えると、人間の神経ネットワークは、科学者が考えていたように婉曲し、もつれているのではなく、整然と、きちんとしているのです。
HCPの脳神経画像に基づいた新たな発見や精神学的研究によると、個人の脳の接続の違いで行動が予測できると言います。
このようなスキャンにより、将来、より個人にあった診断や精神疾患の治療が可能になるだろうと研究員は考えています。
「昆虫学者が色とりどりの蝶々を探すように、私は灰白質細胞の庭で、繊細で優美な形、魂の神秘的な蝶々を探し、その羽ばたきは、いつか、心の秘密を明かしてくれるかもしれない」
-サンティアゴ・ラモン・イ・カハル-
ヒューマン・コネクトーム・プロジェクトの結果と考察
脳は今も尚、複雑で神秘的な臓器です。科学者は日々脳の研究を行っていますが、まだ分かっていないことがたくさんあります。これも、HCPがとても重要な理由のひとつです。脳の機能や神経接続を明らかにするため、今ある最も良いテクノロジーを使うことがカギです。この新しい情報が多くの精神疾患の根絶につながることが期待されます。
現在、統合失調症などの精神疾患はコネクトパチー(機能的結合異常)であることが分かっています。これは、障害の原因となっている異常が脳の「配線」にあることを意味します。科学者が人間の脳のマップを作製し、構造的枠組みを理解することができれば、てんかんなどの病気を治すことができるようになるかもしれません。
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