医療従事者に生じる共感疲労
医療従事者は、自分の患者の気持ちをそれ以上改善してあげられなくなる時があります。そして、それは共感疲労という二次受傷(体験した人から話を聞いたことで自分もPTSDなどを患う現象)を生み出すのです。共感疲労は患者をケアしたり患者に共感し続けた結果で、物理的、心理的、社会的、そして精神的な苦しみを目にしていくことで起こります。実際に、時間が経つにつれ患者の痛みを間接的に経験するようになります。
ストレスの引き金としての共感
ほぼ毎日透析を受ける人とその医師には必然的に絆が生まれます。この単に日常的な出会いや観察、そして症状が良くなるように思う気持ちは友情のような信頼関係をもらたすのです。
確かに、誰かの味方になることは大切なことです。医療従事者は患者のニーズを理解し、多少なりとも繋がっているべきでしょう。しかし、共感は危険で、ある特定のストレスの引き金に成り得ることもあるのです。これがまさに共感疲労と言えるでしょう。
共感は治療の質を高めてくれます。しかし、同時に専門家の脆弱性も高めてしまうのです。ですので、共感力があるほど共感疲労になるリスクは大きくなります。
共感における脳のメカニズム
チャールス・フィグリーは1996年にこの共感疲労という言葉を作りました。彼はニューオーリンズのテュレーン大学の外傷学研究所の所長で、間接的に心に傷を負ったメンタルヘルスの専門家の観察を行ったのです。
この共感性疲労という言葉は比較的新しいものですが、脳のメカニズムはそれを長い間説明し続けてきました。大脳は共感と模倣行動に関係しており、扁桃体や眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)、そしてミラーニューロンは他の人が感じていることに共感する気持ちを担っているのです。
さらに、そこに深い痛みや大きな苦しみがあると、その人の共感能力は成長するので共感疲労がより顕著になるでしょう。
共感疲労の症状
共感疲労は蓄積されて起こる現象です。上記でも説明したように、患者との継続的かつ密接な接触によって、感情的な苦痛が発症するのです。では、この現象の兆候と症状はどのようなものなのでしょうか?
- 認知:記憶力が悪くなる、注意力や集中力が欠如する、ネガティブな考えを持つ、嫌な経験をフラッシュバックする。
- 感情:恐怖や悲しみ、怒り、絶望、喜びや幸福感の喪失などの激しい感情が引き起こる。
- 身体:胃腸の不快感、めまい、頭痛、高血圧、体の痛み、筋肉の緊張、慢性的な疲労、寝つきが悪い。
また、職場ではモチベーションが低くなったり、理解出来ないと感じる、専門的能力が発揮できない、そして同僚へ距離を作るなどのサインが現れるでしょう。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)との関係
共感疲労が心的外傷後ストレス障害に似ていると気づいた方もいると思います。では、PTSDはどういうものなのか見ていきましょう。これは、非常に大きなストレス、または外傷的な出来事が原因で、その人に激しい身体的な影響を及ぼす恐れのある病気です。この時、体は環境に適応しようとしてストレスを感じます。また、どの年齢でも患う可能性があることを覚えておいてください。
一方、共感疲労は急に、そして顕著に現れます。さらに、複数の引き金がストレスを形成しており、医療にかかわっている人の絶え間のない仕事や感情的な関与、患者との関係が引き金になるのです。
共通した3つの症状
共感性疲労とPTSDには以下のような症状が共通しています。
- 出来事の瞬間を思い出す。もし問題が解決していなければ、その人はフラッシュバックするような形で外傷的な経験を思い出します。医療関係者やセラピストにとってこの症状はトリッキーな存在で、ストレスの原因は仕事量が多さではなく、患者との感情的関係が起因しています。
- 拒絶と精神的な鈍さ。人はトラウマ的な出来事を思い出させるような考えや感情、人、場所、仕事、そして状況を避けるよう努力します。さらに、その出来事に関係するものは全て排除し、以前まで楽しんでいた活動を止める傾向もあるのです。共感疲労を患っている人は、PTSDの症状に加えて不快感や過敏、そして混乱を経験するでしょう。また、彼らの患者や他の人から身体的、感情的に距離をとるようになり、社会生活に影響する恐れがあります。
- 過覚醒。覚醒は生理学的な活性のレベルです。このケースでは、緊張と危機感が継続します。そして、何に対しても極端に反応してしまうのです。
共感疲労の対処法
共感疲労が何なのかは分かったと思います。そして、患者の治療における感情の管理の大切さも分かったと思います。では、この状況に対処する方法を見ていきましょう。
- 視野が広くなるように一人になる時間を作る。
- 他人の痛みや苦しみと関係した状況に対して、自分はどのような強さやスキルを持っているのか認識する。
- 正しい睡眠と食事をとる。
- リラックスできるエクササイズや身体的な活動を行う。
- 同僚と気持ちや考えの共有をする。
今回紹介したように、感情的で苦しい状況の副作用は現実的に起こり得るもので、それに対処するために学習、訓練してきた専門家にさえ影響を与えます。自分をケアすることが最も大切であることを忘れてはいけません。そして、これは患者に最高の治療を与えるための基礎的かつ最高の方法なのです。