妄想型統合失調症とは?原因と治療
「被害妄想が激しい人だから」と誰かが言っているのを、誰しも一度は聞いたことがあるでしょう。誰かにつきまとわれている、誰かに襲われる、または誰かにバカにされていると思っている人のことを「被害妄想」という言葉で表すのは、決して珍しいことではありません。しかし、医学的に言うと、「被害妄想」ということばにはそれ以上の意味があります。今回の記事では、精神病の一つである、妄想型総合失調症について紹介します。
長年のあいだ、「精神病」の定義は様々で、世界中で受け入れられる定義はいまだにありません。この記事で「精神病」とは、陽性症状と陰性症状という大きい2つのグループに分けられる、ある特定の症状を持つ人をさすこととします。では詳しくみていきましょう。
統合失調症(スキゾフレニア)、深刻な精神疾患
アメリカ精神医学会出版の、精神障害の診断と統合マニュアルは統合失調症を次のように定義しています。「次の症状のうち、2つ以上の症状が1ヶ月(治療が効果的であればこれよりも短期間で)のうち、大半の期間で現れる。」この症状には、妄想、幻覚、不安定な会話、混乱、ひどい緊張、そして陰性症状があります
ここでいう陽性症状とは、精神機能の過剰反応や歪曲で、陰性症状は、精神機能の低下や欠如のことをさします。ですから、この場合の陽性症状は、理由づけの歪曲(先ほどの触れた「被害妄想」のような症状)などをさし、幻覚、不安定な会話、混乱やひどい緊張などもこのグループに入ります。
一方で、陰性症状には次のようなものがあります。感情表現の制限や欠如、考えや言葉の一貫性や流暢さの低下、またはやる気の低下などがあります。
「狂気は知性の卓越した結果であるのか、そうでないのか。その答えは科学をもってしても今だにわからない。」
エドガー・アラン・ポー
妄想
妄想とは、経験した事や、認知した事を誤って理解することによって起こることがほとんどです。妄想の原因となるものは様々です(虐待、自己言及、病気、宗教的なことや、何か衝撃的な事)。
虐待されていると妄想している人(何かを恐れたり、恐怖感をかんじている人)は、誰かがちょっかいをだしてきたり、自分の後をつけてきたり、嘘をついていたり、監視していたり、または自分のことをバカにしていると思い込んでいます。また自己言及的な妄想とは、ある特定の行動、コメント、本や新聞、歌詞などの一部が、自分に向けられたものだと思い込んでいる状態のことを言います。
「気が狂っている人は、現実に戻って来ることはない。自分の空想の中で永遠に生きるのだ。」
カルロス・カスィーリャ・デル・ピノ
変わった妄想は、統合失調症のよくある症状の一つですが、その妄想が異常なものであるかを判断するのは、とても難しく、特に文化が違えばなおさら困難です。起こり得ることのない、または普段の生活からは全く理解することができない錯乱した考え(例えば、自分の行動を誰かが監視するために、体内にマイクロチップを植えつけたなど)などは、異常な妄想であると分類することができます。
別の妄想の例としては、誰かが傷跡を残すことなく、自分の臓器を他人のものと入れ替えてしまったと信じたりすることなどがあります。自分の体や精神のコントロールを失ってしまったというような妄想は、異常であるといっていいでしょう。
このような妄想は、社交の場や、恋愛関係、仕事に影響を及ぼします。被害妄想がある人は、他人の考えや意見を理解することはでき、自分の考えが不合理であると頭では分かっているかもしれません。しかし、それを受け入れることができません。よって、苛立ちやすくなり、時に自分の妄想へ苛立つこともあります。
精神病なのか、統合失調症なのか
精神障害の診断と統合マニュアルによると、統合失調症には以下のようなタイプがあります。
- 妄想症
- 混乱
- 緊張病
- 感情障害
その中でも今回の記事では、統合失調症の被害妄想に着目します。
妄想症タイプの統合失調症の特徴
このタイプの統合失調症の明確な主な特徴は、妄想と幻聴です。この場合、考えや感情の構成に問題があることは稀です。妄想は主に脅迫や、自分が偉大であること、またはその両方である場合がほとんどですが、他の要素をふまえた形(嫉妬、狂信、または病気など)であらわれることもあります。
このタイプの統合失調症では、多数の妄想が同時にあらわれることがありますが、一貫性があるのが特徴です。また幻覚が妄想と関連していることもよくあります。
「被害妄想タイプの統合失調症の明確な主な特徴は、妄想と幻聴です。」
被害妄想タイプの統合失調症の症状
この病気に関連する症状には、不安、怒り、引きこもり、口論したがる傾向などがあります。優越感や、人を見下しているような雰囲気を醸し出したり、または、気取っていたり、退屈そうだったり、特定の人間関係に対して異常で熱烈な思いがあったりする場合があります。
脅迫観念を抱く人は、自殺を試みる傾向にあり、また脅迫観念と自分の偉大さの妄想が絡み合い、暴力的になることもあります(これは個人によって異なります)。
この意味では、このような人がその場の勢いで予想外に攻撃的になることは稀です。攻撃的になるのは、若い男性にに多く、特に暴力的な過去や、セラピーをきちんと受けることができない何か、薬物乱用や、衝動的行動などの問題を抱える人に多い傾向です。しかし、ほとんどの場合で、統合失調症の人が攻撃的になることはほとんどないということは明確です。また、統合失調症の人は、そうでない人に比べて、虐待などの暴力の被害者であることが多いことも知っておきましょう。統合失調症の人は、攻撃的になる可能性のある人ではなく、被害者であった過去がある可能性のある人なのです。
「みんな少しは狂ったところがある。他の人より、それを隠すのがうまい人がいるだけだ。」
ミシェル・ホドキン
妄想型統合失調症の原因が、虐待などの暴力であることが他の統合失調症タイプとくらべても多いことも特徴的です。また症状が時間とともに安定するのも特徴の一つです。妄想タイプの統合失調症は、他のタイプの統合失調症に比べて、将来の見通しが明るいとするデータもあります。一般的に、このタイプの統合失調症の人は、かなり自立した人生を送ることができます。
原因は何か?
はっきりとした原因は今だに解明されておらず、まだまだ議論の余地がありますが、下記は発症のリスクとして考えられている要因です。
- 環境的要因:冬の終わりや春の始まりなど、患者が生まれた季節が要因となる場合。また統合失調症や関連した病気は、幼少期を都市で過ごした人、または人種的に少数グループに属する人に多いとも言われています。
- 遺伝的要因:遺伝的要因は統合失調症の解明にとても重要です。遺伝子の突然変異と関係があるとされているからです。またこの遺伝子の突然変異には双極性障害、鬱、自閉症などとも関連があるとされています。
- 生理学的要因:妊娠中の合併症や出産時の低酸素症(酸素不足)、また父親が極端に高齢である場合などは、胎児が統合失調症になりやすいとされています。また、出産前や出産後のストレス、感染症、栄養不足、妊娠糖尿病や他のネガティブな健康状態が、統合失調症の発症と関係があるともされています。しかし、これらのリスク環境にある子供のほとんどは、統合失調症を発症することはありません。
妄想型統合失調症の治療
慢性の妄想症は、神経弛緩薬、抗精神病薬、抗不安薬などの薬と、心理療法との組み合わせて治療します。しかし、患者が自分の病気に気づいていない場合、これらの治療を適切に受けるのは困難です。感じている苦しみは自分の身に起こることが原因であって、自分の考えが原因だとは思わないからです。薬理学的治療が一生必要で、深刻になると入院も考えた方がよいでしょう。
これまで紹介してきたように、妄想型統合失調症は、他のタイプの統合失調症とは違った特徴があります。脅迫などの妄想や、自分が優れているといった妄想、またはそのどちらもがあらわれることも稀ではありません。しかし、論理的に物を考えることができ、自立した生活を送ることが可能です。
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