『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』:今日の女性たちが直面する現実

このドラマシリーズは、刑務所に関する誤った認識を取り壊してくれており、その誤解には私たちが囚人に対して、今回の場合だと女性の囚人たちに対して抱いている先入観が含まれます。
『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』:今日の女性たちが直面する現実
Gema Sánchez Cuevas

によってレビューと承認されています。 心理学者 Gema Sánchez Cuevas.

によって書かれた Leah Padalino

最後の更新: 22 12月, 2022

近年、フェミニズムがメディアに取り上げられる機会が非常によく見られるようになっています。また、最近までずっと軽視されてきた社会集団に特にスポットライトを当てることも一般的になってきました。『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』もそのようなドラマシリーズの一つです。時には正しく理解されないこともありますが、このドラマは私たちが現在感じているこれらの変化をかなり巧みに描くことに成功しています。

このドラマシリーズは、刑務所に関する誤った認識を取り壊してくれており、その誤解には私たちが囚人に対して、今回の場合だと女性の囚人たちに対して抱いている先入観が含まれます。

時に私たちは、刑務所にいるのは殺人鬼だけではない、という事実を忘れてしまうことがあるようです。実際には、人生の行きがかり上止むを得ず小さな罪を犯してしまい、結果として刑務所に入ることになってしまった人々もいるのです。もちろん、このシリーズも完璧だというわけではなく、今話しているのはフィクションのドラマの話だということも忘れてはなりません。しかし、このドラマは私たちがあらゆる意味で忘れてしまっていた一つの世界をクローズアップして視聴者に示すことに成功しています。

この作品が描くのは、刑務所に馴染むまでの過程や様々なグループが作られていく様子、女性たちの生き方、看守の権威などです。2013年にNetflixで初めて放送されたこのドラマシリーズは、パイパー・カーマンによる同名の書籍に着想を得て製作されました。この本は、著者自身が一年間女子刑務所で過ごした時の体験に基づいたものです。

この記事のイントロダクションとしてあるトリビアをご紹介します。実は、このオープニング映像(以下の動画をご覧ください)に登場する画像は刑務所の実際の受刑者たちの画像なのです。

オレンジ・イズ・ニュー・ブラック − 刑務所の内部

このドラマはまず、パイパー・チャップマンというごく普通の大卒女性の登場で始まります。彼女にはきちんとした社会的地位があり、結婚を予定している彼氏もいて、親友と立ち上げた事業も順調です。

パイパーにとって人生は完璧なものに思えていましたが、この後その全てが壊れていくこととなります。ある日彼女は10年以上前に犯した犯罪についての通達を受け取りました。彼女の罪とは、まだ若い頃、麻薬売買絡みのお金を運んだことです。当時彼女はアレックス・ヴァウスという名前の麻薬ディーラーと女性同士の恋愛関係にありました。物語が進むと、彼女とアレックスがまさに同じ刑務所内で再会を果たす様子が描かれます。

パイパーは刑務所で人生の厳しさを目の当たりにし、自分のコンフォートゾーンを飛び出して適応しようと試みますはじめのうち彼女にとってそれは非常に困難なことでした。他の囚人たちと自分との間に、何の共通点も見出せなかったのです。しかし、時間が経つにつれ、一部の囚人たちが自分とそれほど変わらない人々であることに気づき始めます。

レイシズムと人種的分離

居場所を求めて、彼女は自身のグループである「白人」のグループに属することとなりました。この刑務所の中では、女性たちが肌の色や年齢、あるいは国籍に関連して異なるグループ・ヒエラルキーに分けられていた様子が描かれます。それが以下のようなグループです。

  • 黒人
  • 白人
  • ラテンアメリカ系(ヒスパニック系)
  • 高齢受刑者

残りの女性たち、つまり少数のアジア系のような上記のどのグループにも属さない受刑者たちは、自分たちのグループを作るか、あるいはいずれかのグループに馴染まねばなりません。

食堂でのシーンではこのような分断が如実に現れており、生徒たちが座る場所や一緒に食事するグループを選ばねばならない学校の食堂を思い出させるような雰囲気です。各グループ間の相違は様々な形で描かれますが、特に話し方に差が見られます。例えば、黒人たちは白人のような話し方はしませんし、ラテンアメリカ系受刑者たちはスペイン語あるいは英語とスペイン語を混ぜて喋る、といった違いです。

実を言うと吹き替え版だと登場人物たちの本質が見えづらくなってしまうので、オリジナル音声で鑑賞していただくのが一番だと思います。

『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』は女性刑務所内にはびこるレイシズムや人種的分離をはっきりと視聴者に示しています。

オレンジイズニューブラック 女性

『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』に登場する多様な登場人物たち

このドラマでは、現代社会を生きる女性たちが苦しむたくさんの問題が掘り下げられています。そのうちの一つが、一部の刑務所職員たちが見せる権力の濫用や男性優位主義です。本シリーズでは、刑務所内のどの部分にも多種多様な登場人物たちが起用されています。

資金を食い物にし、自分たちの利益のために予算を削るような看守長もいれば、薬物の売買を行って受刑者たちに権力を濫用する看守もいます。また、性的虐待についても描かれており、さらには自分の天命を見失った職員や、受刑者をサポートしたり理解する能力を失った職員も登場します。しかし、中には人間性や思いやりを見せる看守も存在します。

このドラマに関して非常に興味深い点が、各エピソードにおいて、メインの筋書きに加えて受刑者のうち誰か一人の物語も描かれると言う点です。『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』では、誰にも気づかれないような脇役にさえ居場所が与えられるのです。

本シリーズでは、登場人物たちの過去の人生を深く掘り下げ、彼女たちがどのようにして、そしてなぜ刑務所に入ることになったのかを描いています。多くの場合、 彼女たちがどう苦しんできたかや、いかに不運だったか、あるいは人生のある時期に良くない決断をしてしまった様子などが描かれています。

オレンジイズニューブラック 女性

このドラマは、刑務所送りになるのは悪人だけである、という考えを覆します。もちろん、中には自責の念を見せず、本当に人を傷つけたり殺してしまった受刑者たちも登場します。しかし登場人物の大部分は人間味に溢れる女性たちであるため、私たちもかなり容易に自分を重ねたり共感を覚えられるのです。

社会的に疎外されたグループ

『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』は、社会的に疎外されたグループを強調して描いています。その中の一人が「クレイジー・アイズ」という異名を持つスーザンという女性で、彼女は特定の社会的問題を抱えています。彼女には自傷癖の痕跡があり、子どものように振舞ったり境界性パーソナリティ障害の側面も見せるようになるのです。しかし彼女は自分自身のスペースも持ち合わせており、そのエピソードから私たちはどんな人生を彼女が送ってきたのかを知ることになります。例えば、彼女が子どもの頃養子として引き取られ、数え切れないほどの障害に挑まねばならない人生を送ってきたことなどが明らかになるのです。

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また、ホモセクシュアリティもメインで取り扱われているテーマです。最近まで、レズビアンはテレビや映画の中でも少数派あるいは脇役的な存在でしかありませんでした。滅多に妥当な扱いを受けて来なかったのです。しかし『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』では、ほとんどの受刑者がレズビアンです。レズビアンではないキャラクターたちも、ある種のレズビアン的恋愛関係を持った経験があったり、服役中に同性愛に手を出してみたりしています

さらに、トランスジェンダーで世捨て人のようなソフィアというキャラクターも登場します。この役を演じているのはアフリカ系アメリカ人の俳優で、トランスジェンダー擁護の活動家でもあるラヴァーン・コックスです。このソフィアにも過去があり、本来の自分を見つけるまでの過程がありました。彼はかつて既婚男性で子ども持つ父親だったのです。そして、性転換前のソフィアを演じたのがラヴァーンの双子の兄だったという面白い事実もあります。

また、薬物濫用に関連する問題も扱われており、トリシアというキャラクターの非常に心の痛むエピソードとともに描かれます。彼女は路上生活者で、生き延びるために盗みを働く若い女性でした。刑務所に入って間も無く、彼女は薬物中毒になってしまいます。

平等のための戦い

高齢受刑者たちもグループを形成しており、その中にはもともと修道女だった女性さえいます。アジア系のキャラクターは少数ですが、それでも登場シーンがあります。『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』では全員に居場所が与えられており、全員が重要なのです。このシリーズは、私たちに女性刑務所に関する新たな視点を与えてくれます。キャストのほとんどは女性ですし、脚本家も多数の女性たちが占めています。あのジョディ・フォスターもエピソードを一話監督したほどです。また、それぞれの受刑者たちの人生について、深く考えさせてくれるようなドラマでもあります。

何話もエピソードが進むにつれ、こういった様々な女性たち同士の交流が生まれていく中で、言語の障壁やレイシズム、ホモフォビア、男性優位主義、暴力といったあらゆる問題が表出していきます。視聴者ももはや彼女たちを、自分とはほとんどあるいは何も縁がないような遠い存在とは思えなくなり、自分たちと変わらない普通の人々なのだ、と認識できるようになります。そしてこれら全てが、もっと多様で開かれた社会へと繋がる一歩になるでしょう。その社会の中で、私たちには平等を求めて闘い続ける一市民としての責任があります。

“あの匿名の詩人たち、つまり署名のないたくさんの詩の作者たちは多くの場合女性だったのではないか、と私は思い切って考えたいと思う”

-ヴァージニア・ウルフ-


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