睡眠麻痺に役立つMR療法
日本では金縛りと呼ばれることもある睡眠麻痺ですが、MR療法が睡眠麻痺の治療に役立ちます。
睡眠障害の一つである睡眠麻痺は、筋肉が麻痺する状態を伴います。これは睡眠状態に入ってすぐのときや目覚めた直後、つまり、レム覚醒サイクルを調節する脳のメカニズムに由来すると考えられています。
睡眠麻痺になると、目が覚めている状態で物事を感じることができるのに、体のどの部分も動かせないという状態に陥るため、大きな不安感、恐怖、そして潜在的な催眠幻覚または覚醒時幻覚につながります。
これは原発性睡眠障害に分類され、精神疾患、薬物乱用、その他の医学的問題が原因ではないとされています。
精神障害の診断および統計マニュアル(DSM-IV、1994)においては、睡眠麻痺を一種の錯眠と呼んでいます。つまり、睡眠の質と睡眠量が睡眠麻痺が起こるかどうかに影響を与えていると考えられています。
睡眠麻痺が起こるのは、一般的にレム睡眠と目覚めの間です。
睡眠障害国際分類(International Classification of Sleep Disorders)によると、慢性的な場合もあれば、1~2回しか発症しない場合もあります。
これは、環境的な要因から進行する可能性もあることを示唆しています。
こちらもご参考に:金縛りはどうして起きる?
睡眠麻痺の主な特徴
レム睡眠の段階における脳の活動は、目覚めているときとほぼ同じです。レム睡眠時に最も複雑で感情的な夢を見るのはこのためです。
そしてこの段階では、筋肉の一部が麻痺しますが、睡眠習慣の変化などによりこの過程に変化が生じ、筋肉のスイッチのおオンとオフの切り替えに影響を与えることがあります。
ご存知ですか?:レム睡眠:最も重要な睡眠段階
どのような生理学的プロセスと関連しているか?
身体はGABA神経伝達物質とグリシンを放出して、身体の筋肉をリラックスさせ、そこから脊髄の運動ニューロンを抑制します。
しかし、覚醒のプロセスに問題があると、体が動き反応する力をを取り戻す前に目が覚める可能性があります。これは大脳辺縁系(感情)システムが、私たちの経験している状況を処理して解釈します。
逃走反応
人間の本能である逃走反応が起こると、扁桃体はこれらの感情に基づいて反応を始めます。暗闇の中で目が覚めているのに動くことができないという状況に対して、脳は極端な危険を感じる傾向があります。
これは私たちが恐怖心などを感じていることを意味しますが、この激しい感情的な経験により、物事を認識する方法に変化が起こる可能性があります。
つまり、視覚、触覚、そして聴覚などの幻覚が現れ始めるのです。
部屋に何か他のものが存在するように感じる
何かが自分を見ているように感じるのは、睡眠麻痺では非常に一般的な現象です。
動くことができないという状況による不安と睡眠状態による想像力の高まりが相まって、周りに何かが存在するように感じます。
私たちの脳は、周りからの脅威に対して高い注意を払っていますが、常にその脅威が近くにあるという意味ではありません。
これが睡眠麻痺において、近くに誰かがいるまたは何かがあるように感じる一般的な理由です。
睡眠麻痺に対するMR療法:幽霊の正体を暴く
多くの研究者は、睡眠麻痺に対する特定の心理的な治療法を見つけようとはしませんでしたが、ケンブリッジ大学心理学部のバランド・ジェラル氏は、2016年に睡眠麻痺にMR療法(筋肉弛緩)を使用することを提案しました。
ジェラル氏の理論によると、恐怖、不安、苦痛が、病相や幻覚を悪化させるのに十分な原因を作り出すというものです。
彼はこれらを軸に潜在的な治療モデルを開発しました。
- 起こっている病相の意味を再確認する:睡眠麻痺の症状は無害で一時的なものであることを認識してください。死ぬことも体が永久に麻痺することもありせん。レム睡眠中だから幻覚が起こっていると認識することで、睡眠麻痺が起こった時に落ち着いて対処することができます。
- 心理的および感情的な距離:心配や恐怖心が症状を悪化させるだけであることを理解してください。睡眠麻痺は超常現象ではなく、単なる身体的な反応であることを記憶してください。
- 自分の注意を内側に向けて瞑想する:睡眠麻痺にうまく対処するためには、瞑想を実践しましょう。瞑想のメカニズムにより、幻覚を無視するように自分の関心をコントロールすることができます。
- 筋肉をリラックスさせる:麻痺や自発的呼吸不能などの身体症状は、無視することで簡単に対処できます。落ち着いてリラックスすることで麻痺などの身体的症状から、注意を自分の内側に向けてください。
MR療法の実践とその重要性
MR療法を活用して睡眠麻痺を軽減したい場合には、睡眠麻痺が起こる時の姿勢や位置などを再現する必要があります。
睡眠麻痺が起こると、その状況に圧倒させられることが多くありますが、睡眠麻痺ではない状態で同じ状態を再現すれば、ストレスを感じることなく冷静にMR療法を実践できます。
MR療法の目的は、受動的に自分が反応して怖い感覚が現れるたびに前向きな考えを持つように準備することです。
リラクゼーション
ラマチャン・ドラン博士などの専門家によると、手足と運動系が同期しないという睡眠麻痺中に起こる状態は、感覚処理能力を変化させます。
つまり、心が「この状況から逃げたい」と思っても体が動かないため、自己認識の全体的な感覚が変化します。
その結果、体が浮かんでいるような感覚や、体の外にいるような感覚、そして怖いものを見ているような状況が生まれます。
睡眠麻痺が起こったら、逃げようとするのではなくリラックスしようとすることで、これらの知覚の変化を防ぐことができます。
治療
基本的に認知行動療法になります。私たちの行動を変えて、負のループに陥るのを予防します。
この治療が効果的に作用するかどうかは、私たちの行動や反応に大きく左右されることを忘れてはいけません。
さらに大切なのは、自分の注意をどれだけコントロールできるかです。
自分の感覚を集中して状況を判断するために、自分の焦点をこれまでとは違うところへと完全に変更する必要があります。
その後は、前述したようにリラクゼーションを行い、負の外部刺激から中立または正の内部刺激へと移動します。睡眠麻痺という体験を珍しいと感じることもあるでしょうが、実際にはそれほど深刻な状況ではありません。
睡眠麻痺の病相そのものは、精神的な苦痛と比べると問題ではありませんが、慢性的な睡眠麻痺は不安などの精神への影響が心配されます。
睡眠麻痺が頻繁に起こる場合や慢性化している場合は、専門のセラピストなどに相談することが最善の方法です。