アクセプタンス&コミットメントセラピーと四つの比喩
心理セラピーでは、患者が自身の問題について知ってもらい、セラピストが伝えようとしていることをより詳しく理解してもらうための手段として比喩が非常によく使われます。シンプルなストーリーを交えて説明することで、包括的な理解と共感を得るのに役立つのです。具体的に言うと、アクセプタンス&コミットメントセラピーで用いられる比喩はセラピストにとって非常に便利な手段です。
アクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)は、アクセプタンス(受け入れること)とアクティベーション(活動的にすること)の、二つの基本的な原則が基になっているセラピーです。従って、苦しみや痛みを避けるのではなく、受けれることが目標となっています。
だからと言って、それは自らを痛みや苦しみに晒し続けなければならないという意味ではありません。反対に、自身の目標を達成するために個人的に自分をコミットさせ、その途中で困難に直面したとしても目標を追い続けることを意味しているのです。だからこそ、活動的になったり行動を起こしたりすることが特に重要になってきます。
この意味では、比喩の利用はとても効果的です。それは、伝えられるストーリーが患者にとって自らを重ね合わせられるようなものだからです。そしてもちろん、どの比喩を用いるべきか知っておくことは非常に重要になってきます。そうすれば、セラピストは患者の価値観に沿った解決策を提案することができるようになるのです。
効果的な比喩
アクセプタンス&コミットメントセラピーで用いられる比喩は、様々な類の問題に適用することができます。重要なのは、患者が有益だと感じるような比喩を利用すること、そして患者にとって治療上必要な変化を受け入れやすくさせるような比喩であることです。
ただ単に患者と無関係なストーリーを伝えるだけではなく、比喩は効果的なものでなければなりません。結果として、比喩は以下のような基準を満たしている必要が出てきます:
- 比喩は、患者の発達段階に見合ったものであるべきです。患者が比喩を理解できることが大切です。ですから、その患者の直接的な経験に関連するもの、あるいは患者の属する社会集団や年齢層の人々にとって共通の知識に関連するものであるべきでしょう(マッカリーとヘイズ、1992年)
- 患者の抱える問題とストーリーは明確に調和している必要があります。
- 比喩は、行動の方向づけをするようなものであるべきです。患者が実際の生活で自らの行動を変えるために踏むべきステップを大まかに説明するようなものでなければなりません。
- その比喩が、解決策を提示してくれるようなものであることが重要です。そうすることで、患者はそれまで見ていなかった行動について知り、自身の問題を再解釈したり解決したりすることができるようになるのです。
アクセプタンス&コミットメントセラピーで用いられる比喩
サメの水槽とポリグラフテスト
「ご自身が、複数のサメが泳ぐ水槽のへり部分に座らされ、とても精密なポリグラフマシンに繋がれている様子を想像してみてください。
あなたに課された課題は、いかなる不安も感じてはならない、というものです。もし不安が検知されれば、椅子は傾けられ、あなたはサメの待つ水槽の中へ真っ逆さまに落ちて行くことになります。さあ、その状況で一体何が起こると思いますか?
ご想像の通り、あなたはおそらく不安を感じてしまうでしょう」
この比喩はパニック発作に苦しむ人々に最適です。彼らは少しでも心配に思い始めると、不安の発作が生じるのを避けようとします。しかし、それに耐えられず、「この状態はとても辛い、不安など感じたくない!」という考えが生まれ、さらに不安に蝕まれていくのです。そして自分の身に起こっていることに気付いた時にはすでに、彼らはもうサメの水槽の中に落ちているのです。
お腹をすかせたトラの比喩
「ある朝目覚め、戸を開けると可愛らしいトラの子どもを見つけます。あなたはそのトラを引き取り、家で飼うことにします。
愛らしいトラはミャオーと鳴き出し、あなたはどうやらこの子がお腹をすかせていることに気づきます。あなたはハンバーガーの肉をいくらか与えてやります。トラが鳴くたびに、さらに肉を与えます。
日々を経るごとにトラは成長していき、ハンバーガーの肉ではもはや不十分になってきます。あばら肉や大きな肉の塊を与えてやらねばならなくなりました」
同じことが人の思考に関しても発生します。このトラと同じように、与えれば与えるほど、それはより肥大化してしまうのです。言い換えると、思考に対して重きを置きすぎると、思考はどんどん大きくなっていってしまうということです。思考にとらわれ過ぎてしまうと、最終的にその人の人生の大部分をそういった思考に支配されてしまうことになります。
チャイニーズフィンガートラップの比喩
「もしチャイニーズフィンガートラップで遊んだことがあるならば、これが指の幅に合わせてストロー菅が編まれたゲームであることをご存知でしょう。両端に指を差し込んで引っ張ると、ストローが伸びて穴が狭くなります。
強く引っ張れば引っ張るほど、穴はますます狭くなり、指を取り出すことが不可能になっていきます。しかし、単純に両方の指を一緒に押してやると、指は解放されるという仕組みです」
では、人生がどれほどこのチャイニーズフィンガートラップに似ているかについて考えてみましょう。何かに対して抗えば抗うほど、多くの制約にとらわれてしまうこととなります。抵抗をやめることで、自分自身の意思決定をする自由が確保されるのです。
穴とシャベルの比喩
「かなり深い穴に落ちてしまい、そこから出るために唯一使える道具がシャベルだった場合を想像してみてください。おそらく何をしたら良いのかわからず絶望を感じてしまい、穴をさらに掘り進めてしまうでしょう。
少しずつ、あなたはさらに深くへと進んでいきます。土をどかせば穴はさらに深くなり、脱出はもっと困難になっていきます。シャベルをもっと違うことに応用できなかったのでしょうか?誰かが助けに来てくれるのを待つこともできたのではないでしょうか?」
これこそ、体験の回避が行われるときに起こることそのものです。困難な状況から抜け出せないことに対して感じる不安は、その人をさらに深くその状況に押し込んでしまいます。しかし、不安を受け入れることが新たな手段を模索する手助けとなるのです。おそらく初めのうちは苦しみを感じるかもしれませんが、長期的な解決策はそれよりも価値の高いものとなるでしょう。
ご覧の通り、アクセプタンス&コミットメントセラピーで用いられる比喩は、人生のある側面について理解するのにかなり便利な手段です。少なくとも塾考するためのヒントとなりますし、時にはある状況を別の観点から見るためにも役立ちます。外部からの情報を取り入れないと、いとも簡単に悪い状況から抜け出すなくなってしまうのです。
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