ASMR:ある幸運な人々のための快感とくつろぎ
子どもの頃、人々が私を魅了するあることを行うのを何度も目にしました。その当時、私に感じることができたのは頭の中が喜びでゾクゾクする感覚だけで、いったいなぜそう感じるのかは分りませんでした。確かなのは、私はその経験が大好きだったということです。時を経て、私はこの現象には独自の名前があるということを発見したのです:それは、ASMR(autonomous sensory meridian response、自律感覚絶頂反応)、もしくは、かなりおかしな言い方ですが、脳のオーガズム、でした。
ASMRへの大いなる関心
その当時、その抵抗できないほど筆舌に尽くし難いこの喜びの感覚は自分だけのものだ、と私は考えていました。実際、私は友人たちに、”呪文にかけられたような、でもなんだか心地良いような感覚を感じる?”と尋ねてみました。もちろん、全員から笑われてしまいました。それからは、私はこの奇行を自分だけの秘密にしておこうと決めたのです。
しかし最近、ソーシャルメディアとその情報拡散力のおかげで、この精神生理学的現象は、私にとってはもはやこれが自分に限ったものではなかったという驚きと安堵を感じることでしたが、今やASMRとして知られているのです。
多くの人、そして研究者たちがASMRに関心を示しています。なぜこれを見たり聴いたりすると快感を感じるのかよくわからないまま、よりたくさんの人々がASMRについて調べるようになってきているのです。他人が自分と共通の何かを持っているという事実を知ることほどの喜びはありませんよね。
ASMR人気の高まりはかなりのものであり、数多くのYouTubeビデオやハッシュタグ、ブログポスト、記事、協会、ポッドキャスト、さらには科学的な研究などが存在するようになっています。”脳のオーガズム”として知られるものが、実は快感を引き起こしたり不安症を治療できる可能性を秘めているというのは否定できない事実なのです。
いくつかの研究によれば、ASMRは多数の人々の脳が本能的に持つ性質であり、彼らはこれをリラックスしたり身体的な快感を感じるための簡単で健全な手段として用いているそうです。
ASMRとは何を意味するのか?
ASMRは、自律感覚絶頂反応(autonomous sensory meridian response)の頭字語です。この反応は、かなり特定の視覚的あるいは聴覚的刺激に限定されます。特別気にかけたり注意力を向けたりすることも引き金となり得ますが、その方法はあまり一般的ではありません。
この頭字語のなかの単語をそれぞれ分析してみましょう:
- 自律。自然発生的で、自分の意図に関わらずに発生します。
- 感覚。感覚、つまり感じることに関する事象です。
- 絶頂。クライマックスに達することを言及しています。
- 反応。これは内的あるいは外的要因によって引き起こされる経験を意味します。
避けがたいウズウズした感覚と手軽なくつろぎ
まず、性的快感とASMR的快感との違いを述べるところから始めましょう。多くの人が、ASMRの快感を首から始まるくすぐったい波が広がっていくような感覚であると表現しています。これが、引き金となる要因それぞれがやってきたり過ぎ去ったりするのに合わせて現れては消えるのです。
雑誌『ザ・ニューヨーカー』の記事では、ASMRを、”ささやき声の静かな音、あるいは衣服がガサガサとなる音、そして頭皮から始まって首の下の方へ、肩、そして手足へと広がる感覚で、穏やかさや多幸感すらそれとともに訪れる”と表現しています。
性的快感とASMR的快感では、本質的にも(その構造や、生理的プロセスも含め)、最終的な結果も(ASMRは実際のオーガズムが得られるわけではない)、目的も(ASMRによって性的衝動を満足させようとする人はいません)異なるのです。実際に、性的に活動的になることとASMR的な活動とでは、相互に全く別物であることが証明されています。
いくつかの例
ASMRを一度も経験したことのない人には、これが一体何なのかを理解するのは困難でしょう。中には、これを快感とくつろぎの穏やかな電流のようだ、と表現する人もいます。
私の場合、最も正確だと思った描写がこちらです:”これは、シャンパングラスの泡の真ん中にいるかのような経験だ”。ASMRの引き金を一度引いてしまえば、その甘い痺れが決して終わらないで欲しいと願ってしまうようになるのは明らかです。
一方で、この反応を引き起こすいくつかの例が以下のようなものです:
- 誰かが囁いている、あるいは柔らかに話しているのを聴く。
- 本のページをめくる音など、シンプルな日常的動作から生まれる穏やかで反復的な音を聴く。
- 誰かが平凡なタスクを行うのを見る。
- 個人的に注目を浴びる。
- 誰かが音を立ててものを噛むのを聴いたり、人がどう食べ物を噛んだり飲み物を飲むのかを見たり、その音を楽しんだりする。
ASMRと医療
ASMRはまだどの公的機関からも認められていないので、治療の代わりとして用いることはできません。しかし、不安障害スペクトラム(全般性不安障害、パニック発作、作業に集中することへの問題、後ろ向き思考、寝付きに関する問題など)に関連する特定の問題の治療にASMRを使用する人々がかなり増えてきています。
ASMRの健康への効果は、瞑想やヨガ、マインドフルネスなどといったその他の手段と似ています。実際、これらの習慣と同様に、ASMRにも心身の健康への好影響があることは科学の世界でも確認済みです。
事実、最新の科学的発見によれば、身体の精神生理学的なくつろぎと快感の状態はいくつかの要因によって決められているそうで、ASMRはこれらを増大させるのです。
考えうる解釈
この現象の起源やメカニズムをバックアップできるような客観的で再現性の高いデータはあまり多く存在していません。しかし、ASMRを好む傾向がある人々はミソフォニア(音嫌悪症)で苦しむ可能性があることが統計によって示されています。だからこそ、専門家たちはこれには遺伝要素がある可能性があると考えているのです。
fMRIが使用された研究では、ASMRのウズウズするような感覚を感じると主張した人々の脳の領域、特に社会行動あるいは対人関係に関わる領域(前頭前皮質)や感触に関わる領域(二次感覚皮質)などが異常なほど活性化していました。そしてこの活性化は、ASMRを感じなかった人の脳よりもはるかに強力だったのです。
実は、幸運にもこの奇妙な現象を楽しむことができる人々は、ASMRがどのように、そしてなぜ起こるのかあまり考えてはいません。彼らは単に素晴らしい快感を感じているのであって、彼らにとって重要なのはただそれだけなのです。