ホント?ウソ?神経神話を暴く
神経科学により、人間の脳に関するあらゆる新たな発見がなされ、この分野への関心は高まっています。しかし残念なことに、脳の研究に関する脱文脈化や解釈の誤りが起こり、「神経神話」が作られています。
神経科学の知識に関する神話は、特に教育界で広まっているようです。そして親、先生また生徒が脳や学習プロセスに関する誤った信念を持ってしまっています。
このような情報のバイアスが、実証されていない教育的メソッドへと繋がっています。また、(親や先生など)教育者の学習プロセスへのアプローチの仕方に影響して、誤った判断や認識をさせてしまうことにもなっています。
神経神話を暴く
すべての神経神話は、真の科学的情報が元になっています。しかし何かしらの理由で情報が歪められたり、研究のある一面のみに焦点があてられることがあります。そこで今回の記事では、よく聞かれる神経神話を暴いていきます!
1.人間が使っているのは、脳の10%だけ?
これは、教育者、超心理学の研究者、広告会社などにより繰り返されているので、最もよく聞かれる神経神話でしょう。この神経神話によると、人間は脳の10%のみを使っていますが、あるトレーニングや学習テクニックを用いることで、その割合を高めることができると言われます。この神経神話では、基本的に脳の90%が使われていないことになります。
この神経神話は、全くの誤りではありません。つまり、脳は非常に力のある体の部分で、その働きから100%すべてが機能することはありません。しかしこれは能力を高めることができないことを意味するのとも違います。接続を強化し、新たなネットワークを作り、脳の健康を高めることにより、能力を向上することは可能です。ただ、「スペース」の問題ではないのです。
もし脳が100%活動した状態になると、莫大なエネルギーが必要とされます。さらに様々な行動が同時に引き起こされます。実際は、特定の行動や認知プロセスを引き出すために、異なる領域を活発化させ互いをつなぐようにできているのです。
また、寝ている間も人間の脳はいくらか働いています。つまり、私達は脳を100%使っていますが、一度にすべて使うのではないということなのです。
2.自分の「学習スタイル」を使えば学びやすくなる?
情報の伝え方と学習スタイルがうまく合えば、生徒はより良く学ぶことができるという考えも、世間で広まっています。普段私達は聴覚、運動感覚、視覚の3つのスタイルを使うことが知られています。この考えでは、生徒の学習スタイルに合わせて、それぞれに合った指導をすべきだということになります。名前順や学習スタイルに合わせてクラス分けをする学校さえあります。
この神経神話は非常によく知られていますが、驚くべきことにこれを支える科学的根拠はないのです。また、特定の方法で情報を受けた生徒が、より良く学習することを示す研究もありません。反対に、これに関し行われた研究結果は、この神経神話を支持するものではありませんでした。
一方で、脳はそれぞれ異なる経験をし、生物学的に異なるというのは本当です。学習プロセスに関し、それぞれ好みがあるのも納得できます。しかしそれはより良く学ぶことにつながるでしょうか?
分かっているのは、感覚的に統合されていない複数の刺激を受け取る時、脳は混乱する可能性があるということです。この場合、脳は情報を吸収し処理するために、より多くのリソースを必要とします。一方で、情報が豊かで複数の感覚を通る時、学習経験は強力になります。
3.右脳と左脳は独立しており、人格を決定する?
右脳と左脳はそれぞれ特定のプロセスに特化し、独立して機能するという考えです。また、必ず脳のどちらかが優勢で、それが人格を決めるとされます。
この神経神話では、右脳はより包括的な思考を司ります。より芸術的、感覚的で、のびのびとしています。一方左脳は、分析、責任、的確さ、構造的、論理性に富んでいます。
右脳と左脳に関するこの考えは、はっきりと誤りだと科学的に示されています。実際は、右脳も左脳もあらゆる情報を受けています。その中で、右脳または左脳の一方でより多く処理される機能があるのは事実ですが、脳の障害がない限り、そのエリアで相互接続的に情報が処理されます。
さらに、右利きか左利きにより脳のどちらかが優勢になりますが、人格や情報の処理の仕方とは関係ありません。右利きであっても左利きであっても、人のスキルや能力は経験や遺伝要因によって決まるのです。
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- Ansari, D., y Coch, D. (2006). Bridges over troubled waters: Education and cognitive neuroscience. Trends in Cognitive Sciences, 10, 146-151.
- Coch, D., y Ansari, D. (2009). Thinking about mechanisms is crucial to connecting neuroscience and education. Cortex, 45, 546-547.