一方的に相手を恋しく思うことによる弊害
自分にはもう二度と振り向いてくれないような相手を恋しく思うことが不健全だというのは本人もわかっています。現実に向き合わず、「こうであったら良いのに」という願いにばかり頼ってしまうのは間違いであり、自分自身を苦しめる行為だと理解しているにも関わらずやめられないのです。過去を想起させるようなものを全て避けるのは不可能のように思え、前に進むことができなくなってしまいます。
どんなドラッグも、記憶を打ち消したりすでに自分の人生にはいなくなってしまった誰かへの恋しさによる痛みを消し去ってはくれません。したがって、残された唯一の手は、できる限り健全な方法でこれに向き合っていくことのみなのです。結局、こういった苦しみも人間として生きることの一部と言えるでしょう。このような経験がその人のあり方を形作り、レジリエンスの身につけ方に関する教訓となるのです。
我々は学習には必ずしも苦しみが伴うということを言いたいわけではありません。しかし、道のりが厳しくなってきたときに諦めたり絶望してしまっては意味がないのです。 私たちには、自分が思っている以上に人生の試練を乗り越える力が備わっています。バラバラになってしまったピースをもう一度つなぎ合わせることができれば、それまで以上に力強い己の姿に気付けるようになるでしょう。
“非常に多くの人々が永遠に袋小路に留まってしまい、残りの人生を痛々しく、もう取り戻れない過去、つまり失われた楽園の夢にしがみついて生きています。これは最悪の、そして最も非情な夢なのです”
–ヘルマン・ヘッセ–
誰かを恋しく思ってしまう一方通行な気持ちを止めるには?
自分の元には二度と戻ってくることのない相手に恋焦がれるのは不健全ですが、非常に一般的な現象でもあります。朝目覚めたときに最初に頭に思い浮かぶのはその相手の人物で、その人物との思い出のせいで夜も眠れなくなってしまいます。そして日中は、全ての曲やテレビ番組、レストラン、本、そして馬鹿げた細かな事柄がその相手を思い起こさせるのです。
過去に生きるのは健康的ではありません。幸せを得るためには、前に進み出すことが不可欠です。とはいっても過去にとらわれてしまうのは普通のことであり、よくある問題だということを理解する必要はあります。沈んでしまう期間は必ずあり、その間は様々な感情や不安、そして心の痛みに対処しなければならないのです。
誰かを恋しく思うプロセスは全く正常なものであり、この経験をしたからといって罪悪感を抱く必要はありません。しかし、その期間を長引かせないようにするのが重要です。長引いてしまうと病的になってしまい、心理学者が”凍りついた悲しみ”と呼ぶ状態に陥ってしまうのです。こうなると、自分では乗り越えられたような気になっていたとしても、実はまだ心の平穏を取り戻せていない、という状況になってしまいます。この地獄のような精神状態が、さらにストレスや不安を高まらせてしまいます。これは、まだその人物の不在による重大な悪影響を受けているためです。
なぜこのようなことが起こるのか?
ここではっきりさせねばならないのが、「前進する」とは相手を忘れるという意味ではないということです。そうではなく、思い出とともに、しかしそれが痛みの原因とならないようにしながら暮らしていく方法を学ぶことなのです。脳にとって、意義深く、強い感情を伴う記憶を忘れるのは簡単なことではありません。
実はその元凶は、神経伝達物質とオキシトシンやセロトニン、ドーパミンといった人間関係で大きな役割を果たすホルモンとの組み合わせです。愛する人と一緒にいると、身体がこれらの化学物質でできた魅惑的なカクテルを作り出し、これが相手への陶酔感情が生み出される引き金となります。
そしてその人物と離れてしまった後も、脳は引き続き安らぎを得るためにこの神経化学物質を欲します。そしてそれが手に入らないと、バランスが崩れ、不安を感じるようになってしまうのです。
解決策も存在する
生きている間、私たちは多くの人々をいろいろな形で恋しく思うことになります。旧友や昔の同僚を懐かしんだり、トラウマになるような悲劇的な理由で誰かを失った場合には痛みを感じるでしょう。自分にとって大切な誰かを強く求めるのは自然なことですし、関係性がややこしい状況で終わってしまっていたとしたらなおさらです。
意味合いの強い関係性、特に恋愛関係は互いの同意なしに終了してしまうことがよくあります。片方の人物の愛が冷めてしまったり、別の誰かと恋に落ちて関係性を終わらせる場合もありますし、ただ単にパートナーの何らかの面に満足できないことが理由で別れる場合もあります。こういったシチュエーションでは、常にどちらか一方のみが報われない愛という重みに耐えなければならないのです。
とはいえ、これら全てに解決策があるので希望は捨てないでください。奇跡的に素早く回復するというわけではありませんが、積極的に取り組めば、新たな生活のスタートを切ることができるでしょう。以下では、効果的な戦略をいくつか見ていきます:
相手とのやり取りをゼロにする
かなり難しいことですが、重要な戦略です。誰かを恋しく思うと、その相手に連絡を取りたくなってしまうのは当たり前のことです。もう一度だけ話をするチャンスがあれば、その人物を取り戻せるかもしれない、と考えてしまいがちなのです。しかし、もし心から破局を乗り越えたいと思っているならば、こういった状況は避ける必要があります。また、ソーシャルメディアでもフォローを外し、彼らのコメントを読んだり投稿に”イイネ”をつけるのもやめましょう。
相手を恨む気持ちは捨て去ろう
関係性が不幸な形で終わると、怒りや悔しさを感じやすいものです。「なぜ?」と説明を求めてしまうと、自分自身がしてしまったことあるいはしなかったことについて自責の念を抱き、自分を大切に扱ってくれなかったと相手をも責めることにつながります。これでは心の状態は悪くなる一方ですし、悲しみの渦に飲み込まれてしまいます。
新たな計画や、新たな目標
誰かの不在を悲しんでいると、過去に縛られ、痛みや切望から逃れられなくなってしまいます。その状態では前に進めず、変わることもできません。
同じ場所に留まり続けるのはやめましょう。失った相手を恋しく思ってしまうのは仕方ないにしても、度が過ぎないようにしてください。心の安らぎを得られる程度に恋しがった後、その思い出が重荷になってしまう前に新たな生活へ踏み出しましょう。
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