ニューロセクシズム:男女間の脳の性差という仮説
男女の脳には重要な差異があると主張する研究があります。それがニューロセクシズムです。ニューロセクシズムは、男女の脳は大きさや形に違いがあると述べています。
こうした研究は神経神話というものに基づくもので、男女間にあるとされている脳の性差を指摘するのによく使われています。興味深いことに、神経科学の分野がこうした神経神話に貢献や支持を示しています。事実、この神話に疑問を真っ向から呈しているのはほんのわずかで、そのほとんどが女性であったりします。
ニューロセクシズムについて、ソニア・レベルテル=バニョン教授の批判的見解を深く見てみましょう。
クリティカル・シンキングvsニューロセクシズム
レベルテル=バニョン教授は、彼女の著書において大変興味深い逸話を紹介しています。1915年、チャールズ・ダナという神経学者が、ニューヨークタイムズ紙にて女性の投票権について持論を述べました。「もし女性がフェミニストの理想を実現させ、男性のように暮らせば、認知症になる可能性が25%増加するだろう」というものです。
ですが、彼のこの意見はどういった根拠に基づいていたのでしょうか?彼によれば、四肢や骨盤を司る背骨上部が女性の場合男性のものより小さく、政治的法案を評価する効率性に影響が出るとのことです。そのため、投票という行為は女性の健康を脅かすものであるというのが彼の言うところです。
レベルテル=バニョン教授によると、こうした見解は「疑似科学的思考」の結果によるものであると言います。レベルテル=バニョン教授はこの語を用いて、科学分野が危険かつ偏見に満ちた考えに貢献していることを指摘しています。また、ダナ博士のケースは、科学分野が長年にわたって「明らかなもの」として築き上げてきた男女間で神経系に性差があるという考えを示すうってつけの例と言えます。
神経神話とニューロセクシズム
2002年の経済協力開発機構(OECD)の調査によると、神経神話は間違って信じられている概念だと言います。言い換えると、神経神話とは、科学的事実を不正確に解釈したもの、あるいは「意図的な歪曲」なのです。
ニューロセクシズムという語自体は新語です。 神経科学の研究がなされたあらゆる考えや説にレッテルを貼り、男女間で脳に差があるという考えを強化しようとするものです。実は、ニューロセクシズムはコーデリア・ファインによって2008年に最初に使用されました。その後、2010年に出版された著書「Delusions of Gender: How Our Minds, Society, and Neurosexism Create Difference」と共に人気を得ました。
そうして、ニューロセクシズムと闘うためにニューロフェミニズムが生まれました。ニューロフェミニズムは、男女で脳が異なるという仮説は間違った研究結果や不適切な手法、証明されていない憶説、早熟な結論に基づいたものであると主張しています。また、科学者は女性の頭脳がどれだけ深みのあるものかを無視していることがよくあります。最後に、偏見やバイアスは結果に影響するともニューロフェミニズムは主張しています。
ですが、脳の性差の研究に関しては、以下のような疑問が大きな影響を及ぼします。
1.「性別」という語意の混同
レベルテル=バニョン教授によると、性的役割存続の主な要素となるのはジェンダー(社会的性別)であり、これは男性支配的であったりそうでなかったりするとしています。
一般的に、ジェンダーが性の相対性の一部であることは明確です。しかし、これは「トランスジェンダー」や「イントラジェンダー」といった語を考慮するものではありません。
また、レベルテル=バニョン教授は、生物学的性別の研究を分析する必要があるとも説明しています。というのも、なぜ私達の社会は持って生まれた性別を2つの異なる「役割」に分け、それによって特定の育て方をするのかという、この理由を説明する科学的根拠というものは本当に存在するのでしょうか?
2.根拠の欠如とバイアス
研究者やメタデータ研究が確かにしたように、仮定とみなされている科学的根拠では、男女間で脳に性差があるという結論を科学的に証明し導き出すことはできません。C・ビダル氏はこれについて、いくつか考えを2011年の論文の中で述べています。
- 少ない被験者数の中で脳に差異があっても、統計的には決定的要素とはなりません。分析対象とする個人の数が増えると、個人間での脳の差異に有意差は見られないことが証明されています。これは、性別に関係なく、脳に個人差があるためです。
- 重要な結果は大抵、人工的に作り出した研究環境の中で得られてきたものです。
- fMRIの場合、スキャンをしても特定の脳の状態を示す静止画像しか得られません。これでは、脳の状態が生物的要因、あるいは文化的経過によって変化するかどうかを証明する直接の証拠とはみなされません。
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