非現実的な期待と、全てを支配下に置きたいという欲求
現代社会で生きる以上、仕事であれ人間関係にまつわるものや家族間のことであれ、私たちはたくさんの責任を抱えなければなりません。そんな中、時代の流れに逆らって自分自身に無理な要求や期待を課さないようにするのは難しい場合があります。今回の記事では、そのような非現実的な期待や何もかもを自らの支配下に置こうとする姿勢について詳しく見ていきましょう。
めまぐるしい現代社会を生きる私たちにとって、息抜きをするのがほぼ不可能になってしまうことが時折あります。全員が終わりのないToDoリストを抱え、時間を管理して有効活用するための日記や手帳には予定が詰まっているのです。そして家に帰れば何百もの家事や取り掛からねばならない家族の問題が待っています。
さらに、「私は良い親になれるだろうか?」、「残業すれば、上司は私の仕事を評価してくれるだろうか?」、「友人たちは本当に私の存在をありがたく思ってくれているのだろうか?」などのたくさんの疑念が毎日のように私たちの心を疲れさせます。
非現実的な期待
自分で自分に押し付けた目標や期待などは、人生のほぼ全ての側面において自分は完璧を目指せる、あるいは完璧であるべきだ、という誤った思い込みを生み出してしまいかねません。
もちろん、目標を設定することで人生が有意義になる場合もあります。しかしながら、自分自身に課した目標が実現不可な理想から生まれたものだったり、シンプルに非現実的だったりして達成できないことが明らかな場合、問題が生じる恐れがあるのです。その一例として、「私は何がっても絶対に仕事に遅刻しない」というものが挙げられるでしょう。
やらねばならない vs やりたい
- まずは、自分で設けた目標を達成できるかどうかを左右する唯一の要因が自分自身のみになっているかどうかについて考えてみましょう。つまり、自らの個人的な資質や能力を使って、そして個人的な環境や人間関係を活用して成し遂げられるもなのかどうかを吟味してください。
- 次に、その目標は本当に心から達成したいものなのか、あるいはただ社会や職場への反応として、またはプレッシャーや自分自身の非現実的な期待への反応として設定しただけの目標なのかについても考える必要があります。
ここで、次のような思考エクササイズの実践が役立つかもしれません。毎日のタスクやアクティビティを、義務のように感じているものと自ら選んで行っているものという、二つのカテゴリーに分けてみてください。そして一つ目のグループには「やらねばならないこと」と書き、二つ目には「やりたいこと」と書きます。簡単な一例を見てみましょう。
「掃除したり洗濯をしたりアイロンをかけたりする必要があるので、今週私は家にいなければならない。でも、数時間気晴らしをしたいからビーチに行きたい」
義務と選択との区別
このようなシチュエーションに陥った時、私たちはすぐにそれぞれの選択肢、つまり「家事をする」と「ビーチに行く」のメリットとデメリットを比較し始めます。この時に、何もかもを支配下に置きたいという欲求、そして生活を自分のしたいことと他人から期待されていること(あるいは期待されていると思っていること)とに分類することの必要性が見え始めるのです。
今ビーチに行ってしまったら月曜日に溜まった家事を片付けたり仕事に行ったり家族の用事を済ませたり、今日できなかった分を取り戻さねばならなくなるだけだ、などという言い訳を使って「ビーチに行きたい」という願望を否定することすらあるかもしれません。このような不安やネガティブな予想こそが、時間を最大限有効活用したいという強迫観念や、生産的でなくなることへの恐れを助長してしまうのです。
こんな風な考え方が始まるとすぐに、やらねばならない義務の方がより重視されるようになっていきます。本当にやりたいことが人質に取られたような状態の中、私たちは「また来週やればいいから」というフレーズで自分を慰めているのです。
支配欲の放棄
私たち全員が受け入れねばならないのは、人生とは変化と進化を続けるものだということです。どれだけ頑張ったとしても、何もかも全てを自らの手で支配することはできません。この事実を認められれば、個人的な関心や欲求、喜び、願望などに基づいた意思決定ができるようになります。そしてそのことは健康とウェルビーイングの促進にも繋がるのです。
自身の生活をきちんと管理し、前述のような非現実的期待を抑え込むことができれば、自分で自分に押し付けている義務が生み出すストレスやプレッシャー、不満から自由になることができるでしょう。
その重荷を肩から下ろせば、私たちは以下のような事柄を実現する許可を自分自身に与えることができます。
- 自己批判や批評に振り回されずありのままの自分でいること。
- 私たちは誰もがミスを犯す生き物だということを認め、自らの持つ個人的素質を評価しつつありのままの自分自身を愛すること。
- 罪悪感を感じずに「ノー」と言える勇気を手にし、アサーティブになること。
- 心身の健康をケアするための時間を作ること。
- 自分の成し遂げたことを認識し、そのためにしてきた努力を高く評価すること。
- 自分自身を最優先事項とすること。自分はわがままであるとは感じることなく、自らの欲求に耳を傾けること。
非現実的な期待を持つのではなく、適応できるよう努力しよう
著作『The Pursuit of Perfect: How to Stop Chasing Perfection and Start Living a Richer, Happier Life』の中でハーバード大学教授のタル・ベン・シャハーは、「私たちは毎日不可能なことを成し遂げようと奮闘している」と記しています。彼によれば、約86%の人間が完璧主義者なのだそうです。このように常に完璧を模索している状態こそ、不幸の一番の根源となっている場合が多いのです。
「踏んでいたアクセルから足を離せるようになる」ことは簡単ではありませんが、実現できれば大きな見返りが返ってくるかもしれません。このプロセスの中で、以下のような発見があるでしょう。
- 自己発見のための筋道を見つけられる。そして、自らの心の動きをより深く理解できるようになる。
- 自身の感情をより上手くコントロールできるようになり、生活の中の自分を不幸にしている側面を手放す強さを持てる。
- 自分自身の選択をする自由を手に入れられる。「やらねばならない」と「やりたい」との間のちょうど良いバランスが見つかる。
- 人生の照準を、幸福や健康、そしてウェルビーイングの追求という方向に変更させる強さが手に入る。