愛することは自分にないものを与えること:ラカンの言葉

誰かを愛する時には、理想を追うような形ではなく現実的な形で愛するべきです。愛するとは、過去に自分を傷つけた人々が残した痛みを脇に追いやって、自分は新たなパートナーと共に「今、ここ」にいるのだという事実を認識することを意味します。その相手は、最善の自分を与える価値のある人物です。昨日の空虚感を今日に投影することはできないのですから。
愛することは自分にないものを与えること:ラカンの言葉

最後の更新: 12 4月, 2021

愛することは、自分が持っていないものを与えることです。自分が持っていないものを与えるというのは、新たなパートナーを唯一無二で、傑出した新しい人間として見つめることを意味します。その相手は、最善最大の自分を与える価値のある人物で、きっと過去の自分の失敗を投影して傷つけたりしてはならない人物のはずです。これは、自由で現実的で成熟した愛し方を意味します。また、その新しい愛が過去に経験したような古い形の愛し方、つまり自分を苦しめていたような愛し方に引き戻されてしまう恐れが一切ない状態のことでもあります。実は、自分にないものを与えるというのは「今、ここ」を大切にし、お互いを心から尊重し合うことを意味するのです。

ジャック・ラカン

フランスの精神分析家ジャック・ラカンが用いたようなやり方で、自身の理論や意見、そして知識を大衆に伝えることができた人物はほとんど存在しません。なにしろ、ラカンはその弁証法的語りで知られていたのですから。彼の超越性と専門的知識はいまだに、私たちが愛のような最も根本的なテーマを認識し、究めることを可能にさせてくれています。

「愛するとは自分が持っていないものを与えることだ」と述べた時、ここでもラカンは精神分析関連のわかりにくい用語で言葉遊びをしていました。一体どうすれば持っていないものを与えることができるというのでしょうか? しかし、彼の意図は人々に思考させることにあり、恋愛関係はしばしば何かの不足状態から組み立てられるということに気づかせようとしたのです。要するに彼は、大人として自分が本当に求めているものは、幼少期に手に入れることができなかった愛情であるという事実に気づいて欲しいと考えていました。

また、過去の恋愛において得られなかった愛情をも、人は次の恋愛に求めようとします。事実、愛がどんなものなのかについての理想を常に過剰に高めて恋愛に及ぼうとする人もいるはずです。しかし、そういった理想を求める観点を捨て去れば、過去から自由になることができ、パートナーに対して自身が決して得ることのできなかったもの、つまり真の愛情を与えてあげられるようになります。

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愛することが自分にないものを与えることだと言えるのはなぜ?

ラカンの「愛するとは自分が持っていないものを与えることだ」という言葉は、人と人とが築き上げる絆の複雑性を強調したものです。これについて彼は、著作『転移(セミネール第8巻)』の中でプラトンの『饗宴』を引用しながら語っています。彼が指摘したことの一つが、愛はしばしば何かの喪失あるいは不足に傷ついている恋人の姿と一致することがある、というものでした。このせいで、自分に欠けているものが実は相手の中に隠されているのだから、相手はそれを自分に与える義務がある、と考えるようになってしまう人が多いのです。

ジークムント・フロイトもまた、この問題を扱っています。臨床の場で彼が気づいたのは、精神分析療法を受けている患者たちがこの種の喪失や、特に幼少期の間に過去の愛が残した心の穴を転移させる傾向があるということでした。このような転移、つまり「自分には何かが不足している」という感覚を、人は人生で経験する全ての恋愛に投影させてしまう恐れがあるのです。

誰かと関係性を持つ時、気づかぬうちに過去の恋愛パターンを繰り返している

ジャック・ラカンもフロイトも、無意識が人の人生に与える影響は私たちの考える以上に大きいと考えていました。実は、恋愛の仕方だけでなく、世界との関わり合い方や友情の築き上げ方にまでその影響は及びかねません。そして無論、そういった人々が何事にも増して欲しており、探し求めているものがあるとすればそれは、愛されることと認めてもらうことなのです。

したがって、「愛することは自分にないものを与えることだ」というラカンの言葉は、無意識の中に埋め込まれた具体的な事実を、つまり幼少期に得られるはずだった失われた楽園を指しているということになります。実は、自身の一部がいまだに幼少期からの暗く不運な影を引きずっているのです。その影はおそらく、親に育児を放棄されたことや恐怖心をケアしてもらえなかったこと、あるいは安全で心を豊かにするような環境を与えてくれなかったことが原因で生まれたものです。

ラカンによれば、成長するにつれて人はこの失われた楽園を癒したいと切望するようになります。さらには、恋愛関係の多くがうまくいかない原因はこの欲求の中に潜んでいるのです。こういった人々は、恋に落ちるたびにさらなる空虚感や切望、不安を自ら生み出しています。その後もこの同じパターンをそれぞれの相手との間で何度も繰り返すので、恋愛が不幸と誤解に満ちた、フラストレーションを生むだけの行為と化していきます。

愛することは、自分が持っていないものを与えること

精神分析学によれば、恋愛において満足感と成熟を手に入れるための確実な方法が一つあります。それは、諦める気持ちと受容の精神を持つというものです。幼少期に受けられなかった愛情を恋愛相手から与えてもらえるはずだ、という考えは捨てねばなりません。なぜならそれは全て過去の問題だからです。また、親の自分への愛情と恋愛における愛情とには何の関係性もありません。

新しい恋愛が始まり、過去に他の人々から受け取ることができなかった愛情を与えてもらえる日を待つことに固執するのは止める必要があります。そういった人々は過去の存在であり、今では何の意味もなさないのです。今の自分が愛している人物は彼らとは全くの別人ですし、他の人々よって負わされたダメージを新しいパートナーに修復してもらおうとするのは端的に言って非論理的かつ未熟で、賢明とは言えない行いです。

必要なのは、ゼロから恋愛をスタートさせることと、過去の自分は愛情を与えてもらえていなかったという事実を受け入れることです。それを受け入れることができれば、与えることに関しても受け取ることに関してももっと自由な気持ちでいられるようになるでしょう。また、相手に対して要求することなくパートナーを受け入れることもできるようになります。過去を捨て去り、現在を大切にすることも可能になるはずです。新たなパートナーは過去に自分を傷つけた人々とは完全に別の人間であるということを忘れないようにしてください。

愛することは自分にないものを与えること:ラカンの言葉

「今、ここ」で愛し、過去への執着をやめる

幼少期の苦しみが何十年間も残り続けることがあるのは事実です。実際に、裏切られたと感じた恋愛や、自身の主義や尊厳が犯されたと感じる恋愛に長期に渡って苦しむことはあり得ます。しかし、新しい恋愛に対して自分自身が心を開くことほど重要なことはありません。したがって、「今、ここ」で新たな関係性のために自分を解放しましょう。これを実現するには時間がかかります。その敷居を乗り越え、より幸せな関係性を築くためには、自尊心を修復し、過去を受け入れて癒し、そして自己愛を強めなければなりません。こうすることが、自分自身にとってもっと豊かな未来を作り出すための唯一の方法なのです。

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  • Masotta, Oscar (2008). Introducción a la lectura de Jacques Lacan. Buenos Aires: Eterna Cadencia. 
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