持続睡眠療法とは?なぜ今では使われなくなったの?

最近では、精神疾患の治療に持続睡眠療法を採用する精神科医はほとんどいません。この療法がそれなりに効果を見せてきたのは事実である一方、副作用などのリスクも考慮しなければならないからです。
持続睡眠療法とは?なぜ今では使われなくなったの?

最後の更新: 20 2月, 2021

実は、持続睡眠療法には長い歴史があります。しかし、精神疾患の治療法として主にロシアで使われるようになったのは、20世紀初頭以後のことです。この療法は、統合失調症やうつ病、不安障害、依存症、そしてその他の疾患に対して有望な成果を上げていました。

最近、持続睡眠療法は在来医療の一部ではなくなっています。しかし完全に消え去った訳ではなく、一部の患者はこの療法で効果を得ていますし、精神科医の中には特殊な症例の治療にあたって今でもこの療法に頼る者もいるようです。

持続睡眠療法は様々な精神疾患の治療において非常に有効に働いてくれる可能性があります。しかし、チェルムズフォード私立病院(オーストラリア)の報告によれば、1963年から1979年までの間にこの治療が原因で亡くなった患者が24名いたそうです。そのため、持続睡眠療法は治療オプションとしては通常、拒絶されるようになりました。

持続睡眠療法とは?なぜ今では使われなくなったの?

持続睡眠療法とは?

精神疾患の初期徴候の一つに、睡眠障害が上げられます。これに沿って言えば、回復につながるような深い睡眠を取らせることが精神の安定性を取り戻すためのベストな方法の一つということになるのです。睡眠がもたらすこの効能は、精神医学や心理学がまだその前身だった頃から知られていました。また、このことが持続睡眠療法が編み出された理由でもあります。

これは、精神科医が何らかの精神疾患を抱える患者に無意識状態を誘発させる治療法です。患者は概して5日〜9日間連続で眠り続けねばならないという、集中型の療法でした。

これほどまでに長時間患者が眠っていられるのは、様々な睡眠薬を服用するからです。食事と排泄の短時間のみ、起きていることが許されます。わかっている限りでは、スコットランドの精神科医Neil Macleodが1900年に初めてこの療法を利用した医師だとされています。

しかし、チューリッヒにある精神科大学病院でこれを治療法として確立させたのは、Jakov Klasiという精神科医です。日本では彼の名付けた通りに「持続睡眠療法」という名称が使われるのが一般的ですが、英語圏では現在、この療法は「deep sleep therapy(熟睡療法の意)」として知られています。

効果

Klasiによって広められた持続睡眠療法はやがて高い評判を呼び、世界中の精神科医に採用されるようになりました。特に、極端な興奮状態にある患者を安定させることに効果的であることが証明されています。また、鎮静と持続した睡眠が患者の精神を安定させるのに有益であることもわかりました。

精神疾患の中には、ドーパミンやアドレナリン、ノルアドレナリンの値を過剰に高めるものがあります。しかし、深い眠りは脳を正常な状態に戻し、状態を安定させるのに役立つのです。脳をリセットしてくれる、という言い方をするとわかりやすいかもしれません。

極端に緊張し、興奮した状態にある人々は、どんなものであれ環境の変化や乱れが起こると非常にダメージを受けやすくなります。しかし、睡眠中にはそういった外部要因が彼らに影響を及ぼすことがありません。また、熟睡していると意識や思考も一時停止するので、 脳を落ち着けて正常状態に戻すことができます。

持続睡眠療法とは?なぜ今では使われなくなったの?

持続睡眠療法の副作用とリスク

当初より、セラピストたちからはこの治療法が引き起こす様々な副作用が報告されていました。Klasi自身も、治療にあたった26名の患者のうち3名が亡くなったことを伝えています。また、複数の精神科医がその他の様々な問題に気づきました。例えば体温の上昇、尿閉、嚥下困難、発話障害、歩行障害といった副作用が見られたそうです。

複数回に渡って精神科医たちは患者に使用する薬剤の変更を試み、結果として全てが改良に向かっているように思われました。しかし、この療法では患者を絶えず監督し、常に観察することが求められます。そのため治療する側もかなりの負担を強いられる上、多くのリソースが消費されてしまうのです。この理由から、抗精神病薬が開発されて以降、持続睡眠療法は徐々に隅に追いやられていきました。

ただ、この療法がトドメの一撃を食らったのは、チェルムズフォーム私立病院(オーストラリア)からのレポートが公表された後のことでした。このレポートには、15年間で1,115名の患者が持続睡眠療法を受け、そのうちの24名が亡くなっていたことが記述されていたのです。そしてその翌年、当局はオーストラリアおよびニュージーランドにおけるこの療法の使用を禁止しました。

こういった事情があるにも関わらず、世界各地には特殊な症例に対していまだにこの治療法を用いる精神科医が存在しています。また、当時報告された死のうちの多くが、持続睡眠療法自体とは関連のないものだったことが後になってから発見されました。

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  • Stucchi-Portocarrero, S., & Cortez-Vergara, C. (2020). La cura de sueño en la historia. Revista de Neuro-Psiquiatría, 83(1), 40-44.


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