殉教者コンプレックスの背後に潜むものとは?

05 7月, 2020
本日の記事では、自己犠牲を基本とするライフスタイルを確立し、常に自身を犠牲者の立場に置くことで快感を得ようとする人々について紹介します。このような状態を示すのが、「殉教者コンプレックス」という用語です。
 

殉教者コンプレックスとは、他人を自分自身よりも優先させてしまうような人々を指す言葉です。こういった人々は、自身の経験よりも他の人々のものの方がずっと重要だ、とすら考えている場合があります。このため、彼らは犠牲者という役割を担おうとするのです言い換えると、自分こそが誰よりも苦しんでいる人物だという状態を必死に作り出そうとするということです。このような生き方をする人々のことを、心理学の世界では「殉教者コンプレックス」と呼んでいます。

心理学では、この人生観は実質的に自らの意志で採用されているものだ、と理解することができます。これは、痛みや被害を受けることで、その人の特定の心理的欲求が満たされるためです。多くの場合、愛や義務、そして自己犠牲といった名目のもとでは、殉教的行為は正当化されてしまいます。

興味深いことに、苦しみを探求することで、殉教者コンプレックスの人たちは自己への評価をいくらか高めることができます。彼らの世界観では、罰則を与えてくれるような相手の行為を親切だと考えるようです。なぜなら、これによって第三者に危害が与えられることはありませんし、より自分が弱い存在だと感じることができるからです。しかし、自分のニーズを無視しようとするため、これが自己破壊的なパターンとなってしまいます。そして、自らを苦痛にさせるようなシチュエーションのなかで永久的に暮らし続けることとなるのです。

殉教者コンプレックス

殉教者コンプレックスを抱える人々の行動

このコンプレックスを抱えているかもしれない人を特定するためには、様々な行動や思考、そして価値観を観察しなければなりません。その中でも特に以下のような特徴に注目しましょう。

  • 自らを敬虔な人物、ヒーロー、あるいは聖人だと考えています。その代わり、他人のことはわがままな、あるいは他人の努力を評価しない鈍感な人々だと見なしています。
  • 自己像を理想に近づけるために、苦痛の度合いを誇張する傾向があります。さらに、自分の話を聞いてくれる相手から注目や承認を得ようとします。
  • 自尊心が低い傾向があります。これは、自分は何の価値もない人間であると頻繁に口にする態度や、自分のパーソナリティを卑下するような態度に反映されています。
  • 「いいえ」と断るのが苦手で、境界線を設けることも困難です。これが、「親切な行為」や家事を多く押し付けられたり、虐待関係に陥るなど、負担を背追い込むことにつながります。また非常に興味深いことに、他人を操るような殉教者コンプレックスの人もいます。このタイプの人々は、自分の「被害者」という立場を利用して他者を感情的に恐喝し、欲しいものを得ようとするのです。
 
  • 自分の抱える問題を解決するための戦略を持っておらず、もしいずれかの時点で解決できたとしても新たな嘆き悲しむものが常に存在する状態です。
  • 他の誰かが「悪者」だというシチュエーションを作り上げる一方で、自らの善良さや好ましい意図を見せびらかす方法を模索しようとします。
  • 誰かを手助けした後の相手の反応にがっかりすることがあります。報酬を期待しているというわけではないものの、反応の仕方に不満を抱く場合が多いのです。これは、心の奥底では自らの行動に対して「おお、なんて親切なんだ」という賛辞が受けられることを期待しているためです。

こういった人々が周りにいる時はどう行動すべき?

殉教者コンプレックスを抱える人と関係を持つのはたやすいことではありません。なぜなら、こういった人たちはいかに自らのコンプレックスが深刻なのかを常に話し続けるので、こちらまでその弊害を受けてしまうからです。

また、こういった人々に助けられると、彼らは自分たちへの借りがあることを絶えず臭わせようとしてきます。このため、このような人物に対処するためには三つのシンプルな戦略を取り入れる必要があります。

  • 彼らからの親切心やその他の自己犠牲的行為を受け入れないようにしてください。殉教者コンプレックスの人々から受け取るものが増えれば増えるほど、その人から失望される恐れが高まり、それが将来的な衝突につながりかねません。とは言っても全てを拒絶すれば良いという問題ではなく、もし本当に手助けが必要なのであればよく考えて、その人を自己満足のためだけに行動させないように心掛けましょう。
  • 悲しみや犠牲心について話している時には、その話題には熱心に関わらないようにしてください。思いやりを見せたり、その人の苦痛を増大させたりしないようにしましょう。そうではなく、好ましい結果だけを強調してコメントするようにしてください。
  • 会話の場を設けましょう。その人物が大切な誰かなのであれば、その人の行動が自分を不快にさせるものであり、その人自身にとっても良くない行為であることを説明してみてください。初めのうちは自分を守ろうとムキになるかもしれませんが、こちら側が冷静に話し、努力に感謝し、解決策を提示してあげれば力を貸すことができるはずです。
殉教者コンプレックス

自分に殉教者コンプレックスがあるときは

殉教者コンプレックスを抱える他人を扱うよりもはるかに難しいのが、自分自身が当事者であることに気付き、認めることです。そのため、もしご自身がこのような行動をしがちであると感じている場合には、以下のリストから自らの行動を評価してみてください。

  • 自分の親切心に対する相手からのリアクションに不快になる。あるいは、相手が「本来すべき」反応をしてくれていない、と感じる。
 
  • 本当は「いいえ」と答えたい場面で「はい」と言ってしまうことが多い。
  • 自分にはできないことに志願してしまった後、言い訳をする。
  • 「いいえ」と答えると他人に立場を奪われてしまったり、他の人の評価が自分の評価より高くなってしまうのではないかと心配になる。
  • 自分の選択肢を吟味することなく、すぐに助けの手を差し伸べてしまう。
  • 自分自身のニーズよりも他人のニーズを優先させていることの方が多いと感じる。

“殉教者たちは、完全に無意味に自らを犠牲にします。あるいは、無意味にというよりかは、わがままな人をもっとわがままにし、怠け者をもっと怠けさせ、そして心の狭い人の心をもっと狭めているのかもしれません”

-フローレンス・ナイチンゲール-

殉教者コンプレックス的な考え方を変える

まずは問題の存在に気づき、受け入れなければなりません。これが考え方を変えるための最も重要なステップです。その後で、異なる行動の仕方を模索し、自分の行為によって他人から悪者扱いされる心配などないことを理解しなければなりません。なぜなら、他者から受け入れられたり愛されるかどうかはそのような行為によって決まるのではなく、あなたがどんな人間かによって決まるからです。したがって、全員を喜ばせようとしたり、全員のニーズを満たそうと努力するのは何のメリットも生まず、ただ精神的な負担となるだけなのです。

他人との関係性の中で、それまでとは違う交流の仕方を見つけてみましょう。違う役割を担うのです。これまで他人中心の生活を送ってきたのであれば、今こそイニシアチブを取り、自分自身で決断し、独力でやっていく努力を始めてみましょう。

この変化への過程の中では、自身の他者との関わり方がバランスの取れたものであるかどうかを検討してみることが絶対的に必要です。また、自分自身を他人よりも上位に置いているのか、下位なのか、あるいは同列なのかについても考えてみなければなりません。

そして何より、自らの責任を自覚し、他者の自由を尊重しましょう。ミスを犯すことは当然のことだと認め、人はそれぞれが独自の方法で反応するものであり、独自の人生観を持っているのだと理解してください。また、自らの人生観は他人頼みにすべきものではありません。

最後に、自分の変化への過程について誰かと話し合いましょう。きっと相手はそれを理解して尊重してくれるはずですし、このプロセスがもっと容易で耐えやすいものになるよう手助けしてくれるかもしれません。ただ、辛抱強さは常に持っておきましょう。この状況を悪用しようとする人も出てくるかもしれませんし、生まれ変わったあなたに慣れるまでに時間を要する人もいるかもしれないということを覚えておきましょう。