神経可塑性と心的外傷後ストレス:脳はトラウマを乗り越えられるか?
トラウマは、様々な感情や精神問題の原因になります。中には、トラウマになるような経験の影で生きているような人もいます。また、心的外傷後ストレスによって形成される行動は世代を超えてみられることもあります。それでも、それを乗り越える希望はあるのです。ここでは、神経可塑性と心的外傷後ストレスの関係を取り上げます。
「トラウマ」という言葉は、きちんと理解されていないケースがあります。重く考えられない場合があり、また過剰に使われることもあります。まず知っておきたいのは、心的外傷後ストレスは、トラウマの認識に役立つということです。次に、社会が考えるような非常に残酷な経験が引き金にならないケースもあります。
トラウマになるかどうかは、個人がその経験からどのように影響を受るか、特にどの程度生活に不適応な影響を受けるかにより変わります。大切な人との悲しい別れなど痛みを伴う経験がトラウマになることがあります。一方で、第三者から見てあまり重大でないと思われる状況からもトラウマになりえます。例えば、母親が父親ではない男性とキスをしているところを見た場合、特にこれを見たのが幼い子どもであれば、トラウマになりかねません。
「不安、悪夢、ノイローゼなどが騒ぎ出すまでに、人が耐えられるトラウマは限られている」
-『ブルージャスミン』、ケイト・ブランシェット演じるジャスミン-
トラウマ
ある出来事の明確な深刻さや特徴だけがトラウマを定義するものではありません。個人が受ける精神的衝撃が問題になります。ある特定の出来事がトラウマのきっかけとなることがある一方で、一連の出来事が続き、その結果としてトラウマになるケースもあります。
重要なのは、トラウマの状態が精神的ショックになることです。トラウマの影響を受けた人は、その状況の処理に役立つ認知的あるいは精神的ツールを持ち合わせていません。これは非常に困ったことです。
このようになるのは、トラウマが突然起こるためです。これらの出来事に対処する用意が神経系にはできていません。そのため、これらに対しきちんと包括的な反応をすることができないのです。
PTSD 心的外傷後ストレス障害
あらゆるトラウマはすべてPTSDと呼ばれるものの原因になります。この障害の表出や重症度は、ことが起こった時の個人の心理状態や経験の重さ、その環境や再起により変わります。
心的外傷後ストレスの影響は主に次の4つに分けられます。
- トラウマとなる出来事の記憶:繰り返されるその出来事の記憶、悪夢、前兆、その出来事を思い出させる何かがあった時の感覚
- 回避:その話題や関連するであろう物事の回避
- 精神状態の変化:起こったことの一部やすべての抑圧あるいは忘却、現実との非接続、無関心、悲観、ポジティブな感情が起こらない
- 不安と反応:不眠症、怒りがコントロールできない、集中できない、緊張、持続的な恐怖、過覚醒
神経可塑性と心的外傷後ストレス
トラウマは精神的健康に影響を及ぼすだけではありません。神経系の再構成やリセットを引き起こします。トラウマを経験した人の脳は変化します。警戒システムが発動し、また状況がうまく対処されるまで、超警戒の状態が続きます。中には、オフになることがないケースも見られます。
さらに、心的外傷後ストレスは脳に爪痕を残します。神経科学の前進により、脳は非常に可塑的であることが分かりました。これはつまり、特定の刺激に反応し変化することを意味します。トラウマが脳に変化を起こすように、他の経験が脳を通常の状態に戻すことも可能だと専門家は考えます。
神経可塑性は経験に反応し変化することのできる脳の力です。現在、PTSDからの回復へ焦点を当て、中枢神経系を変化させるようデザインされた介入法を用いたセラピーもいくつかあります。
神経可塑性、心的外傷後ストレスとセラピー
これを専門とする人物の一人がオランダ人トラウマ研究家のBessel van der Kolkです。彼は、ヨガ、ドラマセラピー、ニューロフィードバックセラピー、経験型心理劇、セラピーマッサージがPTSDの回復に役立つと言います。
また、臨床心理士でトラウマ専門家のAlain Brunetは4部からなる心的外傷後ストレスの治療法を提案します。まず、その出来事を思い出します(同時に鎮静剤が使われることが多い)。次に、それについて書き出し、声に出して読みます。これを週に1度、5週間続けます。
信じがたいかもしれませんが、トラウマを受けた人で、そのトラウマに気づい ていない、あるいはそれに圧倒されるのが嫌で知りたくないという人はたくさんいます。しかし、周りの人からみると、PTSDの症状で本人が苦しんでいることが分かります。
科学の成果により、私達はこれらの経験と共にこれからずっと生きていかなくてもいいことが分かっています。神経科学は私達に、暗い迷路からの抜け道を与えてくれたのです。
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Carvajal, C. (2002). Trastorno por estrés postraumático: aspectos clínicos. Revista chilena de neuro-psiquiatría, 40, 20-34.