善意に潜む危険性
善意は行動にうつさなければ無意味ですが、慌てて行動にうつさないように注意することも大切です。善意を急いで行動に移すことで、自分の目標を達成しようと試みても、思ったような結果が得られずやる気をそぐことがあります。
善意の行動は誰かのために最善を尽くしたいという気持ちから生まれますが、必ずしも自分が望んだ結果になるとは限りません。
「地獄への道は善意で舗装されている」−カルロス・ルイス・サフォン『マリナ』
物事は自分が思い描いた通りに進まないことがほとんどで、善意から始めた行動も人を傷つける結果になることがあります。
善意を行動にうつす前に自分の行動を振り返り、本当に善意の行動を行なっているのか、そしてそれがどのような結果を生み出すのかしっかりと考える必要があります。
行動が善意を無駄にするとき
「夢は必ず叶う。夢を見ることができるなら、それを叶えることができる」
「不可能なことなどない」
と耳にしたことはありますか?
現実には自分が願うだけでは実現できないことが存在します。
特に善意に必要な知識が伴わない場合、それは非常に危険な考えになりがちです。自分の決断が、自分自身だけではなく周りの愛する人にも影響を及ぼし、相手を傷つけるつもりはなくても最終的に周りの人を傷つける結果になることがあります。
例えば病気の家族を助けようと行動するとき、善意だけではなく適切な医学的知識が必要です。善意だけで行動をすると、その人を殺してしまうことになりかねません。
ダニング=クルーガー効果
ダニング=クルーガー効果とは、知識が低い人ほど自分が知識が高いと過大評価をするという優越の錯覚を指します。ある主題に対してほとんど知識のない人が、自分の無知に気づかず自分を有能だと評価することで、心理学者に対して「一度も心理学を学んだことはないけれど、心理学については君より詳しいよ」というのがその一例です。
「能力の低い人は、自分の無能さを認識できず、自己を実際よりも高く評価し、ひいては自信に満ちて見える。このタイプの人々は間違った結論に到達したり間の悪い選択をするだけではなく、その無能さが人間が自分自身の不適格性を認識する「メタ認知」をできなくしている。」−デイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガー
自分の考えにとらわれる
一方向のみに目を向けていると、別の地平線を見つけることができなくなりますし、アイディアが衝突すると調和を保つことができず、緊張感を生み出します。そのため、自分に考えにとらわれている人は、他者の考えを軽視し、自分が最も好む考え方だけを取り入れる傾向があります。
認知的不協和とは「私は自分が他人のために良いことをしていると思う」と考えながら「私のしていることは人を傷つけるとよく言われる」と相反する否定的な考えを抱くことで、排除すべき内面的な緊張感や不快感が生まれることを指します。
私たちの心の機能を考えると、先入観から抜け出すことは難しいと言われています。私たちの考えに相反する何かに対して、自分の立場をサポートするものを見つけたり、新しい考えを提案する人を信用しないことで、瞬時に相反する考えを無効化するのが私たち人間の最も自然な自己防衛反応です。
一部の人にとって、この自己防御反応は、無意識のうちにそして自動的に起こります。そして認知的不協和がダニング=クルーガー効果に加わると、その結果は破壊的です。
自分は有能でなんでも達成することができると考える無知な人が、他人の素晴らしい考え方を拒否する状態が起こります。
知識の重要性
人生の様々な場面で、善意だけでは足りないことがあります。例えば健康問題などの重大な問題が生じた時、専門家によるサポートや道徳的な知識が必要になります。
また多くの人が善意の気持ちを持っていても、前述したように善意だけでは不十分な場合は、自分の善意を行動にうつす前に、専門家の意見を聞き、その指導のもとで行動することが大切です。善意から発生する美しく魅惑的でありながら危険を伴う言葉に導かれて、慌てて行動するよりも、行動には専門的な知識を伴うように心がけてください。