ラカンの理論:「小文字の他者」

「小文字の他者」、あるいは「対象a」は、ジャック・ラカンの有名な理論です。ここでは、それがどのように欲望、不満、その置き換えをどのように処理するのかについてお話していきます。
ラカンの理論:「小文字の他者」
María Alejandra Castro Arbeláez

によって書かれ、確認されています。 心理学者 María Alejandra Castro Arbeláez.

最後の更新: 21 12月, 2022

精神分析学と聞くと、多くの人が、その創設者あるジークムント・フロイトを思い起こすでしょう。しかし、彼のレガシーを継いだ人も何人かいます。その一人が、ジャック・ラカンで、彼の理論では、「小文字の他者」または「対象a」が有名です

ラカンは「a」を翻訳せず、代数記号として残すことを望んでいたため、これを翻訳するのはどこか難しいものがあります。

ここでは、この理論の発展と「対象」の主な特徴の他に、ラカンの思考の枠組みの中の関連するポイントをご紹介します

ラカン 小文字の他者

 

ジャック・ラカンとは?

ラカンはフランスの精神分析学者で、精神分析学に革新的な要素を取り入れた人物です。医学を学び、後に精神科を専門としました。そして1938年、精神分析学者には欠かせない過程である分析を始めます。

ラカンは最初の論文、虚像段階論で最も有名です。これを含めたその他の研究で、ラカンの理論はフロイトに由来しているということにラカンは自分で気づいていました。そして、彼は次の学問の要素も少しずつ取り入れていきます。

  • 言語学
  • 哲学
  • 数学

一方で、ラカンは芸術にも大変興味を持っていました。そして当時親交が深かった仲間には、ルイス・ブニュエル、サルバドール・ダリ、パブロ・ピカソ、アンドレ・ブルトンがいます。さらに、超現実主義に興味を持ち、ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』の朗読会に出席したり、ハイデッガーやヘーゲルの作品を好みました。

当時、ラカンの精神分析学に対するアプローチは、芸術、無意識、虚の関係について新たな視点をもたらしました。それは何より、ラカンがポスト・フロイトはフロイトの研究を解釈し間違えていると考えていたためです。そのため、新たな観点を用い、応用し、概念を広げようとしたのです。

彼はこの問題をとても重要視していたので、自分の意見を国際精神分析協会に送り、これに入会することになりました。しかし後に、ラカンはフランス精神分析学協会を立ち上げ、パリで自ら学派を作りました

 

「小文字の他者」とは?

「小文字の他者」は、精神分析学理論の対象の概念を発展させたものです。「小文字の他者」は、精神分析学の起源となっている対象を特定したいというニーズから生じます。ラカンは、フロイトの「失われた欲求の対象」を参考にしています。また、ドナルド・ウィニコットの「移行対象」やメラニー・クラインの「部分的な対象」についても熟考しました。

そして、ラカンの考えは、一生探しても見つからないものを示す、フロイトの「失われた欲求の対象」と合致しました。これは、満たされない漸近的な欲望で、人は現実に触れることでその欲望から学習することができます

初めは、ラカンの「小文字の他者」は何か満たされたものを得たいという気持ちの欠如を意味していました。それは人の欲求の対象は満たされると他の対象へと移るためです。しかしこの概念はさらに先へ進みます。「対象a」は、フランス語で「別の」を意味する「autre」の最初の文字を指しています。つまり、「別の」または「もう一つの」欲求の対象を意図するようになりました

ラカンは、代数学に基づいた論理的な価値として「a」を用いています。これは、喪失という考えを表すのにラカンが使った概念です。ラカンは、人が欲求や「別の」欲求、喜び、愛、苦悩の混ざった経験をするのを観察したのです。しかし、損失には何かしらの代償を払わなければならないため、人はこれを簡単に手放すことをしません。

ここで言っているのは、あなたが失った何かに関するものではなく、人生で何かが足りないという継続的な思いです。言い換えると、「小文字の他者」が、あなたの人生に足りない何かを覆い隠しています。

ラカン 小文字の他者

 

小文字の他者の特性

「小文字の他者」に、ラカンは様々な名前を付けました。例えば、extimo、libra de carne、愚かさ、苦悩のアレフ、不快などです。これらの名前を使い、ラカンは、この理論やその他の持論を説明づけしようとしたのです。「小文字の他者」に関連する概念には、次のようなものがあげられます。

  • 喜び:「小文字の他者」は、喜びの機能や欲求の原因との関わりの中にあります。そして、「人はどのように喜びを得るか」という質問に答えを出します。私達は、欲求を満たすことにより、喜びを得るのです。これは快楽ですが、一方で苦しみも混じっています。これは快楽の原則を越えて生じるものなのです。
  • 苦悩:喪失が存在しない時、これが生じるとラカンは言います。「小文字の他者」が関係しているのは、これにより現実が創造されるためです。
  • 欠如/不足:「小文字の他者」は、人に本当に足りていないものを明らかにしてくれるようなものです。人生に不足しているものを教えてくれるある種の窓のようなものなのです
  • ファンタジー:ここでは、現実に反するものとファンタジーの両方が関係します。それは象徴的で、本題から少し外れた、重要な構造です。これが「小文字の他者」と関連しているのは、人は自分を置き直そうと、ファンタジーを求めるためです。

 

ラカンの理論

ラカンの理論は非常に幅広く、複雑なため、理解には時間がかかるでしょう。理解しがたい主な理由は、これに使われている言葉や、構造主義や数学を含む概念にあります。理解を深めるためには、まずフロイトの理論を勉強することをお勧めします。これらは相互につながっているため、その後で少しずつラカンの考えを学ぶと良いでしょう。

まとめると、「小文字の他者」は、フロイトやその時代の理論や思考に基づき、その影響を受けたラカンの「発明」です。苦悩、欠如、ファンタジー、欲求、私達のもつ「別の」欲求に関わる余剰の喜びという達成不可能な対象を示します。つまり欲求の原因、欠如を示すものの対象が、「小文字の他者」なのです。


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  • Lacan, J. (1956/1996). El seminario. Libro 4. La relación de objeto, Buenos Aires: Paidós.

  • Lacan, J. (1966/1975). El objeto del psicoanálisis.


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