アルツハイマー病患者のための脳波刺激法

脳の治療法としてのベータ波やアルファ波刺激については、皆さんも耳にしたことがあると思います。では、ガンマ波についてはいかがですか?脳波刺激法が最近のアルツハイマー病治療法であることをご存知でしたか?この記事を読み進め、詳しく見ていきましょう。
アルツハイマー病患者のための脳波刺激法

最後の更新: 12 12月, 2020

あなたはガンマ波についてご存知ですか?脳波刺激がアルツハイマー病治療として効果的だと耳にしたことはありますか?科学とテクノロジーの進歩、および両者の関係性が新たな治療法の発展に貢献してきました。これは、患者にとってのまさにひとすじの光とでも言えるような画期的な治療法です。

アルツハイマー病に関しては数多くの謎が残っています。この病気は検死を行うことでしか確認することができず、その原因は未だ不明なままです。

進行を遅らせる、あるいは病気から回復させるためのセラピーや薬剤、またはその他の形態の治療法はまだ見つかっていません。そのため、どんなに小さな進歩であろうと、病気の進行を遅らせたり認知機能の改善に役立つものであれば大いなる偉業と呼べるのです。

アルツハイマー病患者 脳波刺激法

ガンマ波とは?

ガンマ波とは、周波数が20~100Hzの神経振動パターンのことを言います。約40Hzで放出されるのが一般的です。

この脳波は高度な脳活動、つまりベータ波が反映するよりも高度な活動を反映します。この脳波が現れるのは例えば、人が深く思考している時などです。ガンマ波の存在は、脳が様々な領域を活性化させながら「最高速度で」働いていることを示しています。

さらに、ガンマ波は複雑な実行機能やより高度な精神活動によって発動する脳波だ、とする意見もあります。つまり、見当識や注意、意識、推論といった、多様な脳領域のニューロンを同時活性させる必要のある複雑な活動が行われている時に発生する脳波だということです。これらは全て、様々なタイプの情報を統合し、それにより現実との整合性を取るために行われます。

しかしながら、ガンマ波はこういった類の活動のみならず、集中とは無関係な活動にも反映されるようです。また、爆発的な行動や不安、急激な恐怖心などにも関連していると考えられています。

脳波刺激はアルツハイマー病にどう作用する?

冒頭で触れたように、アルツハイマー病の原因はまだ解明されていません。それでも、研究者たちはこの病気に特徴的な特定の病態生理学的変調の存在については認識しています。例えば、アミロイドβタンパク質の異常蓄積がニューロン周辺のプラーク(アミロイドβ斑)形成を引き起こし、ニューロンの働きを無効にします。また、細胞内での神経原繊維変化やタウタンパク質のリン化などもアルツハイマー病に見られる特徴です。

研究により、アルツハイマー病患者の脳内のガンマ帯域活動には変調が見られることがわかっています。これが、上記で述べたような複雑な認知機能の欠陥に寄与しているのかもしれません。

この発見に基づき、マサチューセッツ工科大学(MIT)が遺伝子組み換えによりアミロイドβの超過状態を起こさせたマウス、つまりアルツハイマー病を起こさせたマウスで実験を行いました。

脳内でのガンマ帯域活動の増やし方と、健康面へのメリット

この実験はMITにあるピコワー学習・記憶研究所の所長Li-Huei Tsaiを中心として進められました。実験内容は、アルツハイマー病を患ったマウスたちに40Hzの光を当てることでガンマ波活動を刺激する、というものです。

その結果、アミロイドβ斑およびリン化したタウタンパク質の量が著しく低下しました。それだけでなく、ガンマ波はミクログリアという脳内の老廃物を除去する役目を持つ細胞の活性をも向上させたのです。

この最初の実験では、ガンマ帯域活動の刺激は視覚野のものだけに限られていました。しかし研究者たちはさらに一歩踏み込み、次は40Hzの音を聞かせることでガンマ振動を誘発しようとします。するとこれにより、聴覚野のアミロイドβだけでなく海馬内のアミロイドβまでもが減少したのです。ご存知かもしれませんが、海馬とは記憶形成に欠かすことのできない領域です。

この結果に満足することなく、研究者たちはさらに視覚刺激と聴覚刺激を組み合わせることによる効果を知ろうとしました。すると結果として上記のようなポジティブな効果が見られただけでなく、どちらか一方の刺激のみしか与えない場合と比べて2倍の有益性が確認されたのです。ミクログリアの反応までもがグッと強まりました。

アルツハイマー病患者のための脳波刺激法

脳波刺激についてのさらなる研究

Tsaiと彼女の同僚たちは、刺激を与えてから一週間休ませたマウスでは、ガンマ刺激による好影響が減退してしまうことを発見しました。このことは、集中的な刺激を与えない限り、この治療法が効果的なものにならないことを示唆しているのかもしれません。

この技法はアルツハイマー病のマウスでしかテストされていませんが、健康な人間に対するテストはすでに始まっています。そして間も無く、早期のアルツハイマー病患者に対するテストも開始されるようです。

しかし、人間の脳はマウスの脳と同じような働きを見せてくれるのだろうか、という最も重要な謎は未だ未解決のままです。この治療法が人間にも有効だと良いのですが!

この刺激法がアルツハイマー病の症状を遅らせたり、あるいは食い止めることすらできるかもしれない、という発見はどんな意味を持つと思いますか?一部の人々は、これを革命的なことだと考えているようです。世界で最も蔓延しているこの認知症には未だ効果的な治療法が存在していないのですから。


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