アメリカン・ホラー・ストーリー:恐怖症とコントロール満載の最新シーズン

08 5月, 2019

聞いたことのない方のために、「アメリカン・ホラー・ストーリー」とは、ライアン・マーフィーとブラッド・ファルチャック企画のアメリカのテレビシリーズです。このシリーズには、前シーズンとのつながりがありません。いつも完全に異なる独立した話の筋があり、前シーズンのことはあまり出てきません。

しかし、特にシーズン5まではメインキャストに大きな変化はありません。俳優はだいたい同じで、シーズンごとに違う役を演じています。

「アメリカン・ホラー・ストーリー」は観る人に自由を与え、どのシーズンから観るか視聴者が選ぶことができます。あまり面白くないと思ったらシーズンを飛ばすことさえできるのです。しかし、大ファンの人たちはシリーズを全部見ます。毎年シーズンを追いかけて、シーズンの中に存在する小さなつながりを探して楽しんでいるのです。

現実とフィクションの狭間「アメリカン・ホラー・ストーリー」

その名前からわかるように、「アメリカン・ホラー・ストーリー」はアメリカの大衆文化からの実話とフィクションを使い、それを恐怖でいっぱいのものにしています。これまで以下のようなたくさんの文化的・歴史的な話を参照にしてきました:

  • 映画界:シーズン4のタイトルは「フリーク・ショー」で、映画フリークス(1932)」を参考にしています。
  • アメリカでよく知られた民間伝承の中にピギーマンというキャラクターがいて、それが「マーダーハウス」や「ロアノーク」に出てきます。
  • ロアノークの古代の失われた植民地など、古代の伝説が参照されています。
  • ブラック・ダリア事件などのよく知られた犯罪で、未だに解決していないものや、さまざまな映画やシリーズに影響されたもの。
  • アイリーン・ウォーノス、ジョン・ウェイン・ゲイシー、ゾディアック事件などの連続殺人犯。

今年は、全く違ったシーズンに、まったく違ったキャストが出演しています。しかし二人のベテランは残っています。それはエヴァン・ピーターズとサラ・ポールソンです。

アメリカン・ホラー・ストーリー

「アメリカン・ホラー・ストーリー」とカルト

AHSは私たちに超自然現象や復讐を求める魂、呪われた家などを見せてきてくれました。しかし、シーズン7には科学的に説明できないものは全く出てきません。修道女のジュードが言ったあの有名なセリフ「怪物はみな人間である」が間違っていなかったということです。

このシーズンで、私たちは最も恐ろしい人間性の堕落を目撃することになります。何か波乱の起こりそうな雰囲気の、トランプが勝って大統領になったアメリカの最近の選挙の場面からすべては始まります。このシーズンでは、政治がカギになるテーマの一つになっているのです。

今までとは全く違うシーズンになるということは予告されていました。シリーズが「再調整」されるのは今回が二回目です。最初は「フリーク・ショー」のときで、これも非科学的な現象はあまり関係のないシーズンでした。予告もとても不思議なもので、集合体恐怖症(小さな穴や斑点の集合体への恐怖)、ピエロ、ヒラリー・クリントンやドナルド・トランプの仮面などが出てきます。

恐怖と操作の危険性

これは議論を巻き起こしたシーズンで、多くの批判も受けています。しかし、メディアの操作にスポットライトを当てることで、最も世の中を反映しているものの一つでもあります。さらに、サーカスやピエロに似た方法で私たちに社会を見せようとしているようにも思えます。

私たちの恐怖や恐怖症はときに自分の最大の敵になります。このことが、アリー(サラ・ポールソン)のキャラクターからよくわかります。シリーズは彼女の恐怖症である集団恐怖症と道化恐怖症(ピエロへの恐怖)と、それが彼女の日常生活、パートナーとその息子にどう影響しているかに焦点を当てることから始まります。しかし「アメリカン・ホラー・ストーリー」では意外なことばかりが起こります。いつも通り、話の中に意外な進展があり、全く予測できない展開を見せるのです

エヴァン・ピーターズの演じるカイ・ピーターズというキャラクターが、この物語の主役です。最初は、彼はとても知的な若者で、優れた操作能力を持っているのがわかります。彼にはとても急進的な政治的考え方があり、そのためにセクトやカルトのようなものを作ることになります。少しずつ、このキャラクターが他の人の恐怖や不安を使って自分の目的を達成しようとする様を私たちは目の当たりにしていくことになるのです。

「誰かのことを恐れているのは、その人が自分より力を持っているからだ。」
―ヘルマン・ヘッセ―

カイ・アンダーソンの思想

登場人物の進化

私たちは登場人物の驚くべき進化を目撃することになります。それぞれの登場人物が、シリーズが進んでいくごとに数えきれない変化を経験します。その中でも、カイとアリーの話が特に目立っています。一人が正気を取り戻すと、もう一人は正気を失ってしまったように見え、一方がか弱いときには、もう一方は強くなります。

「AHS:カルト」は明らかにセクトの危険性と、リーダーの影響について示しています。リーダーたちの性格が本当によく表れており、最も不安で弱い人々が、そういった人々の格好の餌食になる様が描かれています。

セクトのメンバーは本当の名前では呼ばれず、ニックネームで呼ばれます。こうすることで、カイはメンバー自身のアイデンティティーをはぎ取るのです。

あらゆることが、いつ何時でも意外な展開を見せます。どんな登場人物も、その状況によって突然弱さが増してしまうことがあります。みんな操作に常にさらされており、そこから抜け出すのはとても難しいのです。

リーダーをつくること

カルトのテーマは、他のよく知られたカルトのリーダーを常に暗示しています。それには歴史上で最も有名な自殺協定も含まれます。ジム・ジョーンズと彼の「クール=エイドを飲む」エピソードや、マーシャル・アップルホワイトと彼の「ヘブンズ・ゲート」セクト、そして「デビディアン」のリーダー、デビッド・コレシュなど…

さまざまなテーマの中で、彼の「ファミリー」というセクトで知られるチャールズ・マンソンが際立っています。彼は歴史上で最も不名誉な殺人の一つを組織しました。ここでお話しているのはロマン・ポランスキー監督の妻で、妊婦でもあったシャーロン・テートの殺人事件のことです。シリーズでは彼女への殺人を再現し、視聴者を沈黙に包ませています。

カイ・アンダーソンとカルト

カイはこれらのよく知られたリーダーについての物語のナレーターで、エヴァン・ピーターズ自身はそれの解釈を担当しています。カイはこれらの人々を歴史上の偉大な人物や、素晴らしいアイディアの宝庫として見ています。そして彼らを理想化し、模倣しようとしますが、彼らの失敗に対してとても批判的でその理由を分析しています。彼はシリーズを通して、これらすべてのリーダーたちのよりよいイメージを作ろうとします。彼らから刺激を受けつつも、彼らをよりよく、完璧なものにしようとするのです。

「恐怖は人を願望や大望、そして何かが欲しいと思う気持ちから解放するのだ!」
―カイ・アンダーソン、AHS:カルト―

フラッシュバック

カイの思想は他のリーダーたちの人生からインスピレーションを得ていますが、彼自身の経験も含まれています。フラッシュバックを通して、私たちはカイの人生の重要な瞬間を追体験します。彼のナルシストな性格の裏には、苦しみ、犠牲者だった人物がおそらくいるんだろうなと、私たちは信じさせられるようになります。そして、この概要から私たちはすぐに自分を見つめなおします。私たちは一人一人、逆境にどのように立ち向かうかを選んでいます。私たちは皆、自分の恐怖とどう対峙し、それをどう乗り越えるかを選んでいるのです。「アメリカン・ホラー・ストーリー:カルト」の中では、カイはとてもナルシストな女嫌いになり、カルトの女性を完全に劣ったものとして扱います。

この男女のライバル関係が最高潮に達し、私たちは世界を敵対しあい、女性を嫌っているものだと突然思うようになります。この世界では、ヴァレリー・ソラナスと彼女のSCUM宣言、そして彼女のアンディ・ウォーホルの暗殺未遂が起こっているのを私たちは目撃しています。暴力はこれまでも途絶えることはありませんでしたが、私たちはとても違った視点を見せられています。人間性の最悪の部分を見ることで、私たちはメディアや現在の政治システムにより毎日共に生きている操作について考えさせられるのです。アメリカの場合は特にそうです。

「自尊心を傷つけられた人より危険なものはない」
―カイ・アンダーソン、AHS:カルト―