『アトランティス』とディズニー映画における女性の役割

28 6月, 2020
おそらくディズニー作品の中でも最も記憶に残らずに忘れ去られてしまっているのは、『アトランティス 失われた帝国』でしょう。それでも、『アトランティス』はキャラクターたちのスキルや多元性といった点で異彩を放つ作品だと言えます。

ディズニーの手がけるアニメ映画は、世代を超えて何百万人もの子どもたちの心に寄り添ってきました。特に人気の高いものもあればそうでもないものもありますが、おそらくディズニー作品の中でも最も記憶に残らずに忘れ去られてしまっているのは、『アトランティス 失われた帝国』でしょう。それでも、『アトランティス』はキャラクターたちのスキルや多元性といった点で異彩を放つ作品だと言えます。

『アトランティス 失われた帝国』は、2001年にディズニーがプロデュースした映画です。映画『ノートルダムの鐘』の製作者でもあったゲイリー・トルースデイルとカーク・ワイズが監督を務めました。『アトランティス』では、驚くほど登場人物たちが多様で、彼らの国籍や文化的バックグラウンドはそれぞれ異なります。この映画はジュール・ヴェルヌによる物語、特に『地底旅行』を元にして作られました。しかし、『アトランティス』では未来的な審美眼が垣間見られ、スチームパンクスタイルが取り入れられています

メインキャラクターの一人であるマイロ・サッチは言語学者兼歴史学者です。アトランティスの失われた都市を探す探検の冒頭で、マイロはその後仲間となる冒険家たちと出会います。探検隊のリーダーはローク司令官で、彼が引き連れるのは謎めいた女性ヘルガ・シンクレアです。また、爆破のプロのイタリア人、ヴィニー・サントリーニも登場します。モール・モリエーレはフランス人地質学者で、ジョシュア・スイートはアフリカ系アメリカ人の医者です。さらに、オードリー・ラミレスと言う冒険好きの整備工で、ウィルへルミナ・パッカード号という船の機関室長を務める若い女性も登場します。

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『アトランティス』、冒険の詰まった映画作品

この映画は、文明発祥の地であるアトランティスの都市の崩壊から始まります。オープニングシーンで私たちが目にするのは、都市の保護者としてアトランティスの女王が選ばれる様子です。

それから数百年後の1914年、マイロ・サッチが登場します。若き歴史学者である彼は、歴史や言語の研究に情熱をかけています。一方、アトランティスの失われた帝国を見つけるための調査に多大な資金を投じているのは、奇妙な大金持ちの男性、プレストン・ウィットモアです。彼は、歴史や神話、そしてアトランティス語の翻訳の専門家としてマイロを雇います。

大海原に繰り出して間も無く、探検隊は船を壊そうとする巨大な海の怪物に遭遇します。それでも、生き残った者たちはなんとか海の中にある洞窟を見つけ、海底からその地下へ進んでいくことになりました。しばらく進むと、探検家たちはついに失われたアトランティス帝国を発見します。ここで登場するのが帝国の戦士キダーガカッシュ(キーダ)姫です。彼女はのちにこの都市の神秘的力を取り戻すため、マイロの力を借りようとします。

マイロとキーダが古い碑文を訳している間に、ローク司令官はアトランティスの王に対して陰謀を図ります。ロークは、帝国を生かしておけるほどの強力な力を持ったクリスタルを盗むために、王を殺してしまいます。クリスタルを盗みだすことに成功した彼は、洞窟の道を引き返してこの都市から脱出しようとします。

しかし、キーダ姫とマイロたちグループに引き連れられたアトランティスの市民たちがローク司令官と戦い、彼を打ち負かします。そしてロークは彼に裏切られた腹心の部下ヘルガ・シンクレアの手によって銃殺されました。

クリスタルを取り返すことに成功すると、アトランティスは再び輝きを取り戻します。人々はキーダ姫にアトランティス王の称号を与え、マイロと彼女は恋人同士となります。残りの探検は、アトランティスの市民たちから譲り受けた莫大な財宝をイングランドへ持ち帰る旅です。

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ディズニー映画における女性たちの役割

『アトランティス』は紛れもなく、ディズニーの女性描写に関する障壁を打ち破った作品であると言えるでしょう。それ以前は、ディズニー映画のメインキャラクターとして自立した強い女性が描かれることなどほとんどなかったのです。

一般的なディズニープリンセスのイメージといえば、綺麗な肌と細い身体を持つ、いつもドレスを着ているような美しい女性です。例えば白雪姫や眠れる森の美女を思い浮かべていただければわかりやすいと思います。このようなステレオタイプ的な女性ディズニーキャラクターは、常に機嫌が良いというのも特徴です。全体的に、彼女たちは映画の真の主人公、つまり男性たちをサポートするキャラクターとして描かれているのです。

この状況を示す例として、『美女と野獣』のベルが挙げられます。彼女の人生は周囲の男性たちを巡って動くのです。ガストンから好意を向けられ、父親の命を救い、野獣に寄り添って世話をし、やがて愛情を抱くようになる…このような描き方を見ればおわかりいただけると思います。女性が主役(『ムーラン』や『ポカホンタス』などで見られるような戦士として)になっている数少ないケースでも、物語の中で重要視される女性は主人公のみです。

だからこそ、『アトランティス』は全てのディズニーアニメ映画の中でも先駆者的な作品なのです。この映画は、子どもや若者向けのアニメ映画における女性たちの立場を守ることに成功しました。実際に、私たちは物語全体を通して、複数の女性キャラクターたちが様々な役目を果たすのを目の当たりにすることができます。

『アトランティス』に登場する女性たち

まず全ての中心となっているのがキーダです。彼女は姫でありながらも民を救いたいと切望する戦士でもあります。ただ、彼女にはそうするための方法がないだけなのです。キーダは市民たちを導き保護する宿命を背負っており、父親の意志に背くことを決意します。古代の予言書を翻訳するにあたりマイロと協力することにはなるものの、それはこれがアトランティスの栄誉を取り戻す唯一の方法だったからです。

そしてこの映画で最もカリスマ性の高いキャラクターがオードリーです。この勇敢な若い女性は、従来であれば男性が行なっていたような仕事である整備工を生業としています。機械に興味を持つようになったのは、息子を持つことを望んでいながらも結局二人の女の子に恵まれることとなった父の影響であることを、オードリーは認めています。しかし彼女は、社会の期待に応えようとして本来の自分を曲げるような女性ではありませんでした。オードリーはいつか自分の工房を持つことを夢見る起業家なのです。

『アトランティス』とディズニー映画における女性たちの役割

二人とは対極的な存在として、ヘルガ・シンクレアというキャラクターがいます。印象的でミステリアスな女性で、自身の目標を果たすことだけに集中している人物です。彼女は人を誘惑するような演技もしますが、これもただ目的を成し遂げるためだけなのです。ローク司令官の部下ではありながらも、彼女には強い個性と彼女自身のモチベーションがあります。最終的にはロークから致命傷を負わされ、その裏切りへの復讐として彼を銃殺しました。

女の子たちが真似できる良いお手本

社会が子どもたちにステレオタイプ的な考え方を押し付けてしまっても映画にその責任があるわけではない、と言う人々がいます。しかし、複数の研究でこれとは異なる結果が示されているのです。これらの研究では、大人の行動と、彼らが成長期に見てきた、あるいはしたがってきた行動モデルやお手本との関係性が明らかにされました。

このため、女の子たちにとって映画に出てくる素敵な女性キャラクターたちから影響を受けることはとても重要なのです。強くて知的で自立した女性キャラクターに囲まれて育つと、より有能で自律的な女性へと成長できる可能性が高まります。

“私たちの生きた証は、子どもたちに託す贈り物として記憶に残されるだろう”

-プレストン・ウィットモア-

『アトランティス』は、ディズニーのアニメ映画の中により多様な女性たちを描くという道を開拓しました。数ある名作映画の中でも、女性を有能で知性がある、自立した存在として登場させたのはこの映画が初めだったのです。その後、『アナと雪の女王(2013年)』や『モアナと伝説の海(2016年)』といった作品がこの新たな慣例に加わっていくことになります。