治療されないうつ病がもたらす神経組織への悪影響
治療されずに慢性化し、長年治らずにいるうつ病は、その人物の脳を変化させてしまうことがあります。この精神疾患によって引き起こされる脳の変化が、前頭前皮質などの脳構造に影響をもたらし、患者の意思決定能力や問題解決能力、状況を分析する能力などに支障を与えてしまいます。
神経炎症や脳への酸素供給の不足、そして神経伝達物質の生成や大うつ病などの疾患の結果として現れる脳のプロセスへの変化は、脳の多くの領域の機能を神経変性疾患と言えるほどのレベルにまで減退させてしまいます。しかし、こういった変化が見えてくるのは、患者が9〜12か月ほど精神疾患に苦しみ続けた時なのです。
ここでおそらく、なぜうつ病を治療せずにいる人がいるのか、という疑問が湧いてくることでしょう。苦しみを止めるために専門家の助けを得ることを妨げているものは何なのでしょうか?結局のところ、こういった問いに絶対的に正しい答えがあるわけではありません。この気分障害の複雑さを一言で表すのは困難なのです。
ある患者たちは、自分の病状が良くなることなど決してあり得ないと信じ込んでいます。病気が盾のようになり、助けを求めるのを妨げてしまっているのです。また別の患者たちはセラピーに対して誤った概念を抱いていたり、そもそもセラピーを信用していません。そしてもちろん、自分が病気だということを認めたがらない人々もいます。
一方で、ただサポートを得るための資金がなかったり、社会的援助を得られないだけである場合もあります。悲しいことに、うつ病を治療しないまま暮らし続けるというのはよくある事例なのです。そしてその結果が深刻なものであることもよくあります。
“成功がゴールではないし、失敗したからといって取り返しがつかないということではない。重要なのは継続する勇気なのだ”
治療されないうつ病がもたらす結果
自らが過去にうつ病に苦しんだことがある、あるいは現在うつ病を抱えている、もしくは近親者がうつ病を経験したことがある、といった理由でうつ病についての理解がある人々はたくさんいます。その意味では、うつ病がどんなものなのか、身体的な面、社交的な面、そして行動面に関する知識はごく一般的なものだと言えるでしょう。しかし、そんな中でも脳への影響については知らない人が多くいます。
アメリカのサウスハンプトン大学の神経病理学教授であるヴィクター・H・ペリー博士によって行われた興味深い調査の中で、彼はこの重要な事実について説明しています。大うつ病を抱える人々は、かなりの長期間にわたって脳の変化による影響を受ける可能性がより高い、ということが証明されました。また、再発することも稀ではなく、そのせいでこの厳しい現実に何十年間もの間向き合い続けねばならない人々もいるのです。
未治療のうつ病や慢性化してしまったうつ病は、神経を変性させる恐れがあります。
様々な脳の領域が縮小する
イスタンブール大学のディラーラ・ユクセル教授による研究では、脳の変化は大うつ病が治療されずにいる場合や、あるいは3年間の治療に効果が見られない場合に引き起こされることが示されました。中でも最も大きい影響が、以下のような様々な脳構造でサイズが減少することです:
- 前頭前皮質
- 視床
- 海馬
- 扁桃体
これらの領域は記憶、感情処理、実行機能(問題解決、注意力、管理能力、環境への反応など)において役目を果たしています。
C反応性タンパクと炎症
さらに、未治療のうつ病は生物学的な影響も与えます:神経炎症を増加させるのです。トロント大学メンタルヘルスサービスのジェフ・メイヤー博士は、80人の患者を10年間にわたって分析しました。そのうち半数が大うつ病を患っていましたが、治療は一切受けていませんでした。この調査の目的は、この病気を治療せずにいることで脳にもたらされる影響を発見することでした。
- 前頭前皮質、海馬、そして扁桃体でC反応性タンパクの大きな集積が観察されました。
- このタンパクは炎症に関連しています。こういった具体的なケースでは、薬物治療が有効である可能性が極めて高くなります。
脳への酸素供給の減少
これがもっとも衝撃的な事実と言えるでしょう。東京大学の柴田博士による研究などにより、未治療の気分障害が、脳への酸素供給が減少する軽度の酸素欠乏症につながってしまうことが明らかにされています。その結果、患者は常に疲れを感じ、動揺状態になり、集中力が低下し、偏頭痛に悩まされることとなります。酸素欠乏症の影響は可視的です。そのため、近年医師たちは高圧酸素療法を症状軽減のために用いています。
まとめると、大うつ病が患者の脳にかなりの悪影響を与えることは明白だ、ということになります。事実、この病気によって脳の機能に変化が生じ、これによって不快感が増すこととなり、その他の認知問題を患う可能性が増大し、治療の効果を得られにくくさえしてしまうのです。
とはいえ幸運なことに、科学者たちによって新たな技術が探究されてきています。例えば、非電気けいれん療法の経頭蓋磁気刺激法(TMS)は、患者の生きやすさをグンと増大させます。この療法では、問題のある領域に向けられた磁気パルスが、生化学および接続性の両方を向上させます。専門家によれば、それはまるで脳を「リセットする」ようなものだそうです。こういった、新たな希望に満ちた打開策に今後も注目しましょう。
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