断続的断食による心理学的なメリットとは?
私たちは食事療法の時代を生きています。体内のデトックスをするための食事療法、体重を減らすためのケトン食療法(ケトジェニック・ダイエット)、消化管の健康維持のための食事療法、エコ・フレンドリー食、パレオダイエット(原始人食)など様々な食事療法が存在していて、挙げていけばキリがありません。中でも近年特に人気なのが断続的断食ですが、これには支持者の数と同じくらい批判も存在しています。
断続的断食とはどのように実践するものなのでしょうか?その生理学的、心理的、認知的メリットはどんなものなのでしょう?本日は、なぜこの食事療法が今これほどの人気を集めているのか、いくつか理由をお伝えしようと思います。
断続的断食とは?そのやり方は?
断続的断食は、断食期間と摂食期間がある程度決められている食事法です。再び定期的に食べ始める時間帯が来るまで、一日の間で食事を完全にあるいは部分的に控える時間を一定時間設けます。そして食べる時には、食事内容はバランスの良いものとし、身体が必要とする栄養分を確実に取れるようにしなければなりません。
断食期間中は何も食べないことになってはいますが、断食を「破らず」に消費することのできる食べ物もいくつかあります。それはお茶や薬草などを煎じた汁、ブラックコーヒー、コンブチャ、骨や野菜のだし汁(ブイヨン)などです。
断続的断食の実践法は様々で、考えてみれば誰もがある程度は断続的断食を行なっているとも言えるでしょう。だからこそ、英語では一日の最初の食事を「breakfast(断食=fastを、断つ=break)」と言うのです。眠っている間の断食期間を朝食によって中断するというわけですね。しかしながら、断続的断食における断食期間はもう少し長いものとなります。食べずにいる時間を長くしてみたいのであれば、その試みは漸進的に行わねばなりません。食べ物なしでいる時間帯の長さに、ゆっくりと身体を慣らしていきましょう。以下では、最も一般的なタイプの断食法をいくつかご紹介していきます。
12時間断食(12/12)
これは行うのが簡単である上、それほど犠牲も伴わないので、初心者にベストなタイプの断食だと言えます。やるべきことはただ、夕食の後12時間は食べ物を完全に控えるようにすることだけです。したがって、午後7時に夕食を食べるのであれば、次の日の午前7時までは朝食を食べてはなりません。もしこれがすでにあなたの普段のスケジュールに反映されているのであれば、それは素晴らしいことです!ご自身でも気づかないうちに断続的断食を実践していらっしゃるということですよ。
このスケジュールに合わせられない場合には、朝食と夕食の間に12時間断食期間を設けても構いません。
16時間断食(16/8)
これは、一部の人から「リーン・ゲインズ」と呼ばれている断食法です。ここでは断食時間が16時間に増えて、食事が可能な時間は8時間になります。断続的断食に関する研究はこのスケジュールタイプのものに的を絞ったものが一般的です。また、これはより長い断食時間を設ける食事法としては最も人気が高く、最も簡単だと言えるでしょう。
ほとんどの人が、夕食を食べてから翌日のランチまでの間断食します。朝食は抜きです。重量挙げの選手やクロスフィット選手、そしてたくさんのアスリートたちが筋肉量を増やすための手段としてこの断食法を実践しています。
20時間断食(20/4)
これはウォーリアー・ダイエットとしても知られています。その断食時間の長さゆえ、かなり挑戦的な断食法だと言えるでしょう。実践方法としてベストなのは、一日の終わりにバランスの優れた大量の食事を摂り、身体に適切な量の栄養を補給してあげるというやり方です。
20時間断食の背後にあるのは、旧石器時代の人間は天然の「夜食型人間」だったのだ、という考え方です。つまり、彼らは日中を狩猟時間に充てていたため、食べることができるのはその仕事を終えた後だけでした。
厳しい食事法ですが、24時間断食や48時間断食ほど困難ではありません。そういった極端な断食手法は、ごくたまに、医師の監督の下でのみ行うべきでしょう。そのようなより過酷な断食に興味がおありの場合は、徐々に身体を断食に慣らしていくことが重要です。
生理学上のメリット
断続的断食は、大抵の人々の日常的な食事の摂り方よりもよっぽど「自然」だと考えられています。独断的なスケジュールに従い、空腹か否かに関わらず「適切な」時間に食べるという、機械的な食事の仕方をしている人が大半ですよね。
断続的な断食は身体にとって非常にメリットが大きいです。そのうちのいくつかを以下に紹介します。
- オートファジー(自食作用)が高まって便通が良くなり、消化管を「一掃する」効果がもたらされます。
- 断食により炎症や酸化ストレスが抑えられます。
- 代謝柔軟性が改善されるので、代謝が上がります。
- インスリンへの感受性が増します。
- 成長ホルモンの生成が増加します。
- 体重コントロールが上手くできるようになります。
断続的断食による心理面のメリット
断続的断食による上記のような生理学的メリットは、認知的・心理的メリットにも繋がります。以下がその例です。
- 集中力が向上します。進化論的観点から言うと、食後は認知機能が遅くなるということを覚えておくのが大切です。これは、ものを食べた後には副交感神経系が優位になるためであり、これにより多くの認知機能を担っている交感神経系が非活性になります。また、断食期間にノルアドレナリンやオレキシンといった集中に関連する神経伝達物質の値が高くなることも研究によって示されています。
- 神経の可塑性を高めることができます。神経の可塑性とは神経細胞間の新たな繋がりを作り出す脳の能力のことです。ケトーシスという代謝状態(血中のケトン体濃度が上昇している状態)に入り、多様なエネルギーの獲得法を切り替えつつ取り入れることで、脳の可塑性が高まります。
- うつ病の予防になります。脳内には、BDNF(脳由来神経栄養因子)と呼ばれる物質が存在しますが、うつ病の人々はこれをほぼ有していません。そのため、BDNFの生成を促すことがうつ病予防につながりますが、これは断続的断食によって実現できるのです。
- 炎症過程から身体を守ることができます。炎症は、正常な神経系の機能を妨げることがあります。炎症過程が起こっていると、脳は持っているリソースを送り出して炎症と戦おうとし、認知機能に用いられるはずのエネルギーを流用するのです。したがって、断食期間に体内の炎症を減らすことで、身体は自身のリソースをもっと効率的に利用できるようになります。
- 自分と食べ物との関係性を改善できます。食べることは、ある種の強迫観念や気晴らしになってしまいかねません。あなたは、退屈を感じて冷蔵庫を開いてしまう自分がいることに気づいたことはありますか?自分と食べ物との関係性を調整し直すことは、空腹や満腹を認識するのに役立ちます。そうすることで、感情的摂食を回避しやすくなるのです。
- 精神的疲労を減らすことができます。大量の糖分や加工度の高い食品を食べるとインスリンスパイク(血糖値の急上昇を受けてインスリンが多く分泌されること)が引き起こされる恐れがあり、これが精神的疲労に繋がります。断食期間の後に完全未加工の食品を食べることで、そういったスパイクを減少させることができるのです。
断続的断食は全員に適しているわけではない
断続的断食は生理学的にも心理学的にも効能をもたらしてくれますが、全ての人に適しているわけではありません。妊娠中あるいは授乳中の女性、1型糖尿病の患者、BMIが非常に低い人、摂食障害のある人、子ども、そして肝不全を抱える人々は断食を行うべきではないでしょう。
また、断続的断食にはいくつかマイナスポイントもあります。食べ物への執着が生まれるきっかけになる恐れや、不安感が生じる恐れ、そして非断食期間の過食に繋がる恐れがあるのです。そうなると過食症や神経性大食症といった摂食障害が引き起こされる可能性があります。
したがって、上記いずれかのカテゴリーに属する人に断続的断食は適しません。それ以外の方々は、ぜひ試してみてはいかがでしょうか?健康状態やウェルビーイングが大きく改善されるかもしれませんよ。最後になりますが、どんなものであれ新しい食事法を試す場合には必ず事前に医学の専門家に相談するようにしましょう。
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