エリン・ブロコビッチ − 誰もが望むアンチヒロイン

02 10月, 2020
『エリン・ブロコビッチ』は、誰しもが一生に一度は観るような名作映画の一つです。物語は事実を基にしており、映画では社会的・経済的に恵まれない家庭の多くの人々に対する不正を止めるべく、大勢の人々に果敢に挑んだ女性を描いています。

『エリン・ブロコビッチ』は、アメリカにおける集団訴訟の中でも最高額の賠償金を勝ち取った、とある女性の真実の物語に基づいた法律ドラマです。

スティーブン・ソダーバーグがメガホンを取り、ジュリア・ロバーツは当時の女性映画スターとしては最高額の報酬を得てこの役を演じました。この作品は第73回アカデミー賞において5つのオスカーノミネーションを受けています。
エリンの物語は、3人の子を持つシングルマザーの物語でもあります。負傷の過失を問う個人的な裁判に敗訴した彼女は、担当弁護士のエド・マスリー(アルバート・フィニー)に職探しを手伝ってくれるか、と尋ねます。彼の事務所で文書整理係として働き始めた彼女は、パトリック・ガス・アンド・エレクトリック・カンパニーという大企業に対するあまり知られていない申し立ての情報を発見します。そしてそこに記載されていた事実が腑に落ちないものだと確信したため、彼女はこの事件の詳細を調査し始めました。
次第にエリンは、ある都市の水道水が産業毒素におかされており、共同体全体の健康を脅かしているという非常に危険な事実が組織的に隠蔽されていたことを発見しました。この映画では、自身が産業汚染水の被害者であることを知ってさえいなかったような人々のために正義を勝ち取ろうとした、エリンの個人的な奮闘を掘り下げて描いています。

“私たちは自分たち自身のスーパーヒーローにならなくてはならない”

-エリン・ブロコビッチ-

エリン・ブロコビッチ、予想外のアンチヒロイン

二度の離婚を経験し、三人の子どもたちをたった一人で育てているエリン・ブロコビッチの職探しは難航していました。彼女は学位を有しておらず、フォーマルな場にはそぐわない言葉遣いでしか話すことができず、スカートよりも長いスチレットヒールの靴を履いています。

そんな彼女が、有力で巨大な電力会社による汚染スキャンダルのヒロインとなりました。映画のタイトルとなった女性エリン・ブロコビッチを演じた女優ジュリア・ロバーツは、この役に入り込むにあたって必要なエネルギーと活力の全てを注ぎ込んでいます。彼女の演技はこの作品を目覚ましい成功に導いた、恒星の輝きのような素晴らしいものでした。
映画が伝えるのは、幾分不機嫌な元美人コンテスト覇者エリン・ブロコビッチの、信じ難いけれど事実に即した物語です。小さな法律事務所に低賃金で雇われていた彼女は、汚染水を巡って巨大な訴訟を起こすことに成功しました。その結果、アメリカ合衆国の歴史市場最大額の3億3300万ドルという賠償金が、パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック・カンパニー(PG&E)によって支払われることになったのです。
ただ、スザンナ・グラントによる脚本は法廷や裁判所にはあまり触れていません。代わりに映画がフォーカスを当てているのは、重大なミスを正さねばならないという情熱的な確信がきっかけとなった、ある女性の自己発見の旅路なのです。この熱意が湧いたのは原告たちが彼女自身と似たような人々だったためです。それは、大企業の無関心で侮辱的な行いによってウェルビーイングを脅かされた重労働者たちでした。

人生を変えた交通事故

エリンは、あるドライバーの過失による交通事故で筋肉を負傷しました。そして相手ドライバーに対する裁判で敗訴した後、自身の担当弁護人だったエド・マスリー(アルバート・フィニー)を半ば脅迫してロサンゼルスにある彼の事務所で雇ってもらえるようにしました。服装や言葉遣いを好ましく思ってもらえなかったため、彼女は同僚たちを好きになれません。それにもかかわらず、エリンの仕事の腕前は上がっていきました。

そんな中、書類の整理をしていた彼女はとある医療記録を発見します。これが実は、カリフォルニアのモハーヴェ砂漠の水が汚染されており、それがPG&Eによって隠蔽されていたことを暴くきっかけとなる書類だったのです。そしてブロコビッチはPG&Eがヒンクリーの住民たちに提供していたものを巡る不可解な何かに気づき始めます。
これを受けて彼女は調査を進め、水道記録保管所を訪れてその地域の地下水が六価クロムに汚染されていたのかどうかを確認しようとします。彼女の予想は、おそらくこれがヒンクリーの住人たちが苦しむ酷い病気と関連しているのだろう、というものでした。

エリン・ブロコビッチ、どんなものにも立ち向かう準備のできた一家の大黒柱

子どもたちの世話を恋人でバイク乗りのジョージ(アーロン・エッカート)に任せ、エリンは汚染水の犠牲となった可能性のある人々を訪問するために、自身のオンボロ車で何百マイルも旅をし、この問題によって影響を受けた多くの人々と心を通わせていきます。そういった人々のほとんどが謙虚で弱々しく、家族のことを心配しているような人々です。彼らは初めからエリンに優しく接し、個人的な物語を彼女に打ち明けてくれました。
物語の中心となるのは、エリンと上司のエドとの関係性です。もっと言うと、この世代の違う二人の愛憎関係がコメディ要素を映画にプラスしてくれています。
そうは言っても、二人の間の深い信頼関係は映画全体を通してしっかりと示されます。彼はエリンが抱える家族という大きな重荷のことを理解しているので、彼女のやり方を受け入れていますし、彼女が信頼に足る人物であることにも、リスクを冒しがちな生まれながらの性質にも気づいていました。彼がなりたくてもなれなかった人物像こそ、彼女そのものだったのです。
エリン・ブロコビッチ アンチヒロイン

魅惑的な、しかし誇張のない映画

最後に、この映画は低収入のシングルマザーに関する事実に基づいたアグレッシブで一直線な人間ドラマです。ソダーバーグ監督は観客や批評家、そして映画祭まで多くのセクターから好意的に受け入れられる作品を完成させました。当時彼は二つの作品でアカデミー賞監督賞にノミネートされており、『エリン・ブロコビッチ』での受賞は逃したものの『トラフィック』という映画でこの賞を受賞しています。

この映画には、大企業の邪悪な性質や女性の自立、さらに個人や集団の自己認識と学びの能力などへの関心という彼のそれまでの監督作でも繰り返し発せられているモチーフが登場します。しかし、役者陣の演技の自然さと素晴らしさを生かすために「レス・イズ・モア」のアプローチを取ることで、ソダーバーグ監督が自身の実験的意向を抑制したことは明らかです。