ハイプノマニア:コントロールできない眠気
睡眠障害は世界中で大きな問題となっており、中でも不眠症の人は少なくありません。実際、世界人口の約1/3が、不眠症に悩まされていると考えられています。コントロールできない眠気、「ハイプノマニア」は、たくさんある不眠症の原因のひとつで、不眠症の症状にもなりえます。そこで今回の記事では、悪循環の原因となる様々な要因を見ていきましょう。
米国睡眠医学会(AASM)によると、アメリカの大人の33~50%が、睡眠状態の継続や入眠に問題を抱えているようです。この統計は非常に重要な資料です。皮肉的ですが、寝たいという強迫性は日中の過剰な眠気や過眠症など睡眠障害の原因になります。また、うつ病等メンタルヘルスの問題にもなりかねません。
ここでは、ハイプノマニアの症状、原因、治療についてお話します。また、この症状と他の精神的あるいは身体的問題との関係についても探ります。
ハイプノマニアとは? 他の睡眠障害との違い
ハイプノマニアという言葉は「夢」を意味する「hypnos」と「狂気」を意味する「mania」から成っています。つまり、寝たいという強くコントロール不能な強迫的欲求を意味します。
夜何時間寝ても、この強迫性が生じます。不眠症などの問題と関係していることも少なくありません。そのため、ハイプノマニアと臥床欲、ナルコレプシー、過眠症との違いを知っておくことが重要です。
臥床欲とは、できるだけ長く横になっていたいという強迫的な欲求です(朝目覚まし時計が鳴った時に私達がやりがちな「あと5分」とは違います)。まったく起きようとしない、(眠った状態でなくても)横になっていたいためにすべての活動を放棄するのが臥床欲です。
過眠症は、(少なくとも7時間)夜に良く寝た後に感じる極度の眠気です。完全に覚醒していることが難しい場合もあります。
ナルコレプシーは器質性障害で、極端に眠りに落ちやすい人を言います。突然筋肉の弱さを覚えるカタプレキシーやヒポクレチン(オレキシン)欠乏症、短いレム睡眠(15分以下)が見られます。
ハイプノマニアの原因と症状
ハイプノマニアは様々な睡眠障害の原因にも結果にもなりえます。さらに、他の症状を隠す要因になることさえあります。多くの場合、ハイプノマニアが原因で不眠症となり、睡眠の量と質共に低下し、目を閉じていたいという観念にかられます。
何が問題になっているのでしょうか? すべてを奪うような睡眠の強迫性は、非常に重度の不眠症につながります。これが悪循環となり、症状が互いに影響し悪化します。
(十分な睡眠が摂れていないという思いから)寝なければならないといつも考えていると、疲れていない時も眠気を感じるようになります。この眠気により、日中目がしっかり覚めた状態を保つことができず、仕事や学校での作業に影響します。
ハイプノマニアに悩む人は、他の問題にも直面していることがあります。例えば、疲れていない時に寝ようとするなどです。これにより、横になり寝ようとしているけど眠れない状態が何時間も続くことになりかねません。そして、自分は不眠症だと考えるようになります。
「寝ることは簡単ではない。だからこそ、日中は起きておく必要がある」
-フリードリヒ・ニーチェ-
また、ハイプノマニアが問題を覆ってしまうことがあります。うつ病の人は、1日中寝ることを考えていることがあります。このような人達は、1日の終わりになってやっとそのことを考えるのをやめ、心配せずに苦しみから解放されます。
メランコリアうつ病は、寝付くことが難しく起きるのが辛いという症状を伴うことが多々あります。一方で、非定型うつ病においては、過眠症がよく見られます。
医師はハイプノマニアを診断するに当たり、患者がうつ性障害の他の診断基準に当てはまるかも判断する必要があります。これによりきちんとした診断名が付けられ、より効果的な治療計画を立てることが可能になります。
考えられる治療法
最適な治療を選択するために、医師はまず、ハイプノマニアがもっと大きな問題の結果生じているかを判断する必要があります。同様に、原因や問題の影響について知るために、機能的分析も必要になります。
ハイプノマニアが不眠症により引き起こされたと判断された場合、様々な治療法が提案される可能性があります。そして、ハイプノマニアが原因になっている可能性がある場合、不眠症への対処が必要です。睡眠の質と量を高めることができれば、患者は強迫性を抑えることができるかもしれません。そのためには、次のようなテクニックが使われます。
- 体をリラックスさせるための斬新的筋肉弛緩法や自律型エクササイズ
- 刺激統制テクニック:夜の良い睡眠を導かない行動を避けたり、デイリールーティーンを作るのに役立つ方法です。
- 睡眠衛生ガイドライン:寝つきをよくするための夜の習慣です。
- ベッドでの覚醒時間を制限するための睡眠制限
- 逆説的志向:不眠症の心配をしないためによく使われる方法です。
ハイプノマニアが不眠症の原因であり結果である場合、逆説的志向が非常に有効です。よく眠れない日が頻繁にあることから、本人がもっと寝なければならないと強迫的に考えるようになります。そしてこの強迫性が、適切な眠りから本人を引き離してしまいます。そこで、逆説的志向がこの悪循環を断ち切るのに役立ちます。
このテクニックでは、ベッドの上でできるだけ長く起きているように促されます。「寝なければならない」から「起きていなければならない」に考え方を変えると、眠らなければならないという観念が消失します。このように、焦点を変えることで眠りにつきやすくなるのです。
自分の心に騙されている
ハイプノマニアと不眠症の関係は、脳が私達を騙すことを示す良い例です。誰もが時に心配することがあります。そして、多くの場合、問題の解決につながります。しかし過度の心配は状況を悪化することになりかねません。まるで、脳には、「心配に対する閾値」があるかのようです。この値を超えると、解決が近づいていたとしても私達は問題の解決能力を失います。
また、前の日にどのくらい眠れたかを気にしすぎることにより、慢性疾患を患う人もいます。睡眠習慣に対し注意を向ける必要がないということではなく、建設的に、役立つよう気にかけることが重要です。心配により夜の睡眠を奪われてはいけません。
「それについて考えている間は、あなたが思っているほど重要なことは人生に何もない」
-ダニエル・カーネマン-