心を動かす、香らない花の話
香らない花の話は、非常に賢く皆に尊敬される、ある侍の話です。この老年の侍は、いつも若い衆を家へ招き、大切な教えを教授していました。若い衆は皆彼の話に興味をもち注意深く聞き入ります。怒りとその管理法にまつわる素晴らしい教えを受けていたのです。
彼の評判はたちまち広がり、人々はあちこちから通ってきました。この侍は主として、執着を無くすことと、自分の内にある利己的な感情を打ち消す方法を知ることの重要性について話しました。
「他人のことで気になることすべてが、自分の人生で未解決の何かを反映している」
-仏陀-
怒りと香らない花
ある日の講義中、教え子の一人がお茶をこぼし、それが隣の人の着物にかかってしまいました。お茶をこぼされた方は、すぐさまお茶をこぼした者を勢いよく倒します。「なんてことをしてくれるんだ。どうしようもないやつだ!」と彼は罵ります。その着物は中国の絹で織られたもので、それが駄目になってしまったと言います。
老年の侍は冷静です。何もなかったかのように振舞います。小声で話し始めるものもいます。講義中に、争いが許されるなど聞いたことありません。多くの人が、先生がその男の傲慢さに介入したり何か言うべきだと感じました。
有野には理解できません。講義後、耐えられず師に尋ねます。「先生の一言で傲慢な男を黙らすことができると分かっておられながら、どうして不当な仕打ちを許すのですか。なぜ、追放しなかったのですか。」
師は笑顔で答えます。「香りのない花があり、それは庭にあるべきではない。」有野には全く理解できません。師の教えの意味が分かりません。老年の侍は付け加えます。「怒りは香らない花であり、自由のない庭でのみ育つ。」これが香らない花の最初の教えです。
攻撃的な男の戻り
その出来事の数週間後、予想もしなかったことが起こります。その攻撃的な男が先生の家へ再び戻ってきました。入ってきた瞬間から皆に敵意を示しています。人々を押しのけます。師が話しているにもかかわらず、大声を出します。
突然、皆が驚くようなことが起こりました。彼は立ち上がり先生へ向かい、言葉もなく顔へ唾を吐きかけたのです。先生は黙りました。皆言葉も出ません。初めは、誰も反応できませんでしたが、次第に怒りの声があがります。
有野は護衛の役でした。家にある刀を持ってきます。そして老年の侍に言います「先生、お許しください。彼はしかるべき教えを受けるべきです。」師は冷静に、何もするなというように、ただ、手を挙げました。有野には、香らない花の話がまだ理解できていませんでした。
予期せぬ終わり
師は落ち着くよう皆に求めました。彼は平静を保っています。傲慢な男は誰がどこからかかってきてもいいように備えています。顔には、この地域で最も有名な男を負かしたというような満足げな笑みを浮かべています。そして、老年の侍は沈黙を破ります。唾を吐いた男に対し、目を見て「ありがとう」と言うのです。
誰もが信じられませんでした。有野は何を考えたらいいかも分かりません。先生に尋ねます。「先生、何をおっしゃるのですか?二度も家へ押しかけ、名誉を傷つけ、侮辱するような男になぜ、感謝するのですか。なぜありがとうと言うのですか。」
師は傲慢な男を諭すように言います。「お前の行動のおかげで、怒りが私の心から消えたことが分かった。お前に代償を払う必要もない。私の庭では、香らない花を育てないのだよ。」有野は恥ずかしく思いました。
師は、怒りのような思いを避け、自分本位にならないよう教えていたのです。攻撃的で、否定的、批判的、人を傷つける人は、香りのない花のようです。唯一の賢明な反応は、自分の内なる庭を壊されないよう、気に留めないことです。これが、香らない花の話の教えです。あとは、あなたの人生に取り入れるのみです。