矛盾したメッセージに潜むジレンマとは?
皆さんはこれまでに、自分のやっていることと言っていることとの矛盾について考えてみたことがありますか?世の中にはなぜ、本心とは正反対の発言をする人がいるのでしょうか?メッセージに矛盾があると、混乱が生まれてしまいます。今回の記事では、心理学的観点からこの現象について紹介していきます。
矛盾したメッセージとはどんなものなのでしょうか?この記事を読み進めていただき、このタイプの意思伝達方法について理解するためのポイントや具体例を学んでみてください。さらに、最近のいくつかの研究について、特にグレゴリー・ベイトソンという社会学者によるものについてお話ししていきます。
“言語が強調しているのは一般的に、そのやり取りのほんの一部でしかない”
-グレゴリー・ベイトソン-
矛盾したメッセージとはどのようなものなのか?
矛盾したメッセージとは、同じ発信源から相反する情報が伝達されるようなメッセージを指します。したがって、本質的に逆説的なものなのです。これについての研究や観察は、以下のような人々によって行われてきました。
- 精神分析医たち。彼らは矛盾している内容の論理を注視することでこれを行います。相反する形で、あるいは曖昧な形で作用する発言を批評するということです。これらは無意識に発せられるものもあれば、そうではないものもあります。
- パロアルト学派。ポール・ワツラウィックによると、メッセージに二重の情報が含まれる現象に関する概念を最初に提唱したのはこの学派だそうです。彼らはこれについて、統合失調症患者に見られる特定の行動につながるコミュニケーション様式であるとして研究を行いました。
- ディディエ・アンジュー。彼は、メッセージの逆説性が受け手の自己破壊的衝動を増幅させる、と提唱しました。それに加えて、少なくともミゲル・チェロ・アゲレ博士の考えでは、こういったメッセージは不信感を増大させ、本物であるという感覚や対象者の存在を破壊していくそうです。
人類学者で言語学者のグレゴリー・ベイトソンが、矛盾したメッセージについて語っています。彼が主に重視したのが、そのシステムモデルです。彼はシステム内のメンバー間のつながりを強調しながらダブルバインド理論について触れました。また、彼はこの理論を統合失調症の心理学的原因を説明する手段としても用いました。この病気は意思伝達パターンと関連するものである、としたのです。
ダブルバインドとは、同じ発信源から発せられる様々なメッセージの内容の間に矛盾があることが元で生まれるコミュニケーションの板挟み状態を指します。そのため、メッセージの受け手側に混乱が生じることとなるのです。
しかしこの理論はすでに修正されており、統合失調症の枠を超えて拡大されています。また、ダブルバインドはその他の文脈にも適用され得るとされており、例えば他人をコントロールしたり操ったりするための手段としてダブルバインドを使用する人もいるだろう、と提唱されています。
矛盾したメッセージの特徴
矛盾したメッセージを発する時、その送り手はもし受け手が特定の行動を行わなければ、悪い結果が訪れるだろうというようなことを言う場合があります。また、送り手はこの命令とは矛盾するような曖昧な命令も与えます。以下が、矛盾したメッセージに見られるその他の特徴です。
- 相互作用。どんなタイプのコミュニケーションからも起こり得ます。
- 繰り返し起こるパターン。一回限りのものではなく、繰り返されます。
- 一つ、あるいは二つ以上のメッセージの存在。通常は二つの矛盾したメッセージが送られますが、それ以上の場合もあります。
- 力関係。ほとんどの場合、力のある人物とそうでない人物との間で起こります。
- 混乱。矛盾したメッセージを受け取る人物は混乱を感じる場合があり、どうすればいいのかわからずに身動きが取れなくなってしまうこともあります。
- コミュニケーションパターン。送り手にも受け手にも健康への影響が出てきます。
中には、矛盾したメッセージにはいくつかの病理の起源が存在していると主張する研究者さえいます。ただ、これ自体が病因であるというわけではなく、発症しやすくしたり深刻度を強めたりする要因の一つ(引き金)だということです。
現在、この枠組みに関しては様々な調査が行われています。例えば、レオナルド・ガブリエルとパウラ・ガブリエラ・ロドリゲス-ソヤが『Palabra Clave(”キーワード”の意)』誌にて発表した論説文では、コミュニケーションや他者との関わりのプロセスが、どのようにダブルバインドの文脈における社会的表象および対人コミュニケーションを歪めたりあるいは妨げているのかについてが示されています。
また、別のタイプの探究を行なっている人々もいます。例えば、一部の研究者たちは教師と生徒との間のやり取りにおけるダブルバインドへの介入への提唱を主に扱っています。この考えは、『Psicología y Educación: Presente y Futuro(”心理学と教育:現在と未来”の意)』誌のなかで、ガルシア・カストロとサネレウテリオス、そしてガルシア・ラモスによって示されました。
影響
どんな人でも、有害な矛盾したメッセージを受け取る可能性があります。これは繰り返し起こり得るものであり、混乱や思考停止に繋がるような内容が秘められているということを忘れないようにしましょう。さらに、以下のような現象を引き起こすこともあります。
- 危険な感覚を覚える。矛盾したメッセージは人を混乱させます。さらに、二つの相反するメッセージを前にして自分の立ち位置がわからなくなってしまいます。
- 罪悪感。自分は正しい行いをしていないのではないか、と考えてしまいます。
- 不安障害。何をすべきかわからず、将来を不安に思ってしまいます。
- 有毒な人間関係。これは、ダブルバインドの状態が起こっていることに気づかないまま力のある相手に対して受け身で居続けることで生じます。
また、こういったメッセージを発する側の人にも影響は及んでいます。彼らの欲求やニーズが満たされることはないのです。また、ダブルバインドの状態が起こる時、必ずその関係性は親密なものになっています。なぜなら、そういった関係性の中では期待が裏切られたことによる失望がより深いものとなるためです。
矛盾したメッセージの一例が、母親が我が子に対していくらか拒絶しながらも愛情を伝える、といった行為です。また別の例として、本心でないにも関わらず「なんでも君の好きなことをしていいよ」や「それで構わないよ」といったことを恋人に対して言ってしまう行為も挙げられます。さらに、あなたを信頼していると伝えつつ常に警戒している態度を取ってしまうことも矛盾したメッセージの一例です。
まとめ
簡潔に言うと、矛盾したメッセージ内に表出する要求こそがまさに、その状況下でどんな行動を取るべきなのか判断するのを困難にしているということです。そのため、矛盾したメッセージは送り手にも受け手にも苦痛を生じさせますが、特に送り手への影響は多大です。これは、送り手の欲する反応を相手から得るのが非常に難しくなってしまうためです。受け手はただ、何をすればいいのかわからず途方に暮れてしまうのです。
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