ポール・ピュー:病的笑いというケース

2019年7月6日
病的笑いはその病気を持つ人にとってかなりストレスの強いものとなりかねません。また、患者はその「不適切」な行動から自らを隔離してしまう傾向にあります。

ポール・ピューは、ある日突然見ず知らずの人達に残酷にも襲われてしまったウェールズ人です。襲ってきた人の一人によって頭を激しく打ちつけられました。しばらくして、ポールは変な症状を発するようになりました。それが病的笑いという脳の機能不全の一種です。

 

病的笑いは抑えることのできない笑いで、自分が置かれている状況とは全く関係無く笑ってしまうことです。一見、思わず笑ってしまいそうになるほどおかしい症状ですが、実は大変深刻な病気です。この病気には別名が数種ありますが、最も医学的に使われている名は「笑い発作」です。他には、「情動調節障害」や「感情失禁」という名があります。この病的笑いという言葉を広めたのは、実はポール・ピューのケースでした。

「なぜ人だけが笑うのかを一番よく知っているのは私だ。人だけが深く苦しむあまりに笑いというものを生み出さなければいけなかったのだ。」
―フリードリヒ・ニーチェ―

ポール・ピュー:病的笑いというケース

ポール・ピューのケース

ポール・ピューのケースは、最もよく知られているものの一つです。彼の悲劇は2007年の夜、友人らと飲みに出かけていた時に起こりました。家に帰る途中、彼は4人の男に遭遇し、何の理由もなく殴られたのです。

かなりひどい暴行だったため、ポールは頭蓋骨に複雑骨折を負いました。当時27歳だったポールは2か月間の間、昏睡状態に陥りました。そして、彼は歩いたり、食べたり、話したりという一番簡単な作業ですら学び直さなければいけませんでした。しかし、ようやく全快に至ろうかというところで、おかしなことが起こりました。

彼は担当医達との面会に赴き、そこで暴行の後遺症や影響について聞かされることになりました。その面会はポールにとってひどい影響を及ぼすものでした。ポールは泣きたい衝動を非常に強く感じ、実際に心と頭の中では泣いていました。ですが、体の外側では、笑うことしかできなかったのです。ポールは病的笑いを患ったのです。彼は心の中では泣いていましたが、表向きは笑っていました。

彼にとって、初めにその症状が意味したことは、社会的拒絶でした。しばらく時間が経ってようやく医師達は彼に何が起こっているかに気が付きました。医師達はこれを「情動調節障害」と呼びました。それは彼の脳内で障害が起こっているということでした。

この病気を持つ人は、病的笑い(または泣き)を生じる病相を呈し始めます。何年も後になって、ポールは病的笑いの病相を10回に9回はコントロールできるようになりました。

ポール・ピュー:病的笑いというケース

病的笑いとその原因

病的笑いはその病気を持つ人にとってかなりストレスの強いものとなりかねません。また、患者はその「不適切」な行動から自らを隔離してしまう傾向にあります。患者の多くが、ある感情を強く感じていながらもその感情とは全く別の関係ない感情を表現してしまうことがどれだけ苦しいかを吐露しています。

病的笑い・泣きは、実に様々な理由で起こります。通常、ポールのケースのようにある種のトラウマの後に起こります。ですが、この病気の原因となる神経の異常も見られます。

多発性硬化症の人でこの症状を患うケースもあります。アルツハイマー病で病的笑いを呈するケースだってあります。どうやら、脳に直接影響を及ぼす病気はどれも病的笑いにつながる可能性があるようです。

脳腫瘍もまた原因の候補となります。現時点で言えることは、この病気は、脳と小脳、そして延髄との間にあるつながりが切れてしまうために起こるということです。また、視床下部もこの病気に関連することが分かっています。

ポール・ピュー:病的笑いというケース

その他の病的笑い

病的笑いには、別の原因で発生する精神医学的なケースもあります。一般的な用語である「感情失禁」がこれに当てはまります。これは感情が大袈裟な形で表現されてしまう精神状態と関連があります。笑いや涙、他の感情を抑えられなくなってしまうのです。血管障害のある認知症も関連があります

統合失調症も種類によっては、病的笑いの病相が起こることもあります。また、精神活性剤を服用することで起こることもあります。マリファナを使用すると、制御がきかない笑いが起こることは一般認識となっています。自閉症スペクトラム障害の病気も場合によっては、病的笑いが症状に含まれることがあります

病的笑いの一番悲しいところは、この病気を持つ人は通常、他の副作用も経験することです。ドイツのフライブルク大学の心理学科で行われた研究によると、この病気を持つ人の半数以上がここで述べた症状に加えて他の症状も呈していると言います。一般的に、IQの低下、ならびに他の認知障害で苦しむと言います。

病的笑いにはあまり治療法がありません。端的に言うと、不治の病です。しかしポール・ピューのような人は皆の励みになる例です。彼は病的笑いの病相が起こる直前の瞬間を察知することができるようになったからです。彼は、笑いを止めるような不快なイメージをすぐさま頭に描くと言います。しかしながら、残念なことに彼の病気は今も彼の人生に影響を及ぼしているままなのです。