サルー・ブライアリー、故郷から離れた25年間

27 9月, 2020
テクノロジーが進化して新たな選択肢を利用できるようになっているとはいえ、家族から切り離されてしまう子どもたちがいることは未だ大きな問題として残っています。サルーの物語はこの問題に関するもので、ふるさと探しの道のりがいかに果てしないものになり得るかを思い知らせてくれます。

サルー・ブライアリーの物語は、まるで小説の中のお話のようです。実は、この話はのちにヒットした映画『ライオン〜25年目のただいま〜』の原作になっています。しかしこの物語の最も美しい点は、あらゆる試練を乗り越えた後、この若者が幸せな結末を迎えられたことです。

サルーの驚くべき冒険は、カンドワというインドの小さな町で始まります。当時ほんの5歳だった彼は、貧しい家庭の出身でした。父親は愛人を作って家族を捨ててしまったので、母親のファティマは建築現場で働いて暮らしていかねばなりません。しかし、彼女の稼ぎだけでは家族を養うのに十分ではありませんでした。

この家族にはサルーを含めて3人の子どもたちがいました。長男のグドゥは当時10歳で、ちょっとした仕事をして母を助けています。彼はよく、列車の掃除の仕事をしていました。そして次男のサルーは時折働きに行く兄についていきます。一番下の子はまだ歩き始めたばかりの小さな妹です。

サルー・ブライアリーの人生が変わった瞬間

ある日、この兄弟二人は列車内のゴミ拾い仕事をするためにブルハーンプルの駅へ出かけて行きました。長い一日が終わる頃、幼いサルーは疲れ切って駅のベンチに横たわり、眠り込んでしまいます。しかしこれがその後の彼の人生を永遠に変えてしまうことになるのです。

サルーが目覚めた時、兄の姿はどこにもありませんでした。そこで彼は大声で兄の名を呼び始めますが、どうしても見つけることができません。サルーは目の前に列車が止まっているのを見つめ、兄のグドゥはおそらく車内のゴミを拾っているのだろう、と考えます。しかし列車に乗り込んでもグドゥはどこにもおらず、サルーの呼びかけにも答えません。すると列車はコルカタへ向けて走り出してしまい、サルーは自分の人生が終わってしまうことを悟ります。

その頃、サルーの母は家で二人の息子たちの帰りを待っていましたが、彼らが戻ることは決してありませんでした。彼女はなんとか息子たちに何があったのかを解明しようとし始めます。二ヶ月後、彼女はグドゥが変わり果てた状態で見つかったことを知りました。線路で亡くなっていたところを誰かが発見したのです。列車にはねられたとみられています。

コルカタでの悪夢

列車に揺られて14時間、サルー・ブライアリーはコルカタにたどり着きます。しかし彼はこの都市で話されている言語を話すことができず、自分が住んでいた街の名前も知りませんでした。駅に到着した後、彼は再び列車に乗って元来た道を戻ろうとしたのですが、それは不可能でした。彼は駅に留まり、ダンボール紙の上で眠ってゴミの中から食料を漁ります。

しかしそこには道端で暮らす子どもたちを誘拐するギャングがおり、サルーも誘拐されそうになります。彼は全力を振り絞って走り、逃げ切ることに成功しましたが駅には戻れなくなってしまいました。

その時の彼の記憶は、飢えと苦痛で満ちています。どうしてそうなったのか、彼の記憶は定かではないのですが、ある青年が彼を交番へ連れて行きました。その後、彼は非常に厳しいルールのある孤児院へ入れられることになります。

孤児院の関係者は彼の家族を探そうとしますが、見つけ出すことはできませんでした。しばらくして、孤児院は彼を養子プログラムに参加させます。幸運なことにサルーはもう一人の別のインドの男の子とともに、彼らの世話をしたいというオーストラリアの家族に引き取られることとなりました。新しい両親に会いにタスマニアに到着すると、サルーの人生は180度変化します。

サルー・ブライアリー 故郷から離れた25年間

サルー・ブライアリーと故郷への帰還

しかしサルーは自分の過去を忘れ去ることができません。彼はまだ兄や母、そして妹のことを思い続けていたのです。

大学に通っていた頃、サルーの友人たちや恋人は、彼が重要な情報を見つけ出す手助けをしようとします。その情報とは、彼の生まれた都市です。彼らはコルカタから列車で14時間の距離にある都市を全て計算してピックアップし、グーグルアースを利用して探し始めます。

それから5年後、サルーはグーグルアースの画面上に見覚えのある給水塔が写っていることに気づきます。そしてその付近を調べていくと、それらの風景が記憶の中の何かを呼び起こしました。その後、彼はある道と橋を目にして確信を得ます。のちに彼は、生まれた場所を発見した瞬間は嬉しさで飛び上がった、と話しています。

そして彼は故郷へと実際に赴き、生家を探し始めます。直感に導かれて母の家にたどり着きましたが、そこにはもう誰も住んでいませんでした。母国語を忘れてしまってはいたものの、彼はなんとか情報を集め、ある日ついに母親の家を見つけ出します。

彼女は数秒間サルーを見つめると、息子だと認識できたそうです。サルーは、この25年ぶりの再会は彼の人生において一番幸せな瞬間だった、と話しています。

それから間も無くして、彼は自身の名前が「サルー」ではなく「シェルー」だったことを知りました。当時の彼は幼すぎてこれをうまく発音できておらず、結局新たな名前を作り出してしまっていたということです。「シェルー」という言葉には「ライオン」という意味があります。感動の再会から一年後、彼は育ての母を連れて故郷の母の元を訪れ、皆が待ち望んでいたハグの輪を完成させたのです。

Somavía, J. (2000). “Los niños perdidos. UNICEF: El desarrollo de las Naciones. Ginebra: UNICEF, 27-30.