神経科学にまつわる興味深い3つの症例

2020年1月7日
神経科学関連の症例の中には、とても奇妙なものがいくつか存在しており、それが脳は我々が完全には理解することのできない終わりなき迷宮であることの証明のようになっています。こういった特異な症例は、本日の記事で紹介するような重要な科学的発見に繋がることがよくあるのです。

多くの神経科学関連の症例に共通する最も興味深いことは、その病気がそれまで知られていなかった脳に関する発見に繋がることが多い、という事実です。ある病気あるいは症状が、人間の脳についての理解を深めるための手がかりとなることがあるのです。

こういった神経系の症例の大部分が注目に値するものであり、その理由は患者が独特の症状を見せるためです。これらの珍しい病気を抱える日々との生活は、異様で興味深いものであることが多いのです。しかし真に意義深いのは、それまで知られていなかった形で人間の脳が機能する様子を観察することができるという点でしょう。

科学界では、神経学者のオリバー・サックスこそが現代で最も偉大な教育者である、と考えられています。彼の語り口や患者に関する驚くべき物語はまるでSF小説のように思えますが、実際には全てが事実です。それらの興味深い症例の中から、本日は3つの症例をご紹介します。

“どんな病気も、生活に二面性をもたらしてしまう。病気自体が必要とするもの、要求するものがあり、そのせいで制約が生まれるのだ”

-オリバー・サックス-

神経科学 興味深い 症例

神経科学に関する3つの興味深い症例

1. 思い出

これは、非常に魅惑的な症例です。患者は80代の女性で、1979年にある独特な体験をした人物でした。彼女は健康体で、知的能力も完全に機能していたのですが、聴覚に関する問題を抱えていました。

ある夜、彼女はアイルランドで過ごした子ども時代のことを夢に見ました。夢の中で、彼女は古い曲やよくあるダンスソングなど、昔耳にしていた音楽を聞いていました。そして目が覚めた後もなお、音楽は頭の中で流れ続けていました。彼女は、ラジオがついているか、あるいは誰かが録音した音楽を再生しているのだろうと思ったそうですが、そこには誰もいませんでした。彼女には一音一音がしっかりと、他のことから気を逸らさせるほどのボリュームで聞こえていたそうです。

しかし医師が脳のスキャンを行う前に、彼女の脳内に数ヶ月の間流れ続けていた音楽は次第に消えて行きました。全てが、何かを懐かしむ感情と関連している側頭葉に問題があることを指し示しているようです。この症例によって、脳のいくつかの部位では過去の経験を破壊不可能なファイルのようにして保管しているのではないか、ということが提唱されました。

2. マデリンの症例

マデリンは、先天的に視力のない、つまり生まれた時から失明していて、将来一度も自身の目で何かを見ることができない60歳の女性です。また、彼女は脳性麻痺も患っており、手の不随意運動にも苦しんでいました。こういった症状から、認知面でも深刻な遅れがあったのではないか、と想像されるかもしれませんが、実はマデリンは非常に知性に溢れた女性でした。

実は、周囲の人々が常に彼女に本を読み聞かせていたため、彼女は教養のある会話好きな人物になったのです。また、彼女は点字の読み方を決して学ぼうとしませんでした。なぜなら、彼女の言葉を借りると、彼女の手は「使い物にならない、わびしい肉の塊」だったからです。自分の身体の一部であるとさえ感じられなかったそうです。

彼女の思い込みとは裏腹に、マデリンの両手は実は基本的に正常でした。何らかの理由で正常に動いていなかっただけなのです。オリバー・サックスは、彼女の家族が全てのことを彼女の代わりにやってあげていたために手足を動かせなくなってしまったのではないか、と考え、リハビリプログラムを受けさせることにしました。そして治療が完了する頃には、なんと彼女は彫刻家になっていたのです。

神経科学 興味深い 症例

3. ベッドから落ちた男

この症例は、身体部位失認という珍しい病気に関するもので、その特徴は自らの身体の部位を認識できないことです。入院中のある若い男性が、とても奇妙な体験をしました。彼は、自分のものではない足がベッドの上にあるのを見つけ、それを拾ってベッドの下に投げ捨てようとしました。ところがその瞬間、彼はベッドから落ちていたのです。

この若者は、その体験に恐怖心を抱いていました。なんらかの理由から、彼は自分の左足が身体から切断された、と信じ込んでいたため、その足が自分のものであるはずはない、と思っていたのです。その足が彼を怖がらせていました。医療従事者たちが彼と話をしたところ、彼は自分の本物の足がどこにあるのかを誰にも示すことができず、自分自身を叩き続け、その”自分のものではない”足を取り除こうとしました。

残念ながら、この誤った自己認識に関する症例は、まだ解決されていません。書籍の中には他の似たような症例が数多く存在していますが、誰にもその原因やこの病気を患った人々の救い方がわかっていないのです。

Sacks, O. (2016). El hombre que confundió a su mujer con un sombrero. Anagrama.