トラウマ的経験をした後、正常な状態を取り戻すには?

「時間があらゆる傷を癒してくれる」という古い言い回しのことは忘れましょう。大抵の場合、時間とともにトラウマは大きくなり、対処するのが難しくなっていくだけです。では、痛ましい経験をした後はどのような行動を取るべきなのでしょうか?
トラウマ的経験をした後、正常な状態を取り戻すには?

最後の更新: 29 11月, 2020

トラウマになるような状況を経験した後、通常の状態を取り戻すことなど可能なのでしょうか?不安にさせてしまうかもしれませんが、その答えは「ノー」です。まず、トラウマというのは適切なコーピングメカニズムを用いて対処しない限り、一生その人について回ります。トラウマそのものだけではありません。それに伴うストレスや不安、抑うつなども存在し続けます。

一方で、たとえトラウマ的出来事のもたらす負の影響を乗り越えることができたとしても、それ以前と全く同じ自分に戻ることは決してありません。全くの別人となり、それがその人にとっての新たな通常状態となるのです。ただ、だからと言って事態が以前より悪化しているというわけでも、生活の質が下がってしまっているというわけでもありません。

トラウマ的経験によって、苦しみに立ち向かうための新たなリソースを手にした新しいバージョンの自己が作り出されます。そうなると自分自身への信頼が増し、自らの幸福と希望を生み出しやすくなっているはずです。また、苦境を経験したことで人は「より強く」なることができる、という古典的な考え方については忘れた方が良いでしょう。

傷を癒し、複雑かつ後々劇的な変化をもたらすような出来事を乗り越えられるかどうかは、強さの問題ではないのです。これは能力の問題であり、リソースやストラテジー、柔軟性、レジリエンス、そして痛みを伴う生活を受け入れる力を持っているかどうかが重要になります。

これを実現するのは簡単なことではありません。しかしながら、トラウマの克服により、人は新しい常態にたどり着くことができます。トラウマ以後のその人の生活は、トラウマ以前がどんな生活であったにせよ、同じくらいかけがえのない素晴らしいものなのです。

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トラウマ体験の後、通常の状態に戻るためのカギ

ほとんどの人が、いまだに心的外傷後ストレス障害(PTSD)についてよく理解できていません。例えば、この病気は武力闘争を経験した兵士たちやテロリスト攻撃の被害者だけがなるものだと思い込んでいる人がたくさんいます。しかし残念ながら、実際には世界中の何百万人もの人々が苦しむ、ごく一般的状態なのです。

あなたととても親しい誰かもまた、密かにPTSDと戦っているかもしれません。幼少期に受けた虐待や家庭内暴力、学校や職場でのいじめ、自動車事故からの生還、あるいは重い病気などは、人々の脳に傷跡を残します。これらの傷跡は永遠に残り続けるのです。

トラウマから回復するのはなぜそれほど大変なのか?

ある状況の経験の仕方は人によってそれぞれ異なります。例えば、ペットを亡くしたトラウマに苦しむ人がいる一方で、それほど深刻なダメージを受けずに数日後に新しいペットを飼い始める人もいるでしょう。

また、強盗あるいは略奪を受けたことによる影響にうまく対応できる人もいます。しかし急襲を受けたことで体を動かせなくなるような恐怖心を抱くようになってしまう人もいるかもしれません。つまり、ほとんどの人がトラウマ的出来事の後で普通の状態に戻ることができるのですが、その中でも回復が早いのは感情的経験や心理的経験がそれほど強烈ではなかった人々だということです。

そうは言っても、トラウマが特別深刻な場合もあります(例えば児童虐待など)。そういったケースではいつも、当人が受けるインパクトが甚大です。ロットマン研究所の科学者でトロント大学の心理学教授のピーター・ラヴィーンは、これらのケースについて研究を続けてきました。

何日間、何週間、何ヶ月、あるいは何年間が経過していたとしても関係ありません。こういった記憶は全てを侵食し、その人の潜在能力や幸福、そして意思決定能力や健全な愛着を築く能力をブルドーザーのようになぎ倒してしまうのです。

トラウマ的経験をした後、正常な状態を取り戻すには?

トラウマ体験の後、正常の状態に戻るには?

前述の通り、トラウマ的出来事の後で普通の状態に戻ろうとどれほど懸命に努力したとしても、人はそれまでとは別人になっています。しかし治癒することは可能です。テデスキとカルフーンが1996年に編み出したものをはじめとして、トラウマによる影響を測ることのできる尺度がいくつか存在しています。

このツールを用いて心理学者たちが発見したのは、平均的に女性の方がトラウマをうまく克服できるという事実です。女性たちは新たな人生の捉え方を見出し、ポジティブな見通しを新しく採用することでトラウマを乗り越えます。ただし、その地点にまで達するためには以下のような段階を踏まねばなりません。

  • トラウマ的経験をした後は時間が必要です。すぐにもと通りの生活に戻ることは不可能なのです。
  • 現実に向き合わなければなりません。起こったことについて詳しく自分自身に伝える必要があります。その経験について自分が何を考え、何を思うのかを知ることが大切です。痛みと触れ合わねばなりません。
  • トラウマを一人きりで乗り越えることはできません。手助けやサポートが必要です。
  • セラピーに通いましょう。そこで用いられるアプローチやストラテジーはトラウマ治療にとても効果的です。
  • 「正常な状態」に戻ろうとする時には、新しいルーティーンを作り出そうとしてはいけません。頭脳が必要としているのは安心感を得られるような習慣です。
  • 新しいプロジェクトに挑むことが大切です。過去から前進し、新しい挑戦に向き合っていると感じることで、自分の生活を自分の手でコントロールできている感覚が得られます。また、楽観性を向上させ、人生に対する新たな展望を見いだすことにも繋がります。

最後に、トラウマ的状況を乗り越えることは誰にとっても簡単なことではありません。だからこそ、PTSDに苦しむ人がたくさんいるのです。人生と折り合いをつけるためには、痛みを癒す必要があります。幸せになるためには、自身を縛り付けている鎖を壊す必要があるのです。

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  • Levine, P (2015) Trauma And Memory. North Atlantic Books