チャルディーニによる説得の法則とは?
説得とは、信条や態度、意図、モチベーション、そして行動に与えられる社会的効果のことです。これは、思考や行動を変化させようという試みに基づいて行われるマニュピレーションの一形態でもあります。説得の法則は、言葉を使って他者に影響を与え、望む変化を達成しようとするものです。
ロバート・チャルディーニは、説得について研究する学者たちの中でも飛び抜けています。彼はアメリカ合衆国の心理学者で、様々な説得術を六つの基本法則へとまとめた人物です。これを実現するにあたり、チャルディーニは車のセールスマンとして働いたり、チャリティ団体やマーケティング会社に勤務したり、その他の似たような仕事を実際に経験しました。
それらの職に就いている間、彼は自身の心理学の知識を実践に移し、その効率性を証明しようと密かに実験を行なっていました。ここからは、チャルディーニが自身の説得術の土台としている六つの法則についてそれぞれ説明していきます。
ロバート・チャルディーニは、説得術を以下の六つの基本法則にまとめました。それが、誓約、見返り、社会的証明、権威性、好意、希少性です。
誓約と一貫性
一貫性の法則による影響力は、スタンスや行動が一定時間ずっと首尾一貫している人になりたい、あるいは見られたい、という願望を基にしたものです。この法則では、人は自身が誓約した内容と一致しているものであれば要求を受け入れる可能性が高くなる、と考えます。この考え方を用いた中でも特に有名なのが、「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」や「ロー・ボール・テクニック」などのテクニックです。
フット・イン・ザ・ドア・テクニックではまず、対象の人物に小さな誓約を依頼するところから始まります。相手が同意してくれるようにその依頼の内容はあまり労力やお金がかからないものにし、本当の目的と関連があるものにしなければなりません。相手がその依頼を受け入れらたら、次はもう少し労力を要することを頼みます。これこそが、そもそも本当に望んでいたリクエストなのです。すると、その依頼を断ればその人物は一貫性を失ってしまうことになるので、二つ目の願いも受け入れてくれる可能性が高くなります。
ロー・ボール・テクニックでは、まず根拠や条件に基づいた受け入れやすい取引を提示し、その後それらの根拠を取り除いてあまり望ましくない要求を提示していきます。しかし、最初の好条件の時にすでに受け入れてしまっている手前、一貫性を持たせようと次の条件にも同意しやすくなるのです。これは、現存する説得術の中でも特に有効性の高いテクニックです。
見返り
普通人は、受けた恩は返さなければならない、と感じています。見返りの法則は、対人関係における恩の貸し借りのバランスを保とうとする人々のニーズに関するものです。そのため、私たちは人から何かを受け取ると、その見返りとして何かを返さねば、という衝動に駆られます。もし他人から何らかの情報を得たいのであれば、最も簡単な戦略はその相手に対してまずは自らの個人的な情報を伝えることです。小さな告白やその他の情報でも構いません。そうすると、この相手はその見返りに自分も何か言わねばならない、という義務感を感じるのです。
人は、自分が受けたのと同じ扱いで他人と接する傾向があり、この性質のせいで私たちは非常に効果の高い説得術のいくつかに屈してしまいます。この法則を採用する方法はシンプルです。わかりやすい例としては、サプライズでギフトをもらったり特別割引を受けたりする状況が挙げられます。受け取るギフトが個人的なものやよく配慮されたものであればあるほど、この心理的メカニズムの影響力は高くなります。基本的に、この法則は相手からの見返りを得るためにこちらから何かを与えることで成り立っているのです。
社会的証明あるいは合意
一般的に、人は大多数の人々が行なっている行動を正当なものだと見なす傾向があります。全員がその行為をしているのであれば、そこには何らかの意味があるはずだ、と考えてしまうのです。そして自らも承認してもらうためにその行為を行います。誰もがある集団内で認められたいと思っており、それが失敗に終わるリスクを減らそうとして他のメンバーと同じように振る舞おうと考えるのです。
私たちが大多数の見解に従いがちな理由は、この心理学的メカニズムによって説明することができます。人には、他の人々がすでに受け入れているのであればそれを受け入れ、多数の人に拒絶されているものは同じように拒絶するという性質があるのです。この性質は頻繁に表出します。例えば、ある商品に良いレビューがたくさんついていると、私たちがそれを購入する可能性は高まりますよね。また、ソーシャルメディアでのフォロワーが多いブランドを見つけると、自分も同じようにフォローしたいという気持ちが強まります。
権威性
権威性の法則では、権威のある人物から圧力を与えられると仕方なくそれに従ってしまうという私たちの性質を利用します。この権威とは権力の濫用とは関連しておらず、むしろ信頼できそうなオーラやその権威から押しつけられる社会的地位などに関するものです。私たちは指導者的立場にいる人々には普通の人よりも深い知識や豊富な経験、そして意見を聞かせる強い権利がある、と考える傾向があります。
権威性の法則に取り入れられているのは、ヒエラルキーとシンボルという二つのカギとなる要素です。ヒエラルキーという考え方の根底には、上位の立場にいる人々には他の人々よりも豊富な知識や経験が備わっているはずだ、という思い込みが存在しています。一方で、シンボルからは信頼できる人だという印象が与えられます(警察の制服や医師の白衣、その他様々な学術称号など)。この例としては、著名人が自身のメインの活動とは直接的には関わりのないことだとしても、ある製品を勧めたり何らかの思想を擁護したりする役割を果たすことが挙げられます。その分かりやすい具体例が、『ドクター・ハウス』というテレビドラマで医師を演じたヒュー・ローリーという俳優の例です。彼は本物の医師ではないにも関わらず、医薬品の広告塔を務めていました。
好意
共感の心や互いの類似性を持ち合えている相手の場合、説得するのはより簡単になります。好意、または親切心や喜び、共感の法則は、一見するとシンプルに見えるかもしれません。私たちは好ましく思う人々になら影響されても良いと考えており、反対に嫌っている人々からは影響されたくないと考えます。
美しさや共通点、親しみやすさ、褒め言葉、お世辞などが、好意を引き出して私たちを誘惑する要因です。 企業が宣伝にモデルや有名人を使うのは、好意や親しみやすさの法則を利用するためなのです。政治に関しては、政治家がコミュニティの他のメンバーと同じ問題を自身も抱えていることを示そうする様子はよく目にしますよね。
希少性
人には、リソースが全ての人に十分な量用意されていると信じる明確な傾向があります。しかし、あるリソースが希少なものである場合、私たちはそれを他のものよりも価値が高いと感じます。製品やサービスの希少性に制約を与えるのは、時間や手に入りにくさといった要因です。一般的に、希少性を感じ取ることで需要が生み出されます。
タイムセールや限定発売などの時間制限付きのオファーが、現実世界に取り入れられたこの法則の姿です。入手するのが困難であればあるほど、大衆の目にはより価値が高く映ります。同じことが、禁じられることでも起こります。ある物質が禁じられると、結果的に人々の関心は高まるのです。この明白な例がドラッグです。
ここでご紹介した説得術は、企業が私たちから望んだ結果を得るために広告キャンペーンなどで散々使われています。しかしこれで皆さんにもお分かりいただけたと思うので、これからは説得術を暴き出し、そこから受ける影響をコントロールしてみましょう。