大うつ病:原因
うつ病と聞いて、孤独で悲しい、または、ずっと泣いているというイメージが浮かぶ人は多いでしょう。うつ病と悲しみは同じなのでしょうか?
確かに、うつ病と悲しみに関係性はあり、同じ線上にはありますが、大うつ病は、崖っぷちにいる状態です。うつ病と悲しみは同じではありません。
感情には、適応性という重要な機能があります。それが、ネガティブであっても、ポジティブであっても、私達には、置かれた環境で正常に機能するような仕組みがそなわっています。悲しみは「ネガティブな感情」ですが、それも健康的であり、適応できるようになっているのです。人間として生き残るために、悲しみに耐え進化してきた結果でもあります。
例えば、愛する人を失くした時、どうしようもなく悲しくなります。心が痛み、その悲しみにうまく対処しても、時間はかかり、いくつかのステージを通過する必要があります。そのステージを乗り越え、喪失の前の状態まで回復することができれば理想的です。もちろん、前の状態まで戻ったとしても、とても大切であった愛する人を思い出し、寂しくなることはあります。
悲しみは、目的のある、健康的で必要なものなのです。悲しい時は、その悲しみを感じることが一番です。自分は悲しくないと否定したり戦おうとせず、悲しみを感じることで、少しずつ悲しみは消えていきます。
大うつ病とは?
大うつ病と悲しみは同じものではありません。大うつ病は病気であり、適切な治療が必要です。原因をお話しする前に、大うつ病の定義について触れておきます。
大うつ病は、様々な重大な症状をいくつか同時に抱え、それが2週間以上続くものと定義されています。悲しみ、うつ、今まで楽しんでいた活動に対する喜びの喪失(アンヘドニア)の症状が一つでも見られると、大うつ病と診断される可能性があります。
しかし、これらの症状だけで大うつ病とは言い切れません。日々の生活に大きな支障が出ることも、大うつ病の特徴です。
また、下記を満たす場合、大うつ病ではありません。
- その症状は、病気や薬物摂取などが原因で起こったものである
- その症状は、愛する人の死に対する痛みや反応である
躁病、軽躁病エピソード、統合失調症やその他の精神疾患を患う人が、大うつ病と診断されることはありません。
大うつ病の原因
大うつ病の発症には、複数の要因が関わります。科学雑誌を見ると、それを説明する理論がたくさん出ています。
生物学の世界では、脳の化学物質、特に神経伝達物質であるセロトニンの均衡が崩れることが、アンヘドニアや深い悲しみの原因になっていると言われています。
ただ、この生物学的不均衡がうつ病の原因、また、関与していると確証はされていません。まだ、脳内のセロトニン値の低下がうつの原因になっているとは言い切れないのです。
心理学的理論もあります。近年、最も支持される理論です。アーロン・ベックの理論が有名なのには、二つの理由があります。
- 理論的前提に基づいた情報処理論が用いられている。
- この理論が勧める認知療法は、薬物療法よりも効果が大きいことが実証されている。また、副作用や再発のリスクが低い。
ベックのうつ病理論から学ぶこと
サポーター(自分の行動に対するポジティブな結果)を失った時、また、喪失に対し自然とあふれる悲しみにより、人は認知的ミスを起こします。
情報処理の過程でいくつかの不具合が生じ、それが大うつ病を発症させることになるのです。つまり、落ち込んでいる人は、情報を取り入れる際、客観的に物事を判断できなくなります。その結果、現実をネガティブで満たしてしまうのです。
落ち込んでいる人が陥りがちなミス
- 周囲で起こることをネガティブに捉える
- ポジティブなことが減る
- これらのネガティブなことから生じた結果を誇張
- 変化することなく、このような状態が続くと考える
落ち込んだ人は、自分を、このようなネガティブな世界に浸らせます。自分や経験に対し、常にネガティブになり、さらには、将来に対しても、悲観的になります。
このように認知的に歪んだ情報処理が、感情的(深い悲しみ、無食欲症、空虚感など)や行動的問題(無気力、抑制など)を起こすとベックは言います。
そして、これらの感情的・行動的問題が人のネガティブな思考を助長することになります。また、ベックの理論は、遺伝や性格、ホルモン、個人の情報処理の仕方など他にも重要な要因があることも考慮しています。
大うつ病の治療
うつ病・臨床的うつの治療は大きく二つに分類されます。脳の化学的均衡を再構築するための薬物療法と、心の状態や生活上重要な機能を果たす能力を向上する心理療法です。専門家の判断の下、個人の症状にあった治療が行われます。
中でもよく使われる薬に、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)があります。これは、三環系抗うつ薬、モノアミン酸酵素阻害薬(MAOI)と比べ副作用が少ないため、よく使われています。プロザック(フルオキセチン)やSSRIについて聞いたことがある人もいるでしょう。
これらの薬は、名前の通り、セロトニンが素早く吸収されすぎるのを防ぎます。吸収されない分、脳の神経細胞の間にある小さなスペースにセロトニンが分泌された時、効果を発揮することができるのです。薬物療法は何か行動を起こしたいと思ったとき、最初の衝動のような働きをします。
これに対し、最新の認知行動療法は、最も効果的である言われる心理療法です。自分の生活、感情、行動などに対し、歪んだ認識をもっていることが原因でうつ病を発症したと考えられる場合、認知パターンを修正することが必要なためです。
人の考え方を修正することが目的です。そのパターンやアイデンティティを修正するための方法を学びます。考え方を変えることにより、かつて楽しみにしていたのにやめてしまったことを再開することにつながります。また、新たなことを始める機会にもなります。
行動修正によるうつ病の治療
心理療法は、人の考え方や信念を変えることから始めるのではありません。行動の活性化から始めます。専門家の指導の下、日々の生活でいくつかの異なる作業に取り組んでいきます。その目的は、かつて持っていた情熱や喜びを取り戻すことにあります。
コントロールと喜びを含む作業を行います。コントロールに関わる作業で、自分は負け組でないこと、無駄でないこと、能力があると思うことができます。例えば、レッスンを受けるなどです。喜びに関わる作業は、リラックス効果があり、楽しむことができるものです。買い物、散歩、友達に電話するなどがあります。
落ち込んだり、うつ病にかかると、やる気が出ず何もしたくなくなります。物事に意味が見出せなくなるのです。エネルギーを失い、自分には関係ないと考えます。言い訳ばかりがうかびます。そこで、専門家がそれらの行動や言い訳を分析し、それが病気による症状なのかを判断します。そして、無気力から回復するために手助けしてくれます。
認知的修正による大うつ病の治療
認知療法は、ネガティブな思考や信念を修正する方法で、認知機能を再構築し、行動検証を行います。異常にネガティブな考え方を、現実に沿った視点で考えられるように変化させることが目的です。患者が、それは、考えるほど悪いことではなく、自分で対応できるものなのだと気づくことができます。
さらに、行動検証により、自分の歪んだ考え方に気づきます。まず、専門家が活動や行動を提案します。そして、患者はそれにより何が起こるかを考え、紙に書きます。最後に、患者は提案された活動や行動を実行し、専門家と一緒に実際はどうだったか分析します。
さいごに、様々な療法があることを頭にいれておきましょう。自分が活動しているところを想像し、感情を修正する理性感情イマージェリーといった方法もあります。さらに、マインドフルネスという気軽に始められる方法もあります。これは、今ここを意識し、身の回りでおこること、現実を受け入れる、積極性のある問題解決法です。一人一人に合った療法を行うことが大切です。
参考資料
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