過酷な生い立ちが成人後の人間関係に及ぼす影響

幼少期のトラウマが残した傷は、その人の現在の人間関係を左右することが多いものです。読み進めてもっと詳しく学んでいきましょう!
過酷な生い立ちが成人後の人間関係に及ぼす影響

最後の更新: 21 3月, 2021

不安、感情的依存、低い自尊心、虐待の伴う関係性など…。過酷な生い立ちが成人後の人間関係に及ぼす影響について判断するのは、絡んでくる要因の多さゆえに簡単なこととは言えません。事実、心理学者たちは長年に渡ってこのテーマについて研究を続けてきました。結局のところ、人はそれぞれ個別の存在であり、虐待を受けたり愛情をもらえずにいた幼少期を過ごした後に当人に降りかかる影響も各人によって変わってくるのです。

ただし、ある一つの事柄がほぼ全てのケースで根底に存在しています。それは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)がもたらす闇です。ここで、情緒的発達のためには幼少期の経験一つ一つが重要な意味を持つという事実を思い出しておきましょう。子どもの頃に経験する全ての事象が、その人の心の健康や精神的な弱さの土台をおおまかに形作っているのです。

アガサ・クリスティーは、「人生で人の身に降りかかる最も幸運な事柄のうちの一つは、私が思うに、幸せな子ども時代を持てることだ」という言葉を残しています。残念ながら、これは全ての人が経験できるものではありません。驚くべきことに、壊れて粉々になった過去を抱え、傷口が開いたまま生き続けている人が世の中にはたくさんいます。そしてそういった要因は彼らの現在に影響を及ぼし続けているのです。

生い立ちの過酷さが成人後の人間関係に及ぼす影響

幼少期のトラウマを抱えている人は、意外と多いのです。チューリッヒ大学、バーモント大学、バージニア・コモンウェルス大学が共同である実験を行いましたが、参加した子どもたちの約60%がトラウマ的事象を経験したことがあった、と研究者たちは結論づけています。

これが非常に大きな数字であることは間違いありません。ただし、生後数年間のうちに個人が経験し得る苦境的事象は実に多様であるということを心に留めておく必要があります。例えば、親から捨てられる、愛する人が死んでしまう、家庭内暴力を目撃する、虐待を受ける、精神的虐待を受ける、十分に関心を向けてもらえない、いじめの標的になる、など様々なのです。

また、過酷な幼少期は生涯を通じてその人に長く複雑な闇を与え続ける、という事実もこの研究で指摘されました。このせいで様々な精神障害に苦しむリスクや、他人と関係性を築きづらくなるリスクを負うのです。

そろそろ、過酷な生い立ちが大人になった後の人間関係にどんな影響を及ぼすのだろう?と疑問に思い始めた方がいるかもしれません。ご興味があれば、ぜひ読み進めてください!

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アイデンティティ発達の問題

アイデンティティの土台は、幼少期および思春期に形成されていきます。大人になってからもその発達が続くのは事実ですが、そのためには柱の強化も必要です。基本的に、人は自分自身および他者を信頼できるようにならねばなりません。これは、身近な人々、つまり安心できる愛着を与えてくれる人々を通して達成されていきます。

拒絶されている、身の危険が脅かされている、と常に感じながら育ってきた人々の脳発達には有害な影響が及ぼされます。苦悩を感じ続けることで、強くて楽観的で自信に満ちたアイデンティティを確立する機会が妨げられてしまうのです。これにより、自分の望みが何であるかが分からない大人になってしまうので、良質な人間関係を築くことが困難になります。

誰にも埋めることのできない心の穴と、破壊的な人間関係

過酷な生い立ちが大人になった後の人間関係に及ぼす影響は、非常に頻出するパターンに垣間見られます。そのパターンとは、空虚感を感じることです。ハードな子ども時代を過ごしてきた人々は、成人期に達すると「何もかもが間違っている」と感じるようになります。そして心が空っぽであるかのように感じますが、それがなぜなのかはわかりません。そのため、本人もほとんど気づかぬうちに他者を求め、その人たちに自身の渇望や複雑な幼少期が残した溝を埋めてもらおうとするのです。

上記のような理由から、強固で満足のいく関係性を築くことが非常に困難です。大抵の場合、他者に全てを期待し過ぎてしまい、結局フラストレーションを感じたり自分が傷つく結果になってしまいます。信じ難いかもしれませんが、幼少期にトラウマに苦しんだ人々は大人になってから破壊的な人間関係を築くことが多いのです。ただ誰かにそばにいて欲しいがために、例えば相手から操られたり騙されたりしてもそれに耐えますし、有毒な恋愛あるいは友人関係でも我慢します。心の穴を埋めてくれるなら、寂しさを薄めてくれる人なら、他のことはお構いなしなのです。

愛着障害

過酷な幼少期がもたらす影響の一つに、愛着プロセスの変容があります。恐れることなく自由に愛を与えられるような、成熟した安全な愛着を確立することが健全だという事実は誰もが知っていますよね。

しかし、子ども時代にトラウマに苦しんだ人は、誰かと愛情関係を結ぶ際に愛着変容の問題を経験する可能性が高いのです。以下に、よく見られる他者との関係性の問題を挙げています。

  • 恐れ・回避型の愛着。この愛着スタイルを持つ個人は、再び傷つけられることを避けるために、自身の独立性を維持しようとします。恋愛を始めようとすると、十分に相手を信頼できない、相手に心を開くことができない、100%の愛情を与えることができない、といった問題が常に立ちふさがります。
  • 不安型の愛着。これは回避型とは正反対なタイプです。この愛着スタイルを持つ人の場合、他者と繋がりたいという大きな欲求が存在します。その依存心の巨大さゆえ、幸せを感じるどころか恐怖しか感じることができません。相手が自分の元を去るのが、あるいは愛してくれなくなるのが怖いのです。
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過酷な生い立ちは成人期の人間関係にどう影響するのか?

どの子どもも皆、親から愛され、お世話してもらいたいと願っています。多くの場合、子どもたちは親を喜ばせるため、誇りに思ってもらうため、そして関心を持ってもらうためならどんなことでもやります。そして少しずつ、ただ認められ、評価され、愛されるためだけの偽物の自己を作り上げていくようになるのです。その間、この絶望的な仮面が自身に統合され、それをほぼ全ての状況で利用するようになります。

つまり、友達を作るために、他人から気づいてもらうために、そして親の代わりに自分を愛してくれるパートナーを作るために、この有毒な行動を繰り返すようになるのです。この「偽の自己」戦略がうまくいく場合もありますが、「本物の自己」が助けを求めて叫び出す日がやがてやって来ます。心の奥底には怒りやフラストレーション、苦悩、深い悲しみが存在しているのです。こういった隠れた感情が何らかの形で最終的に浮き出て来てしまいます。

“表出していない感情が消えることは決してない。それらの感情は生き埋めになっていて、後々もっと醜い形で姿を現すのだ”

-ジークムント・フロイト-

辛い生い立ちが大人になってからの人間関係に及ぼす影響は何か?という問いに対する答えは、簡単に言うと「不幸」の一言に要約することができます。適切にケアされないままになっている傷だらけの子どもが心の中にいる状態では、大人として正常な人間関係を育むことは困難です。そこから抜け出して前進し、バランスとウェルビーイングを獲得するためにはそのトラウマをどうにかしなくてはなりません。

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子どもは、幼少期にアイデンティティを形成し始めます。トラウマ、ネグレクト、虐待は、大きな影響をもちます。子どもに起こりうる最悪なもののひとつが、幼少期を奪われることです。2つの状況がありえます。ひとつは、幼少期はなかったと感じるケースです。幼少期がなく、飛び越えて、大人になったかのようです。



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